第28話 三位一体の魔法。
聖剣の周囲に突風が舞う。
それは瞬く間に渦となり、いかづちを纏った漆黒の竜巻となった。
「サイレン! ラプラス!」
「ああ! 赤よりも赫く、弾ける炎よ! イグニッションスパーク!」
「ええ! そのもの、全て止まれよ! アブソリュート・ゼロ!」
魔法というものがマナをエネルギーである魔力へと変換し起こすものである以上、人はその体内のマナをゲートを通じ外に出してやる必要がある。
その時に、ゲートからマナを放出し魔力に変えるその瞬間。
魔力を熾してやる瞬間に、その魔力に指向性を持たせるのが呪文や詠唱と呼ばれるものだ。
もちろんサイレンやラプラスのような無詠唱での魔法行使は不可能ではないし、その分魂の底からの意識というもの、思考そのものが魔力に指向性を与えることになるのだが。
そうであったとしてさえ、より短時間により高位の魔法を行使するためには、詠唱や魔法陣の助けを借りる方が効率的ではあるのだ。
二人が詠唱をもって放ったその二つの高位魔法は、それぞれのエネルギーを嵐と変え先にあった漆黒にまとわりつく。
その三位一体の魔法は、まるで触れるものを全て消滅させるほどの力となり。
そして。
「泣き叫び許しを乞うなら今のうちだぞ、小娘!」
「大層な魔法を出してきたわね。でも、あたしは負けないわ!」
「では、死ね!」
ソユーズはそう最後通牒を言い放った後、徐に聖剣を振り下ろす。
全てを包み込むほどに大きくなったそのいかづちの嵐は、マキナが立ち尽くすその周囲の空間毎抉り取るように地面に叩きつけられたのだった。
逃げ場は無かった。
その漆黒は全てを消し去ったはずだった。
「あれを食らって生きていられる生き物は存在しない」
ソユーズは、そう断言するように言い放つ。
「まあ、ふつうならね」
「あれ、普通じゃなかったものね」
バリバリと吹き荒ぶ漆黒の嵐。
纏わりついた熱、そして全てを凍り付かせる絶対零度の帯。
しかし。
まだそこに、莫大なマナの塊が存在する。
「っく、化け物か!」
吹き荒ぶ嵐が普段よりも早く収束していく。
まるでその嵐のエネルギーそのものを飲み込むものが存在するかのように。
視界がはれた時。
そこには無傷で佇む少女の姿があった。
「ふふ、じゃぁ2回戦、行きましょうか?」
その少女はそう、笑った。
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