第10話「血涙出そうwww」



 第十話「血涙出そうwww」




 オキクさん達との自己紹介も終わり、オキクさんと百三十名の隊員さん達を丁重に持て成した。


 一個分隊五名、五個分隊で一個小隊、五個小隊で一個中隊なのだそうだ。


 小隊にはそれぞれ小隊長が就いている。

 そしてそれを纏めるのが中隊長のオキクさん。


 持て成しが済むと、オキクさんから手合わせの申し出を受けた。


 友好的な彼女のステータスは覗かない。しかし強さは分かる。この辺りでは中部出身のジャキを除けば敵無しだろう。


 彼女の武器は槍、防具は蟲の外殻をドレスアーマーのように纏っている。


 俺は素手で相手をした。

 物理無効にはさすがに驚いていた。


 手合わせは彼女の攻撃を俺が右手で受ける形になった。


 蟲系魔族のスタミナは他の魔族より高く、三十分ほど休みなしで動き回った。


 最後は俺の本気が見たいと言ってきたので、村の外に出て地面をぶん殴って陥没させ、地中から出てきた石を浮かせて再度地面に撃ち込んだ。


 大爆発と轟音で女衆と隊員達は腰を抜かしていた。


 オキクさんは拍手しながら爆笑していた可愛いよオキク可愛い。



「いやぁ~、凄まじい力だなナオキ殿っ!!」

「いや、オキクさんの槍捌きも見事だった。フッ」


「これは女王陛下にも御報告申し上げねばならんな。良い土産話が出来た!!」


「ははは。ところで、その陛下からの勅令とは? まだ伺っていないが」


「ややや、これはイカン。すっかり忘れていた。はて、村長とナオキ殿のどちらに伝えればよいものか……」



 オキクさんが美しいラインのアゴに右手を当て、俺と村長を見比べる。


 村長ホンマーニはニコリと笑って俺の方へ左手を向けた。



「私共の主様ですから」

「フム、ならばナオキ殿に陛下のお言葉を伝えよう」


ひざまずいたほうがいいか?」


「う~ん、南の小エリアボスだからなぁ、だが、南浅部は大熊以外の小エリアボスが居ない、統一はしていないが実質エリアボスか……いや待て、地下の妖蟻族が居たか……うむ、しかし地上は治めたと言っても過言ではないな、そのままで構わんよ。清聴してくれ」


「分かった」

「では、女王陛下の勅令を伝える――」



 勅令の内容はこうだ。



“奉公に来た男共が妖蜂族にセクハラするから人員入れ替えしろ”


“ゴブリンの男は下半身ばかり元気なので、ゴブリンの男以外を寄こせ”


“水が足りない。水源を探してくれたら酒と蜜の量を増やすよ?”



 男性ゴブリンの株価下落が止まらない。


 目の前でオキクさんのケツとか触ってるとこ見たら消滅させる自信が有る。


 さて、女王陛下の頼みか……

 三つ目の頼み事は簡単だな。

 拠点の井戸の事をオキクさんに話してみた。



「そっ、それは本当かナオキ殿っ!!」

「ああ、隊員百三十人が一年中水浴びしても枯れんよ」


「それはまた……なるほど、まさしく賢者だな。私が女王候補なら子種を頂いているところだ。あっはっは」


「そうか、俺でよかったらいつでも言ってくれ。フッ」


「ウフフ、貴殿が妖蜂族ではなく、私が女王でないのが残念でならんよ」


「はっはっは、俺は猿人、種族に関係無く子を為せるんだがな……」


「ほほう、そうなのか……チィ、本当に残念だ」


「ホントニザンネンダヨ」



 痛い、痛い痛い痛い、胸が痛い、甘酸っぱい、やだコレ、中学生?


 今俺、血涙出てねぇかな?「子種抜きでヤラナイカ?」って話しに持って行きたい!!


 だがしかし!! 俺は森の賢者、シモの話題は掘り下げてはならん!!


 出会ったばかりで下ネタはギャンブル性が高い、ハイリスク・ハイリターンは控えるべきだ。


 見極めろナオキ、彼女の言葉は社交辞令かも知れないというトラップ。


 魅惑的な餌に飛び付き、笑顔で爆死コースのブービー・トラップである危険性を否定出来ない。


 迂闊に話を進めれば自爆必至。

 焦ってはイケナイ……


 もし、もしも「御免なさい、ゴリラはちょっと……」などと殺傷力の高過ぎるピンポイント水素爆弾を投下されでもしたら、俺の心が二カ月ほど不毛の大地になる恐れがある。


 それ以降はメスゴリラを探す旅に出るという未来も否定出来ない。


 危ない橋は渡らない。


 先ずは鉄筋コンクリート、いや、アハトマイト筋コンクリートでガチガチに橋脚を固めたのち、浮き袋やボート、果てはパラシュート等の装備品を揃え、橋を一気に駆け抜ける脚力を付けてからが勝負だ!!


