第21話「圧倒的ではないか我が軍はっ!!」其の二




第二十一話「圧倒的ではないか我が軍はっ!!」其の二




「俺の名を言ってみろぉぉ」


「お、お前は…… 北都の猪人っ!!!!」

「ば、馬鹿なっ!! 何故中部の猪人がっ!?」



 辛うじて意識を保っているハードとワンポだったが、首の骨を鳴らしながら歩いて来るジャキを見て腰を抜かした。さすがに3m近い巨体を持つジャキには悪態を吐けないようだ。



「俺の名を言ってみろぉぉ」


「し、知らない、本当だっ!!」

「も、もしや、貴方があの北都四兄弟の……ケンぶべらぁぁぁ!!」


「誰がケンジロウだ犬野郎、ぶっ殺すぞ。俺は…… あっ、俺は南都四兄弟の次兄、ジャキだ。覚えておけ」



 あっ、って何だよ、南都四兄弟? 初耳ですね。

 ミギカラやツバキが首を傾げているじゃないか。



「テメェらは南都四兄弟の縄張りを侵した、沙汰は帝王たる長兄が告げる。ミギカラ、頼むぜ」


「クックック、ジャキ殿に美味しいところを持って行かれましたな。さてハード、そしてこの場に居る愚か者共よ、刮目せよ、我らが帝王の降臨である」



 来たキター!! 行くぜヴェーダ。


『了解しました』



 俺は勢いよくジャンプして外壁の上に着地、雄叫びを上げながら怒涛のドラミング。


 ドドンドドンと夜の森に重低音が響き渡り、俺を知らぬ者達に恐怖を植え付ける。


 ドラミングを終えて敵を見渡す。

 よし、誰も逃げていないし気絶もしていない。


 ここからが本番だ。


 夜空に向かってジャンプ、月を背にして『大猩々Lv1』を発動。

 闇夜に金色の光を放ちながら着地。


 外に出たヴェーダが三割増し強く光を放ちながら、俺の肩に掛けた鹿革の腰巻を俺の腰に巻き、もう一つのアイテム『アカカブトゥのマント』を俺の背に被せた。


 実はこのマント、首の部分が分離したアカカブトゥの毛皮で出来ているのだが、首が無いと見た目が悪いと言う事で、首と胴を酒と共にマハーカダンバの洞に入れ、アートマン様に首と胴を繋げてもらった。


 しかも、ツバキが受け取った毛皮は、通常より柔らかい状態までナメし加工されており、銀の鎖が付いたマントとして使えるようになっていた。


 ママンの優しさが背中を包む。有り難い事だ。あふん。


 男衆が足元に跪き、俺のアハトマイトナイフを差し出す。

 それを受け取って腰巻のベルトに差し、右手を上げて全ての男衆に合図を送り、俺の背後で片膝を突かせる。


 たまんねぇなぁオイ。素晴らしいステージの始まりだ。


 夜のステージ、照明は月明かり、観客は満員御礼。

 大熊のマントを靡かせる主人公と、金色に輝き宙を舞うヒロイン、完璧だ。


 これぞ、『舞台は整った』ってヤツだな。

 さて、久しぶりにオープニングの口上を述べるとしよう。



「紳士淑女の皆様、我が王国『ガンダーラ』にようこそ。今宵のステージは『天女達の輪唱』で御座います。開演中は席を立たずに御静聴お願い申し上げる。……さぁ眷属の諸君、始めよう」



