第27話 紫炎の劫火。
「ディメンション・シーリング!」
ソプラノの透き通るような声が響き渡る。
その瞬間、世界は反転した。
この世界の空間は、膨らんだ風船の表面のようなものと規定されている。
その面部分が現実世界。裏部分にはまた別の世界、魔界がある。
反転したここは、その二つの世界の
全てがグレーに包まれて現実世界がただの虚像として映るそこ、
いきなりそんな異空間に落とされた男たちは、それでもまだ冷静であった。
「ラプラス! 周囲に結界を。サイレンは迎撃用意だ」
ラプラスとサイレン、彼ら二人に指示を出し、庇うように前に出る魔法剣士ソユーズ。
その手には聖剣エクスカリバーを携えて。
——っつ!
心の中でノワールが動揺するのを感じ、彼女は確信する。
その聖剣の本来の持ち主が彼であったことを。
「あなたたち。勇者ノワールを襲っただけでは飽き足らず、その装備までもを奪ったのね!」
樹々の隙間であった場所、男たちよりも一段高い場所からそう叫ぶマキナの声に、一瞬だけ驚愕の表情を見せるソユーズ。
「この異空間を展開したのはお前か! 小娘!」
「あら。これから起こることを考えたら、こうしてあなたたちを隔離しておかないと森がどうにかなっちゃうからね」
その声を聞くや否や、巨大な炎をマキナに向かって放つサイレン。
「無駄よ」
アウラクリムゾンによって受け流されたその炎は、マキナの後方に飛び爆散した。
「ほらほら。怖い怖い。これだから短気な魔法使いは嫌いなのよ。ちゃんと
そう軽口を叩く彼女。
確かに爆散したはずの後方の森、しかしその虚像にはなんら変わりのない樹々が映し出されていた。
「お前、あの時の小娘か!」
サイレンはそう叫ぶと共に、再度2種類の攻撃魔法を放った。
氷の槍と風の刃。
その二つとも威力としては牽制程度のものであったけれど、その分時間的には速く。
見てからでは対処のしようがないほどの速度で放たれたはずのそれ、しかしマキナはその両方とも難なく躱す。
アウラクリムゾンの盾を使用するまでもなくマキナの身体をすり抜けるように背後に飛び去る二つの魔法。
「馬鹿な!」
「馬鹿とは失礼ね。あたしにはあなたの魔法の熾りが見えるもの。見えていれば躱すことくらい造作もないわ」
「ではこれならどう!」
ラプラスのそんな叫びと共にマキナの足元から黒い影が伸びる!
鞭のように伸び彼女の両手両足を拘束するよう蠢くそれ。
しかしマキナはそのまま空中に飛び上がり、そしてその地面に向かって叫ぶ。
「フレイムバーストォー!」
マキナの両手の平より放たれる紫炎の劫火。
最上級の炎の魔法によりその黒の鞭は消し炭となって消え去った。
最初に目にした時は取るにたらない少女だと感じた。
こうして改めて敵対し現れた今であってさえ、先ほどまではそこまでの脅威とは感じていなかった。
しかし。
こちらの攻撃をいとも簡単にいなし、そして見せた最上級の炎、その魔力に。
魔道士サイレンの顔から、それまであった甘さが消える。
「あなたたち。勇者ノワールを襲っただけでは飽き足らず、その装備までもを奪ったのね!」
投げかけられたその言葉を否定も肯定もせずただ目の前の少女と敵対する選択をした彼ら三人。
後衛二人が一瞬躊躇するそのタイミングで、魔法剣士ソユーズだけがその手にした聖剣に雷を纏い上段から眼前のマキナめがけ斬りつける。
武技スキル駿動により、一瞬でその間合いを詰め振り下ろす。
イカズチと共に放たれたその斬撃。
左腕のアウラクリムゾンがその衝撃を滑らせるように受け流し、そのままマキナは右に飛んだ。
「く、受けぬか」
狙いが外れたとでもいうようにそう吐き出しそのまま追撃するソユーズ。
剣には剣で、とグラムスレイヤーで受けていれば、きっと雷撃が衝撃波と共にマキナを直撃しただろう。
であるからこそ受け流すマキナだったが、それだけでは無くそれまでマキナが居た場所を炎と氷の二つの攻撃魔法が通過していく。
一瞬遅れはしたがソユーズを援護するようにと攻撃魔法を連続で放つサイレンとラプラス。
三人の連携に防戦一方に見えるマキナ。
逃げるマキナに離されずそのまま追撃するソユーズに向かって、彼女はその手にしたグラムスレイヤーを真横に薙いだ。
魔法も何も付与されていないただの斬撃ではあったが、それはその剣を受けたままのソユーズを遥か後方にとすっ飛ばす。
それだけの重さを秘めていた。
「なんて剣だ!」
サイレンの炎とラプラスの氷の槍が素早くマキナを狙う。
彼女のアウラクリムゾンの盾は、空中に浮かびながらそれらを自動で全てはたき落とした。
各々が未だ全力での攻撃ではないものの、その非力に見える少女の底知れぬ能力に驚愕の表情を浮かべる。
しかし何故?
先ほどの魔法といい剣捌きといい、その剣の重さもそう。
本気に見えないのはその少女も一緒。
もしも一瞬でも本気を出せばこの界隈中が灼熱の海に変わる。
それほどの威力を秘めていた魔法を持ちながら、未だに彼女はその必殺の一撃を彼ら三人には向けてきてはいなかった。
「サイレン! ラプラス! お前たちは俺のこの聖剣に最大級の魔法を付与しろ! それでケリをつけるぞ!」
ソユーズには焦りが見えていた。
時間をかければかけるだけこの小娘の術中にハマるやもしれぬ、と。
だからこそ次の一撃でケリをつける。
勇者の剣、聖剣エクスカリバーを天に掲げ、そしてそこに自身の最大級の魔法、ゴッズディーンを纏わせた。
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