第15話 荒廃したこの世界で俺は君に愛を知る
◆◆◆
翌日、私達は昼頃に目を覚まし、そのまま朝食も取らずに帰った。
全てが終わって帰ってきても数日間湊は私の元を訪ねてはこなかった。
同居しているわけではないし、単なるご近所さんなので当然と言えば当然だけど、それでも心配だった。
そんなある日、誰かが扉を叩く音がする。
私は急いで階段を降りた。途中転落しそうになってひどい音を立てたが構わず扉を開く。
「大丈夫!?」
「お前の方が大丈夫か?」
良かったと胸を撫で下ろす。
前にもこんなことがあったような。
「心配したよ、全然姿を見せないから。」
「すまない。」
彼の顔を覗き込んだ。
湊はいくばくか緊張した面持ちだった。
そして、勇気を振り絞ったようにこう話し始めた。
「旅に出ようと思う。色々考えたんだが、やっぱりお前の意見に従った方がいい気がした。寿命の短い俺にとっては一生の旅になると思う。だから、お前の言った通りラブコメみたいな楽しいものにしたいんだ。同じコールドスリープ被験者だったお前もこの先長くないかもしれない。だけど――」
「どうして・・・・・・」
思わず口に出してしまう。
次に彼が何を言うか気づいてしまった。
そのせいで栓が抜かれたように我慢していたものがどんどん溢れ出していく。
「え」
「湊は私の気持ちを無視して、もう気がないのかと思ってた。だから、せめて今アンタを一人ぼっちにしちゃいけないってずっと自分に言い聞かせて、友達でいようって、諦めようって。なのに、なのに!」
今までのものが全て込み上げて、大粒の涙となって溢れていく。
「ごめん。」
違う、そんな言葉が聞きたいんじゃない。
「何で今更!」
「――俺は幸せになっちゃいけないのかと思っていた。人を殺す奴にそんな資格はないのだと、自分に言い聞かせていた。だから、お前の気持ちも蔑ろにして人生を投げ捨てるつもりだった。」
そう言って彼はポケットから一枚封筒を見せる。
そこには【遺書】と書かれていた。
「だけど、あいつはこれを遺した。だから、俺は自分の幸せのために残りの人生を使おうと思う。」
そういうと、彼は俯いていた私の顔を手でそっと持ち上げて、彼の目と合うようにして――
「俺だけ勝手にお前を残して先に逝っちまうかもしれない。計画性のない俺はこれから散々迷惑かけると思う。もしかしたら、道中酷い目に遭うかもしれない。それでも、沙里、これから一生俺に、自己中で自分勝手な俺に残りの人生、死ぬまで付き合ってほしい。沙里、俺は――」
それはずっと私が言って欲しかった言葉。私が夢見ていた言葉。
「一生お前にそばにいてほしい。」
声にならない声を出して私は随分と泣いた。
自分勝手だと、そう言ってやりたかった。
何度も彼の服の裾を引っ張って、彼の胸を拳で叩いて泣き続けた。
それでも、結局私の言うことは決まっていた。
ガラガラになった声で発声練習をする。
涙を拭って、鼻水を啜って、今できる精一杯のキメ顔で、
「仕方ないわ、付き合ってあげる。」
赤く腫らした顔で私は言い放つ。
「ありがとう、沙里、愛している。」
彼は私を抱きしめた。
優しく慈しむように。まるで彼に包まれているようで、これが私がずっと欲していた彼の温もり。
これが私が感じたかった心の温度。
彼の手には、彼女の遺書が握りしめられていた。
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