第3話「勃たないんだ、スマン」



 第三話『勃たないんだ、スマン』




 土下座する小人達を放置して、死んだ大熊を見る。失敗したなぁ。


 大熊のステータスを確認しておけばよかった。


 自分の強さを比較出来ん。死体でもステータスを見れるのか?



『死亡していますので、情報は限定的なものとなります。総合力はゼロ、HPとMPの最大値も確認出来ません。無論、特技や耐性も不明、加護があれば死亡した時点で消滅。それ以外は確認出来ます』


「そうか。ちょっと見てみる」



【名前】アカカブトゥ

【種族】オーガベルン

【レベル】117 【年齢】51 【性別】雌 

【状態】死亡 【ジョブ】―― 【爵位】――


【称号】

『赤兜』 『南浅部の悪夢』 『蜂殺し』

『殺人熊』




 レベル117か、日本のRPG感覚でこのレベルを考えると、高レベルモンスターのような気もするが……判らん。


 せめて総合力が分かれば自分と比較出来たんだがなぁ。


 攻撃力とか防御力とか、もっと詳しく見れんもんかね?



『可能です。ご覧になりますか?』

「見てみる」



【名前】ナオキ・キシ

【種族】マハトマ・ゴリラ

【レベル】32 【年齢】18 【性別】男 

【軍級】―― 【ジョブ】伝教師 【官名】――

【官位】―― 【勲等】―― 【爵位】小エリアボス爵


【耐力】239,400 【精気】50,400 


【筋力】178,000 【体力】94,000 【仙力】12,840

【知力】1,930 【速さ】124,700 【技術】33,900

【魔耐】114,200【幸運】77


【物攻】336,600 【物防】252,600(物理無効)

【仙攻】48,670 【魔防】272,800


【アクティブスキル/仙術】

『大猩々:Lv1』 『超怪力:Lv-128』 『精神統一:Lv-68』

『岩仙術:Lv-2』 『アユスヴェダ』 『威圧』


【パッシブスキル】

『自然回復:小』


【称号・加護】

『アートマンの加護・小=言語理解・翻訳・ヴェーダ』

『狂信者=アートマン信者を増やし易い』

『行者=術攻撃30%上昇・眷属能力20%上昇』

『岩仙=物理攻撃30%上昇・鉱物可食』


【耐性】

『バッドステータス無効』 『火炎吸収』 『物理無効』

『即死・呪殺無効』 『属性攻撃に強い』 『土・金属性反射』

『飢餓・孤独耐性』


【装備】

左手『小石三個』




 うわぁ……見辛ぇなコレは。

 簡易版の総合力表示でいいや。


 レベルが32も上がってる、大熊から俺の体に入って来たのは経験値的なアレだったのかな?



『ナオキさんが取り込んだのはオーガベルンの業、【カルマ】です。経験値と考えて問題ありません。高レベルの生物は無駄な殺生数も多く、レベルに応じた経験値カルマを貯め込んでいます』


「業ねぇ……あまり貯めたくはないな」


『それとナオキさん、この世界の生物からは【魔核】と呼ばれる石が採れます。ほとんどの生物は心臓に魔核が付着しています。魔核には様々な用途がありますので、採取をお勧めします』


「魔核? へぇ、お前は何でも知っているな」


『……大気中に魔素が存在する世界での生物は、どこの世界でも同じ様に魔核を体内に宿しています』


「なるほど。じゃぁ、魔素って何だ?」


『知性の低い魔族や魔獣、いわゆる『魔物』が跋扈する【魔窟】や【ダンジョン】と呼ばれる場所から放出される物質です。毒性はありませんが、生物によっては魔物化します。魔素が存在する世界で魔素が無くなると、生物は死滅します』


「それは俺もか?」


『貴方は先天的に【バッドステータス無効】を所持している為、本来異物である魔核の生成が魔素吸引では生じず、魔核を宿した生物が必要とする魔素を体内に取り込む必要がなく、魔核を素にした魔力を持たずMPが生成されません。即ち、魔核の魔素と体内魔力を全て失い死に至る『魔力枯渇』や状態異常の『MP切れ』になりませんので、大気中の魔素枯渇による死はありません』



 って事は、この世界から魔素が無くなったら、俺は一人ぼっちになるな。


 ボッチは構わんが、アートマン様の信者が増やせんのは困る。



「大気中の魔素は十分にあるのか?」


『地域により多寡はありますが、全体的に減少傾向にあるようです』


「……何故?」


『魔窟やダンジョンを制覇し、魔素の放出を止める者の存在が原因です』


「え? 何で? 馬鹿なの?」


『この世界の知的生命体、特に人間ですが、魔素の存在を否定しているようです。名誉と財宝を求めてダンジョン攻略に励んでいます。魔素を視認出来る知的生命体は極僅か、その極僅かな種族は人間に敵視されていますので、魔素枯渇の危険性を人間に説く度に人間から攻撃を受けているようです』



