第12話「なめてんなー」




 第十二話「なめてんなー」




 再びプロゴリラーとして覚醒した俺は、様々な角度で魔王と格闘した。


 プロゴリラーの本気を味わった魔王は血反吐を撒き散らして消滅した。



『あんなアクロバティックな処理法が存在したなんて……お見事です』


「フッ、軽く右手を振っただけさ」



 わずかなケンジャタイムを惜しみつつ、重い腰を上げる。


 森に入ってから少し時間が経ってしまったので、『うんこじゃないアピール』ついでにオキクさんとイオりんに花を摘んで行こう。


 あ、新加入したディック=スキの女衆にも花が必要だな。


 オキクさんとイオりんには中隊の代表として個別に、ディック=スキの女衆にも代表でホンマーニに贈ろう。


 何か綺麗で可愛い花は無いか? 三種頼む。



『この辺りでは、日本の夏に咲く【夾竹桃キョウチクトウ】 【百日紅サルスベリ】 【芙蓉フヨウ】に似た花が在ります。すべて桃色系の花です』



 その三つでいこう。ありがとう。

 目を凝らし鑑定を掛けながら森を移動。

 早く帰って宴会したい。頑張ろう。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「こ、これを私に…… うふ、うふふ」

「わ~い、有難う御座いますぅ~。えへへ~」

「御神木様の周りに植えたく存じます賢者様」


「すまんな、花だけ摘む、ってのは花が不憫でな。せめて根ごとと思って、三つとも掘り起こして担いできた。妖蜂族にはあとで俺が東へ送り届けてもいい」



 オキクさんには夾竹桃、イオりんには百日紅、ホンマーニには芙蓉を贈った。


 夾竹桃と百日紅に似た花は木になる花で、夾竹桃が4m、百日紅は8mある。


 百日紅は少々デカ過ぎた感があるが仕方が無い、綺麗だったから。



「どうする? イオリさんのは大き過ぎたな。すまない」


「いえいえいえ、つるで根元と幹を縛って吊るして持ち帰りますとも!! そしてお城の門前に堂々と植えて自慢します!! 東は食用果実のなる木ばかりですから、とっても目立ちます!!」


「そうだな、私もそうしよう。『南の帝王』から『私に』贈られたと立て札にしっかり書いて植えよう。陛下もお許し下さるだろう。いやぁ~マイッタナ~ぐふふ」


「持ち帰れるなら構わんが、無理そうなら言ってくれ」



 隊員さん達は「中隊に贈られた」と理解したようだが、この二人は違うようだ。だが俺はそれを指摘するほど野暮ではない。


 ホンマーニ達は根が乾かないように少し水を掛けている。宴のあとに植えるのだろう。


 おやおや?


 うちの男衆が全員ディック=スキの女衆に混ざって手伝っている。


 しかも、男一人に対し女が複数の状態で楽しそうだ。


 うむ、イイネ!!


 さて、宴の前に最後の仕上げだ。

 皆を促し神像の前に集まる。


 ミギカラが俺の前で片膝を突き、今晩の供物を俺に渡す。


 俺は角ウサギ二羽と酒の入った小壺を神木マハーカダンバの『うろ』に入れ、二礼二拍手一礼で締め『儀式』を終える。


 妖蜂族はそれを黙って見ていたが、やがて驚愕の声を上げた。


 アートマン神像の宝玉が輝き、角ウサギの素材と『何かが入った透明の小瓶』が俺の手元に出現したからだ。


 俺は小瓶の中身を鑑定分析して……吹いた。



【神酒:贈答用アムリタ】


≪『神岩アハトマイト』の力を宿した聖泉『アムリタ・ファヴァラ』の聖水と妖蜂族の妖酒を、始原神アートマンが混ぜ合わせて加工した贈答用の神酒。信仰心篤き御子に贈った『母心』であり、『これを御客様に差し上げなさい』という思いが込められている。

