第29話 油断。
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「っく、化け物か!」
目の前に立ち尽くす魔法剣士ソユーズがそう吐き捨てるように言った。
失礼ね。人を化け物呼ばわりなんて。
まあでもこれこそがあたしがなんとか考え出した作戦なのだからしょうがないか。
ノワールの復讐はしたい。
でも、やっぱりね。人殺しはしたくないんだ。
甘いって言われればそうなのかも知れない。
生きるか死ぬかの瀬戸際でもそんな綺麗事を言っていられるのかと問われれば、否、だろう。
でも、ね。
幸い、今のあたしのチートな力を使えば彼らに戦意を喪失させることができるんじゃないか?
あたしバカだから。もうそれしか思いつかなかったっていうのが正解だけどね。
そのために。
相手にはめいいっぱい攻撃させる。
それがあたしには一切通用しないって思わせることができれば?
そして。
あたしには彼らを一瞬で灰にできるだけの魔法があるって見せつければ?
どんな人間だって最後には根を上げる。
そう思ったんだけど、ね。
あたしは周囲のエネルギーの大半を自分のレイスに吸い込んで。
そして視界が開けたところでおもむろに笑って見せた。
いかにも余裕がありそうに。
「ふふ、じゃぁ2回戦、行きましょうか?」
そう言っていくつか牽制の魔法を放つ。
もちろん手加減は忘れない。
彼らも気を取り直して? 攻撃魔法の応酬で第二幕の幕が上がった。
あたしが手数を多くしていくとだんだんとその三人には余裕がなくなってきた。
あたしに向かってくる攻撃は、アウラクリムゾンの盾が自動で薙ぎ払ってくれているからもう完全に防御は無視して魔法を撃てる。
対して向こうは襲いくる火の矢氷の矢を交わしつつの反撃。
三対一であってもあたしの方に軍配が上がる。
こうしてじわりじわりと三人の体力を削るのが目的なんだけど、あたしの息も上がってきたよやばいかな。
あたしの絶対防御、さっきの物理無双のような大魔法に耐えた防御には実はタネがある。
というのも。
まあアウラクリムゾンの自動防御は役に立ってるとはいえ、それだけであの大火力と絶対零度が混ざったような大魔法を防ぐには限界があったと思う。
ほんと、前もってちゃんと準備をしてなければ消し炭になってたのはあたしの方だったかも知れない。
当然、あたしがいくらチートな天神族であったとしても、素であれに耐えられるかといえばノーだ。
いくらなんでもそんな化け物じゃないよあたしだって。
あたしの皮膚の、ほんのちょっと周囲には、現在アウラの壁ができている。
ギア・アウラによる次元の壁。
そう。空間そのものを断絶するそんな次元の壁、バリア、そういったものをはっているのだ。
これによって全ての物理に伴う魔法攻撃を無効化している。
当然、熱エネルギーやそれこそ放射線であっても通さない。
レーザー光線だって防ぐ自信があるよ。
っていうかゲームの空間防御って、宇宙空間に出ても平気、みたいなノリだったし。
もちろんそのバリアと自身の隙間には右手にはめた創造のオプスの指輪、マギア・オプスニルから新鮮な空気などなどが供給されているから。
あたし、ものすごく薄くて丈夫な宇宙服を着てるみたいな? そんな状態になってるわけ。
まあそれにも弱点がないわけではない。
だから初手でそんなことを悟らせないようなるべく相手の攻撃は避けて見せたわけだけど。
皮膚の表面で魔法が掻き消えたら、おかしく思うよね? きっとさ。
「ストナーサンシャイン!」
そろそろ潮時かなって思ったあたしは、その全身から爆裂魔法を放つ。
圧倒的な光の爆裂が周囲を襲い、三人が三人ともその場から吹っ飛ばされる。
ああ、もちろん、死なない程度に手加減はしたのだけれどね。
あたしの体の周囲に集まった光の球が一斉に爆発し、周囲に拡散していった。
そのまま爆散する光の圧力に吹っ飛ばされた三人は、あたしの周りで円を描くように地面に落ちた。
うん。命を奪うほどの力ではないはず。
この三人の身体能力の高さなら、きっと防御力もある程度高そうだから。
このくらいなら。
そう思いながらもちょっと心配しながら、そうとは見せないように立つあたし。
周囲をグネんと目ねつける。
ぐぐ、っとちょっと苦しそうにしながらも、三人とも体を起こそうとしているところを見ると、まだ大丈夫そうだ。
あたしももういい加減疲れが出てるからこれくらいで終わりにできると嬉しいんだけどな。そんなふうに思って。
もう完全に、この勝負勝った気で、ちょっと気持ちも緩んで。
「まだやる気?」
あたしはそう三人に向かって言う。
完全に挑発も入ってる?
まあ彼らのやる気がまだ続くのならもう少し頑張らないとなんだけど。
「なぜ、我らにとどめを刺さない」
正面のソユーズが頭を少しもたげ、苦しそうにそう言った。
身体強化はしているものの、今の爆裂は流石に体に堪えているようだ。
本来だったら仲間の回復魔法がすぐに飛んでくるのだろうな。そういう意味でもすごく悔しそうにそう吐き出すソユーズに、あたしは告げた。
「んー。あんたたち殺してもあたしはちっとも嬉しくならないんだもの」
「だからこうしていたぶるだけいたぶる、と? 趣味が悪いな」
「あなたたちがノワールにしたことを考えたら、まだ優しい方だと思うけど?」
「ふん! 俺たちには俺たちの使命がある。遊び半分のお前とは違うのだよ!」
そういうと、ばっと飛び起き駿動でこちらに迫るソユーズ。
あらあらまだそんなに元気があったのか。
というか余計なこと話してる間に回復した!?
ううん、誰からも魔力の熾りは感知しなかった!
なんで!
「あんたは! ベラベラ喋りすぎたんだよ!」
「そういうこと!」
え?
背後のサイレンとラプラスも急加速でこちらに迫る!?
避けなきゃ。
そう思ったあたしの足首が何かにぎゅっと掴まれた。
「ラプラス、離すなよ!」
嘘! これ、見えざる手? ああ、マナの手、見えざる手だ。
ソユーズが上段に構える。
あ、やばい?
剣に纏ったのは次元魔法。
「次元振動刃!」
あたしは右手に持ったグラムスレイヤーでソユーズの聖剣を防ぐ。
「もらった!」
背後からはサイレン。
ああ、魔力が熾る。
放たれたのは無数のカマイタチ。
空間魔法。
空間そのものを引き裂く魔法。
あたしのアウラクリムゾンが迎撃に出るも、引き裂かれて。
マキナ!
魂の奥底で、あたしはノワの声を聞いた気がした。
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