第12話 オペレーションベータ 2日目
翌日、朝食も俺が作った。ここにいる間は俺が料理を担当することになっていたのだった。
橋下は朝からうるさい。元気一杯の小学生のようだった。
俺と会った時は完全に猫をかぶっていたと言うわけだ。
いや、初対面でこのノリでこられると此方としても困るわけだが。
流石に早朝の海は寒いだろうということで、午後から海に入ることになった。
文句を言う橋下を諌めるように彼女が取り出してきたのは水鉄砲である。
そんなもの、どこから取り出してきたのだろうか。
橋下は目を輝かせているが、俺は嫌な予感がした。
「二人ともちょっとずるい、私だけ銃扱ったことないじゃん!」
「一番やりたがってたのお前だろ!」
予想通りだった。
試しに頭上に紙製の的を作ってみたところ、彼女の一人勝ちであった。
俺もいくらか射撃の心得があったものの、やはり本職は違う。
数時間、俺と橋下が一方的に水を浴びた後、今度はビーチバレーをすることになった。
持ってきたのは橋本である。俺はまたも嫌な予感がした。
「一人だけ機動力が違うじゃない!」
「気付くのが遅いんだよ!」
予想通りだった。
人数が足りないので一対二の勝負になり、代わりに彼女は五回までなら触っていいことにしたが、一人だけ玉の速度が違った。
彼女はまだ鉄砲遊びをしているらしい。
橋下は彼女を最大限動かそうと隅の方にサーブをするも、彼女は足場の悪い砂浜で意味不明な機動力を発揮し華麗にキャッチする。
数時間、我々の目の前でボールとスコアが地面に落ち続けた。
結局、お昼時まで俺たちは蹂躙され続けたのだ。
やつれた足取りで厨房に戻る。彼女は俺の出した料理を訝しんだが最終的に完食した。
橋本の作戦は今の所、順調であった。
食後に今度は水泳競争をしようと彼女は提案したが、我々敗戦国は丁重に休戦協定を申し入れた。
これ以上プライドをズタズタにされたくはない。
彼女は残念そうな顔をしていたが、結局一人でも泳いでいた。
まるでサメみたいだ、恐ろしい。
俺たち二人は特にすることもなく、ただぷかぷかと浮き輪に乗って浮かんでいた。
「浮き輪って小学生じゃあるまいし。」
「湊だって使ってるでしょ。」
「あるから使っているだけだ。わざわざ数週間もかけて探し回るものじゃない。」
「トンカチな女の子は可愛いじゃない?」
「色々と重いから沈むんだろうな。」
橋下はそれはダメだろうというふうに睨みつけてきた。
失言だったかもしれない。後で素直に謝った。
昨日は仕方なかったものの、そんなに多くの食料を持ってきているわけではなかった。
海水浴を満喫した後、三人で海釣りをすることになった。
俺は三人で固まって釣ろうといったのだが、穴場があるのだと彼女は少し向こうのほうに行ってしまった。
◆◆◆
今日の計画のことを思い出す。俺は随分と楽しみすぎてしまったようだ。幸福に取り憑かれて、魅せられて、もうこのまま三人で馬鹿騒ぎしたまま一緒に暮らすのも悪くないと思った。
しかし、そんなことは許されない。俺が最初に指を掲げたんだ。
橋下を最後まで引っ張っていかなくてはならない。
ふと気付くと夕方になっていた。釣竿をあげると、いつの間にか小さい小魚が針にかかっていた。
どうやら、気づかないまま放置していたようだ。
戻ろうとする俺に橋本が声をかけてきた。
「大丈夫?」
「・・・・・・ああ。」
そっけなく返事をする。夕日に照らされた海を背にして、俺は暗闇を見つめていた。
「緊張するのは別に構わないわ。むしろ、作戦としては好都合だと思う。」
橋下は目を合わせようとしない俺の腕を掴み、心配そうな様子で俺の顔を覗き込む。
「これが最後になるかもしれない。だから、せめて悔いがないように。」
「そうだな、ありがとう。」
ここにきて初めて橋本に感謝を口にした。
海の家に戻ると彼女は既にテーブルについていた。
橋下は彼女の元に駆け寄る。
「何匹釣ったの?」
「四匹だ。」
「残念だけど、私は七匹よ。」
誇らしそうに自慢していた。子供なのか、あいつは。
「お腹がすいた、早くご飯が食べたい。」
彼女に分かったと返事をすると、俺は最後の晩餐に取り掛かった。
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