第16話 遺書

  【遺書】

 恐らくこの旅路の果てに私の八十年の望みは成就するだろう。そうなることを祈ってこの遺書を書く、といっても私のはまるきり人真似に他ならない。君達とは違って書き連ねるような悔いやら想いやらは無いからね。よって、私は残された生者のために筆を取ろう。

 君は余計な良心で自己を縛り、自分の一生に私の死に様を焼き付けるに違いない。自分の喜びも幸福もかなぐり捨てて、贖罪のためだけに残り少ない時間を過ごすことだろう。だから、君にいくらか呪いの言葉を送ろうと思う。一度見ればこの言葉は君の魂に刻まれて、頭を離れることはないだろう。これは君への罰だ。ゆめゆめ背くことのないように。

 屍を越えて、死体の横で高笑いしろ。幸福な殺人者であれ。それが人間の在り方というものだ。

               奥野瞳

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荒廃したこの世界で恋した君を殺すまで ガジュマル @kazu00009999

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