第20話「圧倒的ではないか我が軍はっ!!」其の一




 第二十話「圧倒的ではないか我が軍はっ!!」其の一




 拠点の西側と南側に陣取ったゴブリン・コボルト連合。

 西にコボルト百二十一名、南にゴブリン百五十八名の布陣だ。


 サオリ達が様々な場所から見ている敵の陣容、それをヴェーダが精査しつつ取捨選択し、俺の眼前に八つの映像として浮かべている。


 流動的な戦場に対応すべく、状況に応じて視点を切り替えていくようだ。名参謀である。


 それはさておき、敵の数が若干増えた。


 集落から敵が居なくなったあとでサオリが一個小隊を派遣して小屋を調べたところ、どうやら敵は集落の小屋内で地中に穴を掘り、その中で総人口が周囲に悟られないように生活していたらしい。


 ゴブリンの集落に在った小屋の数は大小合わせて十八、コボルトもその中に潜んでいた。地中で蟻の巣のように繋がっていたのかも知れない。


 何があるか分からない地下室を調べるのは戦いの後だ。


 現在俺達は集会所で会議中。


 会議のメンバーは先ほどとあまり変わらない。俺とジャキと十名の男衆のみ。サオリ中隊は現状維持、その他の妖蜂族を含めた女衆は砦内でくつろいでいる。


 状況が分からない砦内の彼女達の為に、ツバキと各隊長にヴェーダが逐次報告を入れている。


 捕虜となったチョーの監視は必要無いと思うが、シタカラと男衆三人に槍を持たせて、チョーの首筋に四方から槍の穂先を当てておくように指示した。チョーはピクリとも動けないだろう。


 ジャキが臭い屁をブッこきながら俺の干し芋を口に入れ、凄まじい早さの貧乏ゆすりを披露している。戦いたくて仕方が無いといった感じだ。


 だが俺は戦わずに奴らを平伏させようと思っている。


 俺やジャキは別格だ、敵との総合力に開きが有り過ぎて勝負にならない。ミギカラ達マハトマ・ゴブリンズなら好い勝負になるだろうが、相手の数が多い為、無傷の勝利は無理だ。


 ここは一致団結して完全勝利を収め、信仰心篤いアートマン信徒を増やす事にする。


 一同を見渡して俺の作戦を告げ、各自を配置に就けた。

 ジャキからは不満と笑顔の二つをもらい、眷属からは『危険だ』と終始反対の意見をもらった。


 だが、ここは退いてくれとお願いしたら、渋々従ってくれた。スマンな。


 作戦の為、俺は猿人に戻っておく。



「では諸君、作戦開始だ」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 月明かりに照らされながら、ミギカラが外壁の一角に立つ。彼の背後に二人の男衆が侍った。カッコイイぞお前ら。


 夜目の利く森の魔族達がミギカラと二人の男衆を見て驚きの声を上げた。


 奴らは何者なのか? あの肌色は?

 腰に差してあるのは鉄のナイフか?