 そんな決意を胸に、俺はオキクさんの顔を見た。


 オキクさんは目を泳がせて赤面している。何だ?


 よく見れば、俺の周りに居る村長や隊員の数名も赤面している……



「ナ、ナオキ殿……そ、それを仕舞ってもらえないだろうか…… 御立派なのは素晴らしい事なのだと思う。だ、だが、我が隊は生娘ばかりで……その……」


「主様、この老体で宜しければ……御なぐさめ致しますが……ポッ」



 彼女達の目線を辿り、ソレを確認する。


 ジーザス……


 魔王が、股間に魔王が降臨していた。



『精力増強効果のある酒を大量に摂取しましたからね』



 何と言う隠しトラップ……

 橋を渡る前に地雷を踏み抜いてしまうとはっ!!


 何か、何か言わねば!!



「これは申し訳ない。美味い妖蜂酒と美しい女性に体が反応してしまったようだ。まさに『ハニー・トラップ』と言ったところですかな?」



 どうだ? うまいこと言った感があるが、どうだ?


 あれ? 皆、俯いて、顔真っ赤にして……失敗?



『脈打つ御立派なソレをどうにかするのが先かと愚考します』



 だなっ!!

 トイレ行ってきま~す!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ふぅ……」

『お疲れ様です』



 俺が魔王退治した場所へ向かおうとする息の荒い皆さん(オキク含む)を止める。


 そっちには何も無い、いいね?


 しかし何だな、普段は股間の体毛に隠れるほど恥ずかしがりやで幼い魔王が、何故あそこまで凶悪な大魔王に化けるのか?


 成長率が高すぎる。


 帰ったら速攻で腰巻作ろうかな、いや待て、それは悪手じゃないか?


 腰巻を着けた場合、魔王降臨の際は『テントを張る』どころじゃない、居酒屋の暖簾のれんめくって店内に入り『席、空いてる?』と店主に聞くアフリカ象、そんな感じだ。


 かと言って現状のままでは『競馬場のパドックで発情してぶら下げながら歩く競走馬』と同じ状況だ。


 皆は猿人の体だから許してくれている状況、つまり、動物園でお猿さんの交尾を見てしまい『oh my……hahaha wow』的な、動物だから仕方が無いという諦めにも似た消極的かつ妥協的な肯定、即ち、『あの人お猿さんだから』という事だ。


 そんな事を考えながら周囲を見渡すと、相変わらず赤面した皆さんが苦笑いしていました。


 死んでしまいたい。


 口ごもり立ち止まった俺に、オキクさんが硬い笑顔で声を掛けてくれたマジ天使。



「ど、どうやら治まったみたいだな。よかった」

「ああ、見苦しいモノを見せてしまった。申し訳ない」


「い、いや、殿方は、色々と、アレだからな、気にするな」

「スマンな。今度から、美しい蜂を眺める時は気を付けるよ」


「ッッ!! そ、そうか。は、針に気を付けるといい……」

「ハッハッハ、いつの日か、君の毒に侵されたいものだ」


「なっ、何を、ば、馬鹿な事を……そんな事……」



 何を言っているんだ俺は?

 穴がったら入れたい、いや入りたい。



『短期間で魂がゴリラ色に染まってきましたね』



 どんな色それ? ピンク色?

 まぁいい。そんな事より、引越しの準備だ。



「村長、皆の荷物はどれくらいだ?」


「私の事はホンマーニとお呼び下さい。荷物は数枚の腰巻と木の食器、石包丁一本でしょうか、皆同じで御座います」


「一人で持てる量か? 大きな入れ物が有れば俺が担いで行くが」


「お気遣いなく。一人でも大丈夫で御座います」


「分かった。では、俺は酒と蜂蜜の壺を担げばいいんだな。」


「小さい壺は我が隊の者が運ぼう。飛んで運ぶから全部我らに預けるといい」


「おお、それは助かる。ありがとうオキクさん」


「う、うむ、気にするな。水を補給するついでだ、ついで!!」


「はっはっは、そうか、ならばお言葉に甘えよう。皆、忘れ物は無いか? よし。それじゃ、出発しよう。ホンマーニ、移動が辛くなったら言え。担いでやる」


「いえいえ、そんな、眷属化でこの通り、体が若返ったようですので……お気遣い有難う御座います。ポッ」


「紳士だな、ナオキ殿は……フン。オキク隊、行くぞっ!!」



 少し機嫌が悪くなったオキクさんは、隊員と共にさっさと飛んで行ってしまった。


 年老いた村長は始めから背負ってやるべきだったか?