 あぁ~、目に見えない存在を教える難しさか。悪魔の証明だな。


 火と酸素の関係みたいに、魔素と何かでその存在を理解させる事も出来そうだが……



『魔核から生じる魔力を感知する技術は人間も有していますが、大気中の魔素を感知する技術は無いようです。魔族や魔獣等は魔素を五感のいずれかで感知出来ます』


「なるほど。大気中から完全に魔素が無くなるのは、何年先?」


『長命な種族の貴方が生きている間に枯渇するでしょう。魔素を消費する生物の数は増え続けていながら、魔窟とダンジョンは減り続けていますから』



 最悪だな。何か対策を考えていた方がいいか……

 今の俺がやれる事と言えば、ダンジョン攻略者の妨害か?



「まぁ、今簡単に考える事じゃねぇな。本日のヴェーダ先生の授業はお終いだ、大熊の魔核を採ろうか」



 ヴェーダとの話を切り上げて、大熊の横に座る。


 刃物が無い。


 腹を引き千切るか?

 だが毛皮が勿体無いような気もする。


 そんな事を考えていると、背後から震えた声が聞こえた。



「あ、あのぉ~」

「……あ?」



 ハゲ散らかした醜い小人が涙目で微笑んでいた。

 まだ居たのかコイツら。完璧に忘れていた。



「何か用か?」

「ッッ!!!! ま、ま、魔族語がお上手ですねぇ~」


「魔族語?」


『人間や亜人以外が使用する言語です。魔族は人や亜人以外で文化・文明を持つ者達の総称で、魔族という種族は居りません。ナオキさんが耳にした【魔族】という言葉は、あくまで名詞の翻訳です。魔力が高い種族とお考え下さい』



 へぇ~。ちなみに、日本語翻訳無しでの【魔族】の正式名称は?



『ピッコロ・ダイマオ、『魔素に愛される者』という意味です』



 ほほう。今度から言語理解だけで話を聞きたいな、面白い。



『そうしますと、会話が一方通行となります。ナオキさんは言語を理解出来ますが、魔族語を翻訳能力無しで話せず、相手は日本語を理解出来ませんので』



 なるほど、残念。



「あ、あのぉ~、何か、お気に召しませんでしたでしょうか?」


「ん? あぁ、いや、ちょっと考え事をしていただけだ」


「さ、然様で……」


「で? 何の用だ? 魔族語を話せるのが珍しいか?」


「は、はい。え~っと、そもそも魔獣は……いやいや、貴方様が魔獣であると仮定した話で御座いますが、魔獣は言葉を発しませんので、いささか驚いた次第で御座います。私は一族を救って頂いたお礼を申し上げようと、声を掛けさせてもらいましたところで御座います。先ほどは我々を救って頂き、有難う御座いました」



 目の前の醜い小人が美しい土下座を披露。


 すると、周りの小人達も再び土下座。『両膝を突いて頭を下げる』ではなく、正座からの土下座だ。


 女性の小人達は相変わらずケツ見せ土下座だ。

 ……誘惑じゃないよね?



『妖精族ゴブリン種の女性が、異性に対して服従と求愛を示すポーズです。男性の土下座は服従のみ示しております』



 服従と求愛か……


 コイツらが妖精だという事実の前には些細な情報だな。


 取り敢えず求愛はお断りしたい。

 スマンが……今は愛せる自信が無いんだ。



『ゴブリンの女性は、進化を繰り返すと最終的に【パイズリン】というゴブリンの女王になります。全属性の魔法を操る絶世の爆乳美女です』


「……それは、マジか?」


『貴方の記憶にある美女がゴミに思えるほどに』



 俺はケツ出しハゲ達の顔を確認するが、見えない。


 ただ、男も女もハゲ散らかしているのは判る。

 体色も薄い緑、体表にイボが沢山ある。

 果たしてコレが美女になるのだろうか?


 だが、神から授かったヴェーダが言うからには、美女になるのだろう。


 ひとまず、進化とやらをさせてみたい。どうすればいい?



『レベルが30上がる毎に進化します。進化は分岐が発生し、進化先により最終形態が変わりますので、パイズリンを目指す個体には私が進化先を指定しましょう。ゴブリンの男性も最終的に強力な個体『センズリン』となりますので、このまま彼らを眷属として迎える事をお勧めします』


「後方支援は万全だな、最高の相棒だお前は」

『畏れ入ります』



 って事は、コイツらを鍛えてやればいいのか。

 その前に、眷属だったか、どうやって眷属にするんだ?