 効能は完全回復薬『エリクサー』や『銀丹』を超える至高の一品。不老長寿、滋養強壮に疲労回復、肉体強化と精気増強の効能が有る。不老不死や蘇生効果等を持つ『神甘露アムリタ』・『神酒ソーマ』・『金丹』の劣化版である。用法は経口摂取、おちょこ一杯で完全回復する。容器の小瓶は【貴石ダイヤマンズ】である≫



 これはヒドイ……ママが俺に甘い。


 遠方で一人暮らしをする息子に『お隣さんに』と地元の焼酎を送って来た母ちゃんと同じニオイがする。


 だが、これは有り難く頂戴しよう。

 ありがとう、ママン。


 股間に優しい風が吹いた。あふん。


 後ろを振り向くと、妖蜂族が唖然としていた。



「オキクさん、これを女王陛下に」

「……ふぁ、え? 今のは……こ、これは?」


「神甘露だ。我が神アートマンから賜った。女王陛下への贈り物に、と」


「し、し、し、神甘露ぉぉ!? そそそ、それはいったい……」


「エリクサーを超える完全回復薬だな。贈答用で不死の効果は無いが不老長寿と健康に役立つ効能が複数ある、一口飲むだけでいい」


「エリクサーだとぉぉ!!?? ふふふ不老長寿ぅぅっ!? そそそ、そんな物を、簡単に……」


「ははは、俺が敬愛する神は信徒に甘くてね。お優しい御方だよ。んあっふ」



 また股間を風が撫でた。

 三回撫でられた、有り難う御座います。


 オキクさんに贈答用アムリタの小壺を渡す。

 彼女は震える手で受け取った。


 ゴクリと喉を鳴らし、神像を見つめるオキクさんは、跪いて頭を垂れ、見知らぬ神アートマンに感謝を述べる。


 すると、オキクさんが「ひゃっ」と声を上げ頬を染めた。

 エッチな風ですね分かります。


 ゴホンと咳払いをして、オキクさんが俺に向き直る。



「私は『女神オッパイエ様』の加護をこの身に賜って二十と余年経つが、ここまでハッキリ『神の御業』と『存在』を認識出来た事は無い。アートマン様は相当上位の御方なのだな」


「それは判らんが、『始原の神』と呼ばれている。『お笑いの劇』が好きな、明るい御方だった。御本人が仰るには、信徒が少なくてお寂しいらしい。あの時は誰一人あの御方を崇め祀る者は居なかった。今も俺とその眷属以外信徒が居ないからな」


「なっ、たったこれだけの信徒数でこの御力だとっ!? 信じられんな……どちらの神様だろうか? いやいや、そんな事より、ナオキ殿はアートマン神にお会いしたのか? お話ししたのか?」


「ああ、この地に生まれる前に地獄行きから救って頂いた際にな。お姿は拝見出来なかったが、御声は聞いた。とても澄んでいて綺麗な、優しい御声だった。この地に親は居ないが、あの御方が親代わりかもな(そして今も撫でられた)」


「冥界行きを御止に……そうか、ナオキ殿は神の……ブツブツ」


「凄いですねぇナオキさん、えへへ、神様の息子、えへへ」


「まさか直接お声を賜っておられたとは、さすが賢者様です」


「主様、肉が焦げてしまいます。そろそろ」

「あぁ、すまんミギカラ。さぁみんな、集会所へ行こう!!」



 ようやく晩飯に有り付ける。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 やはり、酒が有ると盛り上がるな。


 男衆が数名、ディック=スキの女衆に引っ張られて森へ消えたが、頑張ってほしい。


 マナ=ルナメルの女衆にも、相手を見つけてやらんとな。


 しかし、その辺のゴブリンじゃ彼女達は納得せんだろう。


 最低でもホブ・ゴブリンやハイ・ゴブリン以上か、同種のマハトマ・ゴブリンが婿候補だろうな。



『視野が狭いですよナオキさん。ゴブリンは男女共に異種間交配が可能な種族です。拠点の付近にはコボルトやエッケンウルフ等が居ります、西にはリザードマンやラミア・ナーガ族、北にはハーピー等の鳥人種も居りますので、選択は慎重に』



