第42話 ゲームシステム。

 空間を跳ぶ。

 ゲームだった頃は普通に都市と都市の行き来に使える魔法だった。

 まあ魔法が得意じゃない職種の場合はアイテムを使って跳んだりしたけど、賢者や魔法使い、それに職業勇者であれば割と早いうちに覚える魔法。

 だから結構この世界でも普通のことだと思ってたんだよね。


 だからね。

 気がつかなかったんだ。あたしのこの魔法がほんとに特別なものだったなんて。


 ノワが、

「マキナは絶対に人前でその収納魔法と転移魔法は使っちゃいけないよ」

 って言った時は、あたし事の重大さをちゃんとわかっていなかった。



 確かにゲームの世界では都市移動にそんなに時間をかけていられないし、こういったスキルは必要だったんだろう。


 それでも。


 便利すぎるもの。

 普通に経済活動が破綻するくらい便利。

 レイス収納と一緒に使えば、あちらで仕入れたものをこちらで売るとかそういうことも簡単にできてしまう。


 そのせいか、このゲームじゃない世界では空間転移ができるアイテムもレア中のレアでほぼ存在が確認されていない、だの、個人でこうしたスキルを持っている人間っていうのも聞いたことが無いだのと言われても納得するしかできなかった。

 ラプラスでも出来ないだろうってノワ。

 本人には直接聞いたわけじゃないけどどうやらそういう概念が無いのだと言われてしまった。

 ギア・アウラにちゃんと転移の権能があるのは確認してるから、もしかしたらラプラスならあたしが転移をする所をしっかり見ていれば使えるようになるかもしれないなってそんなふうにも思ったけど。


 転移の基本は簡単に言うと、今居る空間をくるんとひっくり返し転移先の空間と入れ替える。それだけだ。

 空間を構成している次元の膜、ブレーンの内側には距離という概念が存在しないから出来る事。

 まあゲームの場合は場所っていうのはデータでしか無いから座標を入れ替えるだけだったわけで、今だって結局その場所の座標を計算できないとちゃんと目的地に跳ぶことは難しい。もし空間を触れたとしても迂闊に使うと帰ってこれなくなる危険もあるから、やっぱりこの世界の人に教えるのはちょっと怖いかな。


「主さま? こうやって歩くのもなんだか楽しいですね」


「でしょう。あたしもこうやって体を動かすのもいいかなって、最近思うようになったの」


 元の世界ではあまり体を動かすのは得意じゃなかった。

 運動神経がないって散々揶揄われ、体育の授業ではいっつもミソッカスだったあたし。

 目もあんまり良くないもんだからずっとメガネだったし余計に運動は避けてたからダメなんだろうけど。


 この世界のこのマキナの体は本当に軽い。

 なんて言ってもちょっとぐらい走っても息切れすることがないのがこんなにも気持ちのいいことだったなんて知らなかった。


 アウラもなんだか楽しそうだしほんとよかった。


 真っ赤なレンガの道はまっすぐ伸びて、近所の村々も遠くに見えるそんな田園の道。

 この紅い街道はこの国だけでなく世界中に伸びて主要都市を結んでいるんだったっけ。

 流石に山の中までは伸びてないしほんと主要な街道だけだけど、大きめな馬車がすれ違うことのできるくらいの広さに敷き詰められた煉瓦が欠けることなく整備されている。


「この道はギアによって自動修復されますからね。永年こうして同じ姿を保っていられるんですよ」


 え?


 今、アウラがサラッとそんなことを言った。


「オプスが担当してますからねー。こういうことは」


 って、何?


 それって。ギアたちを統率しているゲームシステムがこの世界にちゃんと存在しているってこと!?

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