 しくじったな、クソぅ。



「では、俺達も行くか」


「はい。しかし賢者様、オキクさんは行き先を知っているのでしょうか?」


「方角を教えてある。ヴェーダの知識だから間違いは無い」


「然様で御座いますか。では、参りましょう」



 拠点の皆には妖蜂族が向かうとヴェーダが連絡している。


 混乱はないだろう、ヴェーダの指示でミギカラが井戸の水や動物の串焼きを妖蜂族に振る舞うはずだ。


 大きな酒の壺を左肩に担ぎ、俺が先頭になって周囲を警戒しながら森へ入った。


 ホンマーニは森に入ってすぐ「腰が痛い」と言ったので、俺が背負った。


 腰痛持ちとは思えない『バック大しゅきホールド』で、後ろから両手両足をキツく回された。


 ゴブリンは鼻息が荒いなぁ、と思いながら森を進む。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 出発から二時間半、皆の移動は完了した。


 村から拠点までは約50km近く離れている。


 俺の予想では夜遅くに到着すると思っていたが、妖蜂族が蜜の壺や酒壺を拠点に置いたあと、戻ってゴブリンの女衆を抱えて運んでくれたのだ。


 俺が背負っていたホンマーニはオキクさんが首根っこを掴んで運んだ。


 何気に扱いがヒドイ。

 仲は良さそうだったのだが。


 移動中に守るべき女衆が居なくなった事で、脚を緩める必要が無くなった。


 俺は大壺を抱えていつものようにハイスピードで妖蜂族の後を追った。


 こうして、短時間の移動が成し遂げられた。


 空を飛ぶ種族の有能さと、それを活用する側から見た利便性の高さや戦略の広がりなどを考えさせられる一幕だった。


 東浅部とは敵対すべきではない。


 妖蜂族や妖蟻ようぎ族の数は凄まじいとヴェーダが教えてくれた。


 千や万を超える軍隊相手に、俺やジャキがどれだけ皆を守れるか、間違い無く守りの薄い場所を突かれて被害が出る。


 女王には何か良い物を贈ろう。そうしよう。


 皆の出迎えに右手を上げて応え、オキク隊の皆さんに礼を言う。



「オキクさん、わざわざ有り難う。助かったよ。隊員さん達も疲れただろう、深謝する。ゆっくり休んでくれ」


「なに、構わんよ。ゴブリン達は軽い、あの距離の往復程度でを上げるほどヤワな鍛え方はしておらん」


「そうか。オキク隊の隊員と、その隊長殿は美しくそして強いという事だな。美しいバラには棘が有ると言うが、全くその通りだ」


「そ、そうだ。と、棘があるのだ。き、貴殿には、棘を向けないように、する」


「ハッハッハ、棘を隠して、針で刺すのかい? だが、刺すなら心臓以外にしてくれ」


「そ、それは、何故?」


「俺の心臓ハートはすでに君の瞳に射抜かれている。これ以上刺されると、君の事しか考えられなくなって困る」


「わっ、わっ、わかった、刺さないっ!!」



 何言ってんだ俺……死んでイイかな?


 こんな衆人環視の中でまさかの欧米化。


 オカシイ、恥ずかしいはずなのに誇らしい。

 そして、今の自分はドヤ顔かましているのが判る。


 何だこれ?



『ボスゴリラの自信、ですね』



 何その根拠の無ぇ自信。

 要らねぇんだけど。



『良い感じに魂がゴリライズされてきましたね、おめでとうございます』



 良い事なのか?

 信じていいのか?

 ゴリラの階段昇るぜ?



『駆け上がって下さい』



 ヴェーダが言うなら間違いは無い。

 本能に任せてゴリる事にする。


 あぁ~、気が楽になった。


 俺とオキクさんの周りを確認する。

 全員集合か、そうか。



「さぁお前達、客人を歓迎する宴の準備だ、俺達の帰りが早くなったから用意する時間がなかっただろ? スマンな、獲物は任せてくれ。男衆は果物を頼む。女衆は集会所の整理と串の用意。中隊の皆さんとディック=スキの皆は休んでくれ」


「ナ、ナオキ殿!! 私達も果物を採りに行こう、これも訓練だっ!!」


「賢者様、私共もキノコや芋を採りに行かせて下さい」


「う~ん、宴の主役達に仕事を任せるのは気が進まんが、止めても聞かなそうだな。スマン、宜しく頼む」



 こうして、宴の準備が始まった。


 ラッキーだったのは、遠くまで狩りに出かけた俺の隣にオキクさんが居てくれた事だ。


 俺の狩りを見たいと言って、隊を副長に任せて俺に付いて来た。


 テンションが上がった俺は、大きな猪と大蛇を仕留めてハニーにサムズアップした。


 ハニーはサムズアップの意味が解らず、親指が指し示す空を見上げて小首を傾げていた可愛いよオキク可愛い。







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