 なるほど……異種間交配か、それなら血が濃くなって『ハプスブルグ王家の悲劇』は回避出来るな。


 うむ、それで行こう。



『ですが、ディック=スキの女性が一名、ナオキさん以外との性交渉を拒んでいます。貴方が助けた女性で、悲鳴を上げた娘ですね』



 あぁ、あの娘か。う~ん。



『進化を目的とした護衛侍女として鍛えてみましょう。宜しいですか?』



 彼女が首を縦に振れば、な。



『了承を得ました。快諾です』



 早ぇなオイ!!


 早速こっちに来たよ。

 って、この娘らも目を合わせてくれんな。



「宜しくお願い致します賢者様。メチャ・ディック=スキで御座います」


「メチャか、厳しい道のりだと思うが、宜しくな。」



 メチャの年齢は22でレベルは2、総合力420、所持スキルは【採取】のみ。


 HPなんて120しかない、普通のゴブリンより強いが、育成は時間が掛かりそうだ。


 妖蜂族がいかに異常か分かるな。

 彼女達は能力が高すぎる。


 個体数が多い故、広大な浅部に拠点を構えるのは理解出来るが、能力的に見ると同じ浅部エリアの種族とは思えん。


 兵卒の総合力が4,000前後、つまり眷属進化後のミギカラと同レベルだ。


 なるほど、彼女達が戴く存在が女王と呼ばれて当然か。


 アムリタを送って正解だな。

 サンキューママン!! あふん。


 メチャが俺に酌をすると、マナ=ルナメルの女衆が地面を殴っていた。


 では、そろそろ政治の話をしようか。


 俺の横でイチジクっぽい実を食べながら、イオりんの酌を受けるオキクさんに声を掛ける。



「オキクさん、くつろいでもらっているかな?」


「ああ、勿論だとも。気の良いゴブリン達と贈られた花を楽しみつつ、ナオキ殿と食を共にするのは、非常に、ヒジョウ~に心地好い」


「それは重畳。イオリさんも楽しんでもらえているかな?」


「はい~、とても楽しいですぅ!! 私もナオキさんの酌をして差し上げたい!!」


「ははは、いずれ東へ訪れた時に是非お願いしたいね。美女の酒は神酒に勝る」


「んもう!! ナオキさんはぁ~、えへへ」

「……その際は私が酌をしよう。貴様は警備の指揮を執れ」


「ヒドイ、何ですかそれー!! プンプン!!」


「はは…… ところで、勅命の話だが、いいかな?」


「うむ、水源は確保出来た、あとは労働力だ。と言っても、仕事の内容は厠の掃除とゴミの処理ばかりだ。我々がやっていた仕事だったのだが、先王陛下が二十四年前に子を全て産み終え、今上陛下に城を譲って分封(分蜂ではない)、つまり御転居遊ばした際、九割の兵を率いて行かれたのでな、城に雑用係が居らんのだ」



 なるほどなー。

 しかし九割は多いな。



『それでも相当数の個体が残ったかと。妖蜂族の女王は妖蜂族の男性に注がれた精液を蟲腹に貯め込むと、出産準備が出来次第それが尽きるまで毎日一人の子を産み続けます。在位年数や妖蜂族男性の数で出産数は変わります』



 へぇ、凄い能力だな。

 三十年在位で一万越えか。



「それはなかなか厳しい状況だな。しかし、厠掃除とゴミの処理をゴブリンはサボっているのか…… キツい仕事なのか?」


「いや、実質彼らの仕事は厠の掃除だけと言っていい。ゴミは我々が集めて各所に置いてあるからな、それを彼らが纏めて捨てに行くだけだ。その後の焼却処理も我々がやっている」


「では何故サボる? ナメてんのか君達を?」


「ナメていると言うか、口頭で言えば仕事をするのだが、隠れてサボる。我々は体罰を与える気はないからな、それでナメられているのかも知れんな」



 そう言って苦笑するオキクさん。

 そいつら殺してイイかな?


