第48話 魔。

 翌朝。


 何だか色々変な事を考えてしまって頭がぐるぐるになってよく眠れなかったあたし。

 それでも翌日は早くから冒険者ギルドに顔を出すことにした。

 昨夜の聖女様の実習の件も確認してみたかったし、それに。

 とにかく体を動かしていないと落ち着かなかった、っていうのが本音。

 グダグダ考えるよりも何かをしていた方がまし。

 そう思って。


 それでも。

 危険な事件に首を突っ込むのはノワに心配をかけそうだし。

 聖女様の実習くらいなら、ちょうどいいのかも? そうも思って。


 ギルドの掲示板を見ると、案の定今日のお昼からの実習なのに、まだそのクエストは余っていた。

 あたしはアウラと共にサクッとクエストを受注する。


 内容は、王宮の訓練用の裏山で魔を浄化する実地訓練。とのこと。

 聖女二名その補助をする冒険者二名の計四名でパーティを組んで、山の奥に設置された魔だまりを浄化して帰還する。それだけだ。


 参加する聖女様は全員で40名。20組のパーティが必要になるとあってはそりゃあ人手も足りなくなろうもの。

 王宮前の広場が集合場所になっているとのこと。

 急いで辿り着くとどうやらあたしたちで最後らしく、ミラとレイって名前の聖女の卵がパートナーとして決まっていた。

「お願いします」

「よろしくお願いします」

 さすが聖女様って感じでおっとり挨拶されて。

 他のパーティはもうあらかた出発した後。あたしたちは挨拶もそこそこに森の奥に入って行ったのだった。


 役割は聖女様の補助。

 要するに求められるのはアタッカーとしての魔獣退治だった。

 その辺はあたしもアウラも軽々こなせるから問題はなかったけど。


 途中。

 早々と課題をクリアして帰ってくるパーティとすれ違う。

 魔だまりはちゃんとパーティの数分用意されているという話だったし、その魔を感知して最短距離で辿り着くのも聖女の力次第。

 あたしたちが遅くなったおかげでこのこたちが不利になったら可哀想だし。

 そう思って少しだけ力を貸す。

 あたしが感知した魔に向け、それとなく誘導してあげることにして。


 実習自体は経験のためとのことで別に点数がつくわけではないらしい。

 早かろうが遅かろうが、その辺は聖女たちの席次には関係はないってレクチャーでは聞いたけど、それでもね?


 せっかくだもの。




「マキナ様、凄いデス」

「アウラ様も素敵デス」

 はは。

 ちょっとやりすぎた?

 道中も半ばを過ぎた頃にはもうすっかりミラとレイの目がハートになってる。

 まるで女子校の後輩のようなノリで見つめられて。

 しょうがないなぁ。

 そんなふうに思いながらもでてくる魔獣を見ると手加減はできないし。

 サクサクっと倒して先に進むのだった。



 え?


 しばらく行った頃、目標の魔だまりが急激に膨らんだのがわかった。


「主さま、これは……」

「ああ、ダメ、だね。周囲に人の気配もある」


 今回の魔だまりは魔術的に結界であらかじめ閉じ込められた状態であるはず。

 自然の状態の魔だまりではなく、結界の中で閉じられそれ以上には広がらない、そういう処置がされているとの話だった。


 でも、これは。


 まるで、上質な闇を吸収したような嬉々とした感情まで見える。

 生きている、魔。

 なんだろう、あれは。

 まるで……。


 人間であったノワを食べたあの魔。

 あれと同種の魔獣の卵の匂いがする。


 あれは、危険だ。そのままにしておいたらこの一帯の空間が破れてしまう。

 そんな悪い予感が頭の中で警報を鳴らして。


「ミラ、レイ、あんたたちはここから動かないで。危険だからここで防御結界を張って待ってて」


 あたしはそう言い残すとそのままその魔に向かって走った。

「アウラ!」

「はい、主様!」

 アウラから分離したマギア・アウラクリムゾンの盾を左手に二枚纏い。

 あたしは牽制の竜の咆哮ドラゴンノバを最小出力で放った。

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