『彼らは既に服従を示しておりますので、ナオキさんが彼らの体に精気を流し込めば眷属となります。精気は手の平から放出出来ます。その際、彼らの体に異変が起こり、種族が変わりますが問題ありません』


「なるほど」



 先ずは、俺に話し掛けてきたハゲにやってみるか。



「おい、お前の名は何だ?」


「はっ、私は『マナ=ルナメル氏族』の長をしております『ミギカラ・マナ=ルナメル』で御座います。以後、よしなに」


「……ああ、宜しく。ところでミギカラ、突然だが俺の眷属になってみないか?」


「なっ!? そ、それは願ってもない!! こちらからお願いしたく存じます!!」


「おぅ、なってくれるか、有り難い。では、近くへ寄ってくれ」


「ははぁ~!!」



 嬉しい事に、ミギカラは望んで眷属になってくれるようだ。


 しかも、ミギカラのあとを追うように次々と他のゴブリン達が群がって来る。


 女性のゴブリンは男を押し退けて先を争う始末だ。

 コラコラ、割り込み禁止だぞ。


 正座して俺を見るミギカラの額に手を添え、精気を流し込むように念じる。


 右手が温まり精気が放出されるのが分かる……が、どれくらい流せばいいのか?



『相手の精気受け入れ容量次第です。精気が満ちれば放出は自然に止みます』



 なるほど、じゃぁ、一気に流し込むか。

 ソイヤぁああああ!!!!



「ッッ!! こ、これは!? んっ、んほぉぉおおおおおおっ!!!!」


「だ、大丈夫か? 何か、体が光ってるぞ?」


「んんんんぉおほぉおおおおおっ!!!! キマシタワーー!!」



 ミギカラは突然立ち上がり、右の拳を天に突き上げた。


 ハゲ散らかした頭に七十本の新毛が生え、醜い顔はブサイクになり、荒れた肌は不健康な肌へ変わり、汚れた緑の体色は不潔な灰色へ、134cmだった身長は135cmに、見るに堪えない乱杭歯は不快極まる乱杭歯と化した。


 何故かドヤ顔のミギカラが、順番待ちのゴブリン達に向き直り、呟く。



「ステイトァス・オゥペェンんぁ……オゥ、イェア。ステータス表示が見易くなってるぜ」



【名前】ミギカラ・マナ=ルナメル

【種族】マハトマ・ゴブリン

【レベル】24 【年齢】68 【性別】男

【状態】絶好調 【ジョブ】戦士 【官名】氏族長


【耐力】1,200 【精気】1,840

【総合力】4,200パワー


【特技】

『棍術:Lv11』 『遁走:Lv28』 『指揮:Lv34』

『強運』 『子作り:Lv53』 『自然回復:極小』

『土魔法:Lv1』


【称号・加護】

『アートマンの加護・二型=言語理解・総合力3%上昇』

『氏族の英雄=指揮のLvが上がり易い』

『色魔=子作りのLvが上がり易い』

『岩猿の眷属=全体的な能力が20%上昇・土魔法取得』


【耐性】

『火炎耐性』 『物理耐性』 『即死・呪殺耐性』

『土・金属性耐性』 『飢餓耐性』




「フフ……フハハハハハッ!! 見ろっ!! このステータスをっ!! まるでホブゴブリンではないかっ!! 称号も加護も耐性もっ、増えすぎて萌えるぜヒート!! 煮えたぎるブラッド!! 響くぜ俺のハートビートォォォッ!!!! 俺は生まれ変わった、獲るぜ、テッペン」


「「「「うおおおおお!!!!」」」」

「「「「ミーギッカラッ!! ミーギッカラッ!!」」」」


「主様、ちょっくら隣の氏族……シメて来ますわ」


「お、おう」

『お待ちなさい』


「ッッ!! な、何だコリャ…… 頭の中にハクいスケのボイスが聞こえてきたぜ」


『私は知識を司る者、ヴェーダ。貴方の主であるナオキ・ザ・グレイトの相棒です。姿は見せませんが、ナオキさんの伴侶的なアレと理解しなさい』



 ……ナオキ・ザ・グレイトってお前……



「な、何ぃぃ!? 主様の相棒で伴侶ぉっ!! って事は、ネェさん……ですか?」


『そうです、姐さんです』

「分かりました、で、待てとはどういう事で?」


『今後の方針が決まっていません。襲撃はゴブリン達の眷属化が完了したのち、作戦会議を開いて方針をナオキさんが決めてからです。単独の襲撃は認めません、オーガベルンの皮を剥いで肉をさばいていなさい』


「了解しました。俺の黒曜石ナイフでダンスってきますわ」


『宜しい。華麗にダンスってきなさい。期待しています』


「では主様、ダンス・ウィズ・ゴブリンズ。~森に抱かれて~」


「……うん」



 テンションが上がって気色悪くなったミギカラは、ちょっぴり増えた髪を掻き上げながら俺を横切って背後に回り、腰布に差してある黒曜石のナイフを大熊の胸に突き刺した。


 黒曜石のナイフは見事に折れた。



『酷いダンスです。失望しました』



 ヴェーダの罵声を無視して、俺は眷属化を続けた。

 ミギカラは羞恥に震えていた。


 その後その後、喋り方は普通になった。ドンマイ。






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