第9話「可愛すぎワロタ」
第九話「可愛すぎワロタ」
俺を見てニタリと笑ったジャキが周りの女性達に目を遣り、再び俺を見て頷いた。
「移住か…… それも悪くねぇ。この村は北浅部の入り口だが、俺は北都の在る北中部からこの村まで、西回りで寄り道せずに来たからな、情報量も経験も少ねぇ。小エリアボスも西浅部のトカゲ野郎と大将しか見たことねぇ。浅部を回って見聞広めて武者修行するいい機会だ。でも、いいのか? 俺と女達だけでも四十四人だ、寝床はあんのか?」
「直径100mの平地が拠点だ。まだ家と呼べる建築物は無いが、俺が引っこ抜いた間伐材が大量に有る。拠点は水濠に囲まれているが、畑が増える予定だから、今の水濠を内堀として、外堀を造って居住区や栽培園などの為に行動可能範囲を拡張しようと思っている。お前らを囲う余裕は十分だ」
「へへっ、面白そうじゃねぇか。最前線にある要塞、いいねぇ、たまんねぇなオイ」
獰猛な笑いを浮かべるジャキ。
彼を慕う女達はキャーキャー言っている。
余計な事かと思うが、一応述べておく。
彼女達も一般的なハゲ散らかしたゴブリンだ。決して美女と野獣の構図ではない。緑のハゲと巨豚だ。
だが、これは俺の意見であって、ジャキやゴブリン達の美的感覚が俺と同じ、という事ではない。
「どうだチチョリーナ、オメェらも行ってみるか? 水の要塞だ」
「どこへでも参りましょう。貴方様が向かう場所へ」
「「「イエス・ジャキ!! ノー・雄ゴブリン!!」」」
「決まりだ大将、俺達も行こう。力仕事なら任せな」
「そうか、歓迎しよう。今から行くか?」
「いや、色々と荷物が多い、明日の朝から移動を開始する」
「分かった。場所が分からなかったら……ここからも見えるかな? あぁ、見えた、この岩の上に立ってあそこを見てみろ」
「ん? あぁ、カリブトの巨木か」
「あの巨木から南に進めば丘が在る、その辺りから俺の臭いが所々付いているはずだ。お前なら分かるだろ?」
「クンクン……あぁ、覚えた。このムラムラする匂いを辿ればいいんだな?」
「え? クンクン……そんな匂いする?」
「するぜ、なぁ?」
「「「……少し」」」
何だろうか、フェロモン的なアレか?
『それは【魔獣】が発する物質で【
マジかよ……
でも、何で魔族のジャキが気付いた?
『蟲系魔族と獣系魔族は、魔族の中でもフェチモンを知覚し易い種族です。そしてジャキは猪人、獣系魔族ですので、魔獣に近い嗅覚を備えています。獣系や蟲系でなくとも、魔族ならフェチモンを『好い匂い』程度に知覚出来ます。蟲系魔族は程度もありますがフェチモンを色で視覚的に見る事も出来ます』
なるほどなー。香水要らずだな!!
『ソウデスネ』
メスゴリラに会ったら求愛されるかも知れんが、今は置いておこう。
って言うか、この世界にゴリラ居るの?
『居りません。似て非なるものは存在します』
なるほど。さて、そろそろあの女性達の村に行くか。
「それじゃ、俺はコイツらが襲った女性達の居る集落へ向かう」
「女を襲ったぁ? テメェら……」
「「「サイテー」」」
「いやいやいや、未遂だから、挿れてないから!!」
「放尿脱糞で気絶したから!!」
「ボーイ握られたしな!! って言うか、俺もナオっさんトコに行きたいんスけど」
「来るならいつでもいいぞ。住むなら覚悟しろ、人間が攻めてくるかも知れんからな」
「おぅふ…… 行くだけ行ってみる感じで」
「「「俺も!! 僕も!! 拙者も!! ワシも!!」」」
男共がウザい、グイグイ来る。
必死すぎてキショい。
うちの女衆狙いなのは解るが、正直言って、コイツらの遺伝子は要らない。
親の欲目じゃないが、あの気立ての良い女衆にコイツらはちょっと……
彼女達がコイツらを気に入れば俺は何も言わんが。
『お待ち下さい、彼らはダンジョンの【養殖メスゴブリン】で十分です』
養殖? 何だそれ?
