第44話 魔だまり。

 今日の実習には街の冒険者ギルドの面々が駆り出されていた。

 胸にキランと輝く銀のプレート。

 貴族の場合は貴族章、冒険者の場合はこのギルドカード、それらはこの世界の身分証となっている。

 別に冒険者をするつもりのない平民でも身分証としての役割の為にギルドカードを取得する者も多い。その為、商業ギルド、職業ギルド等全てにおいて個人の魔力紋を登録したカードが全て同じシステムで発行されていた。

 聖女の塔の場合でもこの銀のプレートが職種カードとして配布されていた。

 ノアも胸に聖女カードをぶら下げて。

「マリアンネ様! 今日はよろしくおねがいします!」

「あら、今日は貴女と同じパーティなのね」

 集合場所の広場につくと、もう既に抽選で本日のパーティメンバーが決められていた。

 ノアはマリアンネ、そしてギルとバードという名前の男性冒険者との四人パーティ。

「お嬢様方、宜しく頼むぜ」

「まあ前衛は任せてくれ」

 そんなcランク冒険者二名に宜しくお願いしますと挨拶した二人。

 本日の課題。

「森の奥深くに設えられた『魔だまり』の浄化」

 に向け、裏山の森に足を踏み入れたのだった。


「サンダーブレード!」

「アイススピア!」

 前衛二人は魔法剣士だったらしく、それぞれ手持ち武器に魔法を纏わせ魔獣を狩っていく。

 そんな二人に補助魔法のバフを掛けつつ防御魔法を張りめぐらせるマリアンネ。

 ノアは。頑張って治癒魔法キュアを掛けるもののかすり傷ひとつ満足に治癒出来ず。

「まあ気にするな。これくらいなら舐めときゃ治る」

「そうだよ、この奥が本番だから」

 そう慰められて。

(あー。あたしはやっぱり何やっても足手纏いだ)

 そう落ち込むばかり。


 こういった実習ははじめてではない。もうすでに何度も同じような実習が行われている。

 一人前になった聖女の配属先は騎士団であったり勇者パーティであったり普通の冒険者パーティであったり様々だけれど、基本求められるのは治癒補助浄化の三点だ。

 それも、このような実習では聖女二名での参加もあるけれど普通はどんなパーティにも聖女はせいぜい一人だけと相場がきまっている。

(聖女の出来がパーティメンバーの生死に関わるのだから……)

 そう思えば思うほど普段の力も発揮できなくなる。

「もっと肩の力を抜こう? ね? 今はまだ実習、本番じゃないんだもの」

 そうマリアンネにも諭される。


「ごめんなさい……あたし……、がんばります……」


 そう俯いてつぶやくのが精一杯なってしまっていた。




 そうこうするうちに目的地が見えてきた。

 黒い沼のような魔だまり。

 瘴気を撒き散らし周囲にどんよりとしたモヤがかかっている。

(これが魔だまり?)

 今回のはあくまで実習用に設えられた物。本当に自然発生したものほどの危険は無いはず、と。

 そうは思うもののどうしてもその闇に落ちそうになる。

 心の奥底が引っ張られる気がして。


「しっかりしてノア。いくわよ、ピュリフィケイション!!」

 魔だまりを目にし立ちすくんだノアの肩を揺すって、そのまま背後にまわしたマリアンネ。

 正面の黒隗にむけて浄化魔法を叩き込んだ。

「あ、ダメ、マリアンネ様!」

 金色の粒子が魔を浄化するかと思われたその瞬間。

 黒い無数の手が伸びてマリアンネに迫る!!


 咄嗟に彼女を庇い前に出たノア。黒い手は、そんなノアを捕まえてその中心へと引き寄せた。


「なんだ! 何が起こっている!?」

「ノア!」

 ギルとバードがそう叫ぶ。

 それはまるでその黒い手が見えていないかのように。


 魔の中央に引き摺られていくノア。

(いや、いや、嫌ー!!)

 ノア絡みついた黒い手は、どれだけもがいても解かれることはなく。

 そのまま黒い魔だまりに堕ちた。


「ノアー!」

 マリアンネの悲痛な叫び声があたりに響き渡った。

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