第41話 王都への旅。

 ここ、マギアスガルドの王都はこのロムルスから南に降った海岸沿い、内海を一望できる抜群の眺望と背後を切りたった崖で囲まれた天然の要塞のような場所にあり、長きに渡ってこの地を収める聖王家の創始者、ルードリッヒ・フォン・ヴァインシュタインによってこの地に首都として定められたのが始まりだという逸話が残っている。


 ゲームのマギアクエストにおいてこの王都はまずここ始まりの街で経験値を積んでから最初に訪れることとなる、いわばプレイヤーの本拠地とでもいうべき都市だ。

 周囲には適度に経験値が稼ぎやすい初級なダンジョンから、上級者でも楽しめる迷路のような複雑なダンジョンまで揃っている。

 当然ありとあらゆる素材も手に入り、生産職でも充分ゲーム世界を楽しめるようになっていた。

 特におすすめだったのが錬金彫金士アルケミスト

 稀に生み出すことのあるレアなアクセサリーが聖魔具アーティファクト並な魔機械マギアと成ることもあって、一攫千金を狙うならこれ一択とも言われてた。

 サブキャラ、サブのアバターの職業をこの錬金彫金士とするものも多かったかな。


 服飾士とか鍛治士も人気だったけど、やっぱり極めるなら錬金、なのかなぁ?

 まあそうそうそんなレアアクセができるわけもなく、もちろん金がそうそうできるわけもなくって。どんな職業もそう簡単じゃないっていう見本みたいな世界ではあったのだけど。



 そんなわけで今日はあたしは王都に行くことにした。

 え?

 どんな訳って?

 それはね、せっかくマギアクエストの世界に来たんだもの。王都も実際にこの目で見ずにキシュガルド行きっていうのはね?

 流石にちょっともったいない気がしたの。


 ノワはまだソユーズたちと調べ物があるからっていうから今日は一人。

 ああもちろんノワとはレイスの奥底の糸で繋がってるから、どんなに離れていてもいざとなればテレパシーみたいな念話で会話ができるのは確認済み。

 それに、万が一ノワに危険が及ぶようなら、あたしはどこからでも彼の元に転移して跳ぶつもり。

 だから安心して?

 ってそうノワに言ったら逆に怒られた。

「俺が心配なんだ」

 って。そう。


 でも、なぁ。

 多分きっとあたしは大丈夫だから。

 ってそう言ったら火に油を注ぎそうだったからそれは言わないでおいた。

 その代わりに。


「ねえ主さまぁ。なんで跳んで行かないんです? 王都くらいだったらチョチョイのちょいですよ?」

「そう言わないの。アウラ。こうやって風景を楽しむのも一興よ」


 あたしは呼び出したこのアウラ・クリムゾンと共に二人で王都まで行くことにしたのだった。


 真っ赤なルージュに艶めく紅い髪。

 見た目は完全に普通の少女のようにしか見えない彼女は実は竜種最強と謳われた紅竜レッドクリムゾンの本体とでもいうべき存在で。


「主さまのことはわたしに任せてください。絶対に傷ひとつつけませんから!」

 胸をポンとたたきそう宣言する彼女に、ノワも折れてくれた。


「それでも。何かあったら絶対に俺をよべ。マキナ。なんとしてでも駆けつけるから」


 そう、じっと見つめるその目に。


「ありがとうノワ。うん。絶対にあなたを呼ぶよ」


 あたしはちょっと目をうるっとさせて上目遣いで彼を見て。


「大好き! ノワ」


 そんなふうに言ってくれるのが嬉しくって。あたしは思いっきりノワに抱きついたのだった。






 るんるんと鼻歌を歌うように楽しそうに歩くアウラ。

 実はあたし、さっきはちょっとアウラに嘘をついた。

 ゲームとは違いこの世界ではまだ王都に行ったことの無かったあたし。

 空間転移で跳ぼうと思ったけど分からなかったんだよね。王都の座標。

 きっとアウラならほんとにひとっ飛びで行けるんだろう、けど。

 時空や空間そのものを司るアウラならそれくらいお茶のこさいさいなのだろう、けど。


 そんなのね、呼び出した最初から頼ってたら、なんだかアウラに負けた気分になって嫌だったの。

 なんてね。

 ちょっとしたプライドが許さなかったのだ。


 まあそれでも。

 王都までの旅を楽しもう。少しくらいのんびりしても、いいよね?

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