『ダンジョン内に発生する理性の無い魔族や魔獣の事です。一般的に『モンスター』や『魔物』と呼びますが、人間達は魔族と魔物を区別しません。余談ですが、魔族はダンジョン内に棲む養殖魔族の性別を『オス・メス』で分けます、ダンジョン外でのオス・メス呼びは蔑称となり、侮蔑と嫌悪の意味が込められています』
うわぁ。
さっき「ノー・雄ゴブリン」とか言ってたな……
それより、【養殖】と結ばせるのはどうなんだろう、この世界の倫理的に。
『問題ありません。ダンジョンの近くに住むモテないゴブリンは、男女ともに養殖ゴブリンと性交して大人の階段を昇ります。こうして子孫を残した名残が、幼少期の暴走です。大人しい幼児は【養殖】の血が薄い、または養殖因子の不活性かと思われます』
へぇ~、悲しい歴史があったんだなぁ。
どっちかと言うと養殖ゴブリンに憐みを覚える。
まぁ、なるようになるか。
「じゃぁなジャキ、皆で獲物を料理して待ってるぞ」
「へへっ、そりゃ楽しみだ。じゃぁな…… 兄弟っ!!」
「フッ、ああ、気を付けて来い、兄弟」
「あ、ちょ、待っ、ナオっさ――……」
何か言っているスモーキーを放置して、俺は次の集落へ向かった。
背中から、スモーキーを誰かが殴る音が聞こえた。
ビンタする音と「待っ助けブフォ」という叫びも聞こえたが、空耳だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ジャキが居た北の村『チキン=シャバゾウ氏族』の村から西南西へ15km離れた位置に村が在った。ここも北の村並みに大きい。ここはギリギリ北浅部かな?
村の入り口には三人の女性が俺の到着を待っていた。
その中の一人は、あの時悲鳴を上げた女性だ。
互いに挨拶を交わす。
俺の到着を知り集まって来た女性達から歓待を受けながら、村の奥に在る大きな木造の家に案内される。
ここは北の村と違って男が居ない、女性ばかりだ。
家の前にはミギカラと同じ年代の村長を名乗る女性が俺を待って椅子に座っていた。
彼女は足腰が弱まっているとのこと。座ったままの挨拶に申し訳なさそうにしていた。北の男達に学ばせたい姿勢である。
村長の名は『ホンマーニ・ディック=スキ』
俺の体がデカ過ぎて家に入る事が出来なかったので、中央の広場に集まって歓迎の宴が催された。
俺の前に差し出された、と言うより供えられた感じの『捧げ物』の中に、大変興味深い物を見つけた。香りを確認して鑑定。
【妖蜂酒】
≪
アルコール度数20% 滋養強壮、精力増強、疲労回復の効果が有る。
発酵前の液体を『妖蜂密』と呼び、糖度80%と甘い。蜜は妖蜂族未成体の食料≫
口噛み酒……
昔は日本でも巫女さんなどが造っていたらしいが……
ある一定の紳士諸君には垂涎の的であろう口噛み酒。
俺は紳士協定を結んでいない紳士だが、酒は好きなのでゴクっといく。
「……ん……フム。美味い」
「東の女王様から頂いた妖酒で御座います」
ホンマーニ村長が笑顔でそう言った。
「東の女王……エリアボスか?」
「然様で御座います。妖蜂族の女王陛下に御座います」
「東か、ここからは近いのか? 女王の居る場所は」
「女王様は東の端、山脈の麓に居を構えておられます。ゴブリンの脚で片道十日以上は掛かるかと存じます」
『約200kmですね』
「そりゃ遠いな。この酒は持って来てもらったのか? 妖蜂族に」
「いえいえ、陛下の下に差し出した男衆が持って来てくれます」
「差し出した男衆?」
「はい、労働力として差し出す代わりに、妖蜂族さん達の助力と酒、それから蜜を頂いております」
「……それでいいのか?」
「いいも何も、男共が妖蜂族さん達の色香に鼻の下を伸ばして、自ら進んで陛下の下へ奉公に行きましたので。……死ねばいいのに」
「そ、そうか」
あちゃー、地雷踏んだ感じか?
