第26話 まちぶせ。
丘の上。眼下を見下ろすその場所で、あたしは気配を消し待っていた。
奴らにつけたクモコの存在はまだ知られていない。
そのシェアアイズの映像で動向は逐一把握してはいるけど、あいつらが何を話しどういう目録なのかまではわからない。
それでも、どうやらあたしが接触したことが引き金になったのは間違いなさそう。
これ以上勇者が街にいるというアリバイ工作をする気が無くなったのだろうということはわかる。
——ふふ。これではまるで僕らが悪者みたいだね。
あは。旅人を待ち伏せなんてね。
——しかし。あいつらはあれでなかなかの手練れ揃いだ。くれぐれも気をつけて。
うん。あたしこれでも強いんだから。任せて。
そうは言うものの、本当のこと言ってあたしは対人戦闘なんてあまり経験がないのだ。
魔物魔獣相手なら、相手を殺してしまうかもとかそんなことは考えなくとも良かった。
それに、ゲームの中でなら、たとえ相手を殺してしまってもそれはアバターだ。
いくらでもやり直しが効く生き返る、プレイなのだ。
だから。
怖いよ。
ものすごく怖い。
自分が死んでしまうことが怖いんじゃない。
人を殺してしまうかもしれない。
でもだからと言ってもしあたしが負けたらノワの無念を晴らすことができない。
それが、怖い。
頭の中では何度もシミュレーションしてみた。
どうやったら手加減しながら相手を無力化できるか、それを。
本当に弱い一般人なら、そういうのも割と簡単だ。
でも。
ああ、考えている時間はもう終わり。
奴らがすぐそこまできちゃった。
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「しかし、もう少し時間をかけたほうがよかったのではないか?」
「そーだねー。私たちが街に滞在することで勇者もまだロムルスにいると思わせる、それが目的だったんだから」
「もう、何度も言ったよね。勇者に会いたいっていう一般人の子にもう調査は終わったから勇者は別のところに行っちゃうって話しちゃったって。その話が広まれば他にも勇者を一目見たいとかいうのも出てこないとも限らない。潮時だよ」
「早まったよねサイレン。あ〜あ。私はもう少しあの街でゆっくりしたかったんだけどな」
「そうだな。だいたいそんな小娘、適当にあしらっておけばよかったのだ」
「あら。ソユーズも未練があったの?」
「俺はまだ名物のオムライスを食べていないのだ」
「あ〜あ。食べ物の恨みは大変だ。サイレン、やっちゃったね」
「もう、そんなの知らないよ!」
そんな会話をしながらも街道を歩く足はスタスタと早く。
並の冒険者では追いつくことも難しい、そんな速さで進む彼ら。
マナによる身体強化。
魔法だけではなくその身体能力の高さも常人のそれを大きく凌駕しているようだった。
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