 ゴブリンとコボルト達の騒ぎは収まらない。騒ぎを収めるべき族長二人が騒いでいる。


 おおむね予想通りの展開だ。


 このあとはミギカラのターン。俺はツバキに頼んだ“マント”と鹿革の腰巻が届くのを待つ。




「俺の名はミギカラ、大神アートマン様を崇め奉るマナ=ルナメルの族長にして『南の帝王ナオキ・ザ・グレイト』が眷属。この聖地に何用か?」



『あれ? あのシブい彼ミギカラさんだよね?』そんな声が敵軍の女性ゴブリンから聞こえてきた。吹きそうになるのを堪える。



「俺はスカト=ロウのハードだ。久しいなミギカラ……」

「ハードか、永く見なかったが…… して、西側を率いる者は誰か?」


「あ、あぁ、私だ。マッシ=グラ氏族族長のワンポだ……」

「ほぅ、貴殿が…… それで? 何の用があって夜分に大軍を?」


 ミギカラが余裕の表情で両族長を交互に見遣った。背後の男衆は不動を貫き正面を見つめている。なかなかモノになっているな。


 ミギカラ達の様子を見たハードとワンポは、互いに目を合わせて頷き合う。


 交渉はワイルドがするようだ。ワンポがコボルト語で『弓に矢を番えておけ』と命じた。俺には丸聞こえだし、ミギカラ達にも『理解』出来てるぜワンポ君。


 ミギカラ達の額に青筋が浮かんだ。今は我慢だぞ。

 ハードが一歩前に出て交渉開始のようだ。



「さてミギカラ――」

「ハードよ、返答は如何に」


「待て待てミギカラ、そんな怖い顔するな。俺達は仲間を探している、夜の狩りでこっちへ向かった“ハイゴブリン”が居る、“ハイゴブリン”が、な」


「ふむ、ソイツを探す為に二百を超える兵を動かした、と?」


「ああ、そうだ。何せ“ハイゴブリン”様だからな、失う訳にはイカン。お前なら分かるだろう?」


「はて、“たかが”ハイゴブリン如きを捜索する為に、昼の作業で疲れた一族達を動員する必要があるのか……理解に苦しむな。南浅部で“迷子”になる者など、何の価値も無い」


「クッ、お前…… ハイゴブリンだぞっ!? “キング”に一歩近付いた強者だぞっ!?」


「キング? それがどうした、我が帝王の前ではゴミに等しい。してキングに数段劣るハイゴブリンなどゴミ以下、蟲の餌になる貴様の鼻糞より価値が低い」


「ミ、ミギカラ、もう一度聞く、お前が狂ってしまったのは残念だが、よく聞け、いいか?ここに、ハイゴブリンが、来なかったか?」



 さて、ハードが顔を真っ赤にさせて文書要らずの最後通告を突き付けてきた。そろそろ俺の出番だが……



「ダーリン、持って来ました」

「間に合ったか、神に感謝を、アンマンサン・アーン」

「アンマンサン・アーン。チュッ、頑張って」



 準備は整った。


 ツバキから受け取ったマントと腰巻を肩に掛け、ヴェーダがミギカラに準備完了を伝えた。あとはミギカラの合図を待つだけだ。



「――あぁ ハイゴブリンか、フム、来たな」


「そうか。彼は今どこに居る?」

「我らが聖域で寝ておるわ」


「……寝ている? フフッ、フハハハハ。そうかそうか、既に制圧し終わっていたと言う事かっ!! つまりお前が言う『南の帝王』とやらはチョー様だったわけか、脅かすなミギカラ。しかしチョー様をゴミ扱いした事は赦せんな、報告させてもらうぞ、お前は俺の下でこき使ってやる、ウエカラも寄こせ、可愛がってやる」


「下衆が、あのハイゴブリンは我が主が威圧だけで虜にしたわ。タワケ」


「……ミギカラ、チョー様の御力を見せつけられて混乱しているのか? それとも俺達にチョー様が死んだと嘘を吐いて帰還させ、お前達がチョー様を戴いて浅部統一を図るつもりか? はぁぁ、浅い、浅いんだよ考えが。マナ=ルナメルの如き弱小氏族が、チョー様を支えられるとでも? やめておけ、この世からお前の氏族が消えるぞ」



 ここでワンポもミギカラの説得に加わる。何故か悲壮感あるなコイツ……



「ミギカラ殿、悪い事は言わない、降伏してくれ。彼は……チョー様は、その、魔族を……狩るんだ、誰も止める事は出来ない。仮に貴殿が言う『南の帝王』が居たとしても、だ」



 ミギカラの青筋が物凄い事になっている。背後の二人も射殺さんばかりの視線を森に向けているな、そろそろ俺を呼べミギカラ。


 っと、ここでワンポが西の兵を前進させた。ハードもそれに倣って兵を動かす。梯子も用意しているようだ。



「ミギカラ、これが最後だ。黙って俺達を中に入れろ、拒否するなら――」


「拒否する」

「残念だ。射殺いころせ」



 ブヒィィィィィィィッ!!!!



「な、何だ、コレ、は……」

「い、威圧スキル、だ」



 大森林に木霊すジャキの雄叫び。膝を突くハードとワンポ。

 威圧スキルの乗ったその雄叫びは、矢を放とうとしていたコボルト達の身を一瞬で縛り上げ、棍棒を持ったゴブリン達を恐怖に陥れた。


 ジャキが南西の森から姿を現す。カッコイイなお前。




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