女達の瞳から光が消えた。
ここもアレだ、『ノー・雄ゴブリン』かも知れん。
これは北の奴らと縁結びって話は難しそうだ。
一応聞いてみよう。
「それは大変だろう。そこでどうだろう、北のゴブ――」
「お断り致します」
「知ってた。是非も無い。それじゃ……あ、俺の集落に若いゴブリンの男衆が14人居るんだが、そいつらとお見合いしてみる気は無いか? うち二人は妻子持ち、全員俺の眷属で、種族も容姿も変わってしまったが、神の加護を持つ猛者共だ」
「ほほぅ、森の賢者様、そこのところを詳しくお願い致します」
森の賢者って……まぁいいや。
村長の目が据わり、周りの女衆が犬歯を剥きだし舌舐めずりする。
一部の女性は俺を見て舌舐めずり。
スマンな、進化後にしてくれ。
彼女達の一定部分に集中した激しいボディータッチを、鋼の精神とポーカーフェイスでやり過ごし、拠点の話や北での出来事、アートマン信仰や新種への進化等を説明した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「誓いましょう。我らディック=スキの女衆七十七名、賢者様とアートマン様に忠誠とこの身を捧げます」
「「「捧げまーす!!」」」
「分かった。では並んでくれ、眷属化しよう。先ずは村長からだ」
「はい、宜しくお願い致します」
こうも簡単に眷属化の話しになるとは思っていなかったな。
しかも、村長は【薬師】のジョブに就いている。
得難い人材だ。
魔法所持者は居なかったが、ヴェーダの教育と進化ですぐに覚えるだろう。
眷属化した者達から順にヴェーダが語りかける算段だ。
さて、村長を眷属化するワケだが……
女性の眷属化は少しばかり卑猥だ。
「んっ……あ、あ、あ、んぁぁ……い、い、イッッ……ハァハァ、これは、年寄りの見苦しい姿をお見せして、申し訳御座いません……ポッ」
「い、いや。なかなかセクシーだった……」
「あらやだ、お上手……ポッ」
あぁ、これでハゲ散らかしてなかったら……いや、十分素敵な女性だ。
是非、進化しまくって頂きたい。俺のゴリラ化が進んで下半身が野生化してしまったら……大変な事になる自信が有る。
せめて身長160cm以上あれば……
『ホブ・ゴブリンの身長は160cm前後です。ハイ・ゴブリンと共に初回の進化先ですね』
初回の進化では無理っぽいな。
残念だ、非常に残念だ。
『では、私は村長との会話に入ります。教育はお任せ下さい』
ああ、頼んだぞ。
「あわわ、あわわっ!! 頭の中に天女様のお声がっ!! なっ、なんですと!! 奥方様!? フムフム、夜伽には背が足りぬと、フムフム、ほほ~……」
何を話しているか解らん……事もないが、村長のグレードアップと眷属化の痴態に期待感バリバリの女性達が、息を荒げて列を作っているので迅速に眷属化させる。
村に、
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
全員の眷属化を終え、眼前に並んだ灰色の肢体を見渡す。
村長ホンマーニの総合力はミギカラと同じレベルで3,840パワー。
他は420~1,600、マナ=ルナメルの皆より最低値が低い。男衆の良い嫁さん達になりそう。
そうなると、うちの女衆が可哀そうだな。
南浅部に居る他のゴブリン氏族に話を持って行くか。
ところで、眷属化を済ませたあと称号が増えた。
『森の賢者=術威力10%上昇・術の消費精力30%カット』
エコな効力の称号だ、有り難い。
鉄の抽出で活躍するだろう。
さて、これから移動するワケだが、女王の下へ行った男達が酒と蜂蜜を運んで来るので、この村を無人にするわけにはいかない。