 そんな事を考えていると、イオりんが肩を竦めて溜息を吐いた。



「それだけが原因じゃありませんよ隊長」

「ん? 他に何かあったか?」


「あの阿呆ゴブリン達は、王子殿下の皆様を見て勘違いしているんです」


「殿下方を? どういう事だ? 自分が王子とでも?」


「アハハ、それに近いですね。殿下方は子孫繁栄の為に、短命の身を憂いもせずお役目の時に備え、御立派に童貞ニートを務めておられます。それ故に、我々が殿下方を大切にお守りし、御奉仕するのです。ですが、あのゴブリン共は何を血迷ったのか『城内では男の価値が女より上』と思い込み、『覗き・お触り・露出自慰』のセクハラ三昧。果ては性交を強要する始末、お優しい陛下も堪忍袋の緒が切れるというものですよ」


「殿下方を見て、か……馬鹿なのだな、彼らは」


「何を言っても耳に入れません。既に私でさえ奴らからすれば『下』の存在です」



 そう言って、イオりんは深く重い溜息を吐いた。


 本当に馬鹿なんだろうか?


 マナ=ルナメルの男衆は出会った時から悪いイメージがないから、同じゴブリンとして比較出来ん。


 ゴブリンの男というのは、スモーキー達みたいなのが標準なのだろうか?


 今のところ女性は皆まともだ、眷属以外でも理性的に話が出来ていたしな。


 しかし、よくそんなアホ共を殺さないな女王は。

 相当大きな堪忍袋を持っているご様子。


 その堪忍が詰まった袋の緒を切る……って、かなり調子に乗ってんだろう、頭オカシイ。


 相手は万の軍を率いるエリアボスだぞ?


 って言うか、『堪忍袋の緒が切れる』みたいな諺や慣用句も翻訳されるんだな。



『諺はそれに近い意味を持つ言葉へ相互翻訳されます。慣用句は状況や動作に関わる言葉として相互翻訳されます。例:『魔核が染まるぜ=肝が冷えるぜ』このようになります』


 ははは、お互いに意味が分からんわな、それは。

 肝臓が冷えたから何? って感じだろうな。


 おっと、イカンイカン、人員の交代を考えねば。



「なるほど、そう言う事なら俺がなんとかしよう」

「おおっ、それは本当かナオキ殿っ!?」


「今そっちに居る奴らと、俺の眷属をチェンジで。眷属達は絶対に“悪さ”をしないから安心してくれ。だが、二週間の交代制にしてほしい」


「交代制は構わんが、期間が短いな」


「俺の眷属は武術と魔法の訓練を受けさせる、魔法の方は眷属が何処にいようが俺の相棒に教える手立てが有る。問題は武術だ。武術は俺が叩き込む予定だから、訓練の出来る俺の傍から離したくない」


「なるほど、南部は人間が来るからな……それなら人員を割くのも厳しいだろう?」


「まぁ、そうだな。期間も本当は一週間が理想だ、欲を言えば日帰りが望ましい。だが、そうは言っていられんからな、距離を考えると二週間の滞在が限界だと思う。往復だけで二十日以上掛かるはずだから、滞在期間と合わせて一カ月以上留守になる」



 せめて、道が造られていたら、移動時間を短縮出来たんだが。


 少しずつ木を引っこ抜いて造ろうかな?


 オキクさんが目を閉じて何かを考えている様子だ。



「……距離と時間か、我々はここから王城まで四時間と少しで辿り着けるが、うん、こう言うのはどうだろうか?――」







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