 俺の合図とともに光り輝くヴェーダが空高く舞い上がり、ヴェートーベンの交響曲第九番、第四章『歓喜の歌』をドイツ語で独唱開始。


 心を落ち着かせる澄んだ声音こわねがヴェーダの神秘性を増幅させ、観客達を瞬く間に魅了する。


 ヴェーダの周りに集まるサオリ中隊、ヴェーダは彼女達に念話で歌詞を教え輪唱させるとともに『第九』の生演奏を皆の脳に届けた。


 そして次第に集まって来る妖蜂族、ツバキが砦から大隊を率いて来た。ツバキ達はアカペラで第九を奏でる。


 シタカラ達や女衆も子を抱いて集まり、男衆の背後で片膝を突く。チョーは放置だ。


 オキク工兵中隊が鉄の槍を右手に持ち、観客達を低空で囲む。


 俺は観客の前を歩きながら指揮者の真似事、目が合った淑女達にウインクは忘れない。


 ジャキはいつの間にか外壁に上がり、ジャキガールズと酒を飲みながら夜のステージを楽しんでいた。


 ラヴがこの夜の事を聞いたら『もうヤダ間諜』と言うだろうな。それほどまでに素晴らしい輪唱だ。


 観客達は既に口パクで歓喜の歌を復唱している。敵地に居る事など忘れているのだろう。



 約10分間続いた夜の幻想が終わると、観客達からスタンディングオベーションを頂いた。ハードとワンポは呆然としていたが、心はしっかり折れたようだ。


 精気を撒き散らすヴェーダが俺の横に浮かび、美しい妖蜂族が俺の背後でホバリング。


 観客達は一気に現実へ引き戻される。


 大量に精気を放つ巨大な俺と、東浅部最強の妖蜂族、金色に輝くヴェーダ、灰色の肢体を持つゴブリン達、外壁上で宴会中の北都猪人改め南都猪人とゴブリンガールズ。


 早々に武器を手放し降伏の意を示す観客達に、俺は拍手を送った。

 ハードとワンポは未だ現実逃避を続けている。困った奴らだ。

 この二人は火魔法が使えるので、なるべく殺したくない。さて……


 俺は二人の前に立ち、先ずハードに告げる。



「チョーの助けは無い。降伏か、死か、選べ」


「……え? あ、あぁぁぁ」

「わ、我がマッシ=グラ氏族は、貴方様に降伏致します」

「ままま待て、俺も、俺達スカト=ロウも降伏するっ!!」


「うむ、そうか。しかし、虚偽は赦さん。眷属化を受け入れないなら……殺す」


「眷属化…… なるほど、分かりました。コボルトの偽り無き忠義を御覧頂きましょう」


「こ、ここまで力を見せられたら是非も無い。俺達も、眷属の末席に加えて頂こう」


「重畳、では並べ。眷属化の後は宴だ」



 ミギカラ達が勝鬨を上げ、真夜中のステージに幕を下ろした。

 眷属化は二時間以上続いたが、誰も失敗する事無く眷属化出来た。


 眷属化した者達には順次ヴェーダが念話を送って『新人教育』を施した。


 マハトマ・コボルト百二十一名、マハトマ・ゴブリン百五十八名が新たな眷属として加わった。


 総眷属数=1,202名。男190名、女1,012名


 ハードやワンポは強力になった自らの肉体を喜び、氏族の皆を集めて俺とヴェーダの前に跪き、深い感謝と忠誠を誓った。


 ハードは現金な奴だな。まぁ、大森林的と言えば良いのか、これが普通だろう。


 ヴェーダが『寒い』と言って俺の中に入ると、ハード達から驚嘆の声が上がる。俺もそろそろ猿人に戻ると皆に告げたが、ツバキを始めとする妖蜂族達からストップが掛かった。まったく、ワガママな子猫ちゃん達だ。



 無血の初陣は終わった。

 大猩々のまま皆を引き連れ拠点内に戻る。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 初めて見る拠点内の風景、豊富な水や清潔な環境に度肝を抜かれた新眷属達は、神像の前に辿り着くまでミギカラ達に質問を繰り返していたが、途中でヴェーダが眷属ネットワークを使って説明していた。


 教育はヴェーダに任せれば間違い無い。


 新たに加わった眷属達を神像の前に整列させ、俺が供物を捧げてアートマン様とマハーカダンバの力を理解させる。


 供物が洞に吸い込まれる現象や、素材が俺の手元に戻って来る事、俺の願いとして乾パンや干し柿など様々な物を下賜されるといった怪奇現象を見た新眷属達は、それはもう平身低頭してアートマン様を拝んだ。



 次は論功行賞だ、第一位はサオリやイオリが所属するサオリ中隊。彼女達の偵察が俺達の作戦をスムーズにさせた事は言うまでも無い。


 彼女達百三十一名全員に美肌クリームを下賜した。物凄い喜び様だった。女王姉妹が持つセット内にある一つだ。喜んで当然か。



 第二位はミギカラ。彼の演説は威厳に満ち、氏族長として申し分ないものだった。彼が稼いだ時間のお陰で、俺のマントは間に合った。


 彼には俺が鍛えた鉄の剣をマハーカダンバの洞に入れ、アートマン様に改造してもらった『鋼の剣』を下賜した。


 黒い牛革で包まれた鉄製の鞘付きだ。柄も牛革が巻かれている。ミギカラは泣いて喜んだ。他の男衆にも鋼のナイフを下賜して拠点守護の任を労った。



 第三位はジャキ。ジャキは二百の敵兵を一瞬で無力化した、コイツのお陰で無駄な戦闘も起こらず、俺の登場は完璧なものになった。


 ジャキの要望で食べ物セットを下賜する事になった。物凄く安上がりなヤツである。早速、ガールズ達とムシャムシャ食べている。



 第四位はツバキ。女衆を纏め、マントを最高の状態で持って来てくれた。彼女に銃後を任せる事が出来る俺は贅沢と言える。


 彼女にはマハーカダンバの周囲に咲く花々から香りエキスを抽出して聖泉の水で加工されたという『聖華の香水』を下賜した。香水を受け取ったツバキは「あらあら」と言いながらオキクやイオリに自慢していた。



 論功行賞の後は宴会だ。気絶中のチョーは相変わらず放置。

 FPで大量に干し芋などを購入して皆に配った。


 美肌クリーム=600FP×131

 鋼の剣・鞘付き=500FP《鉄の剣加工・牛革/鞘無料特別価格》

 鋼のナイフ=200FP×13《鉄のナイフ加工・牛革柄無料特別価格》

 干し物詰め合わせ=50FP

 聖華の香水=300FP

 宴会用飲食セット=15,224FP


 FP残高=372万7,721


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