メッセージを書いた立て札でも作ろうかと思案していると、村に来客登場。
「村長は居るか? 女王陛下の勅令を伝えに来た」
広場に集まっている俺達の前に現れたのは、黒髪に黄色のメッシュが入った美しい女性の団体だった。しかも
彼女達の容姿はまさしく『蜂』の特徴を押さえているが、背中に生える二枚の羽根――正確には四枚有るが前後の羽が繋がって見える――と、尾てい骨辺りから伸びる長さ15cm、直径10cmほどの管、その管の先にある黄色と黒の縞模様が付いた『蜂の腹』や、額の触覚を除けば、コスプレした白人種の美人さんに見える。
大型の
ふつくしい。
ダークエルフのラヴも美しいが、妖蜂族には『これぞ人外の美』といった魅力が有る。
俺は高鳴る鼓動とイラ
「ところで貴様達はどこの氏族か? 見た事のない肌色だな」
「いやいやオキクさん、私共はディック=スキの女衆ですよ。オホホ」
「むむむ、その声……貴様、ホンマーニか!?」
「はい、ホンマーニです。眷属化で種族が変わりました」
「眷属化? 種族を変えるほどの主を持った、と言う事か」
「はい、南浅部に
「それは……憎き大熊の事、ではないな。ならば……そちらの御仁か? 魔獣とお見受けするが?」
「いえいえ、賢者様は『猿人』だそうです。魔族でも人間でもなく、羅刹女神アートマン様が遣わされた御子様であらせられます」
「猿人? アートマン? ふむ、申し訳ない猿人殿、寡聞にして知らん。私は東の女王陛下に仕える中隊長の『オキク・タツノコ・ハチスカ』。階級は少尉だ。貴殿の名を聞いても宜しいか? おっと、魔族語は話せるか?」
「ああ、問題無い。俺はナオキ・キシ、南浅部中央の小エリアボスだ」
「……ほぅ、では貴殿があの憎き大熊を討った、と?」
「アカカブトゥか? 頭掴んだら死んだな。肉は集落の皆で喰った」
「おおっ!! 然様か、ヤツは我が同胞を数多く冥界へ送り、南部砦の蜜を奪い尽くす仇敵だったのだ。ありがとう、心より感謝する」
「そうだったのか……アイツの称号に【蜂殺し】があったのはそれが原因か。お悔やみ申し上げる。そうと知っていれば魔核を女王陛下に差し上げたんだがな、喰ってしまった。スマン」
「はっはっは、ヤツの魔核を喰らったとは、剛毅な冗談だな。いや、謝罪は要らんよ、逆にこちらから礼の品を贈りたい。陛下もそう仰せになるはずだ」
そう言って、ニコリと笑うオキクさんに、俺のハートは16ビートを刻んでマックスハート。恋に落ちるとはこの事かと酒を煽る。
照れ隠しなど何年ぶりだろうかオキク可愛いよオキク。そして魔核を食べたのはジョークじゃないよ。
しかし何故だろう、今の俺は照れながらも自信に充ち溢れている。これもゴリライズされた魂の影響だろうか、非常に『口説きたい』欲求に駆られる。
子供は出来るんですか?
『妖蜂族で妊娠出来るのは、女王候補として生まれ、生後【妖蜂ロイヤルゼリー(ローヤルではない)】を与えられて育った女王のみです』
そんな……
『ですが、眷属化すれば種族が変わりますので、妊娠出来る可能性はあります。そもそも、貴方は異種との性交で子が為せるように創造された新種です。ですので、問題は相手の身体的な機能と心の二つとなります』
そうだったのかー!!
でもまぁ、子供が作れないから愛せない、なんて事はないけどな。
それこそ『なるようになる』だ。恋愛はゆっくり行こう。
甘酸っぱい期間を楽しむのも一興だ。
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