第30話 俺が守るから!
「君は俺が守るから」
耳元でそう囁く声が聞こえた。
あたしは後ろから抱かれたまま宙に飛んで。
というか、あたしを抱いた彼によってそのまま上空に飛び上がっていた。
足を掴んでいた見えざる手を振りほどいて。
ガッチリ掴まれているけど恐怖とかそういうのは感じなかった。
だって。
あたしを抱きしめているのがノワだってすぐにわかったから。
「ノワール! 生きていたのか!!」
眼下からソユーズのそんな叫びが聞こえる。
あたしはゆっくり首を回し、肩越しにノワを見て。
「どうして……? ノワ」
「居ても立ってもいられなくって。出てきた。ダメだった?」
ううん、だめとかそんなんじゃなくって。
ってどうしてノワ、ちゃんと大きくなってるの!?
っていうかまるで元のノワールに戻ったみたいに大人のノワに。
「大人に戻れた、の?」
「はは。君のおかげ、かな」
そんなふうに意味深な笑みを浮かべるノワ。
背中から真っ黒なふさふさの翼をはやし、頭にはやっぱりふさふさな猫耳がついている。
装備はあたしがあげたレアアイテムの、ロムルスの鎧にロムルスの剣を腰に下げている。
獣人の大人の装いではあるけど、それでもその顔はちゃんと本来の勇者ノワールだ。
「君にはほんと、お礼も含めて言いたいことがいっぱいあるけど。でも今は下のを片付けなきゃ、かな」
そういうとノワ、あたしを片腕で支えたまま右手で剣を抜く。
そして。
「この子は俺の大事な人だ。お前らには傷ひとつつけさせやしない!」
宙に浮かんだままそう啖呵を切った。
⭐︎⭐︎⭐︎
睨むノワ。
そのノワを微妙な面持ちで見つめる三人。
このまま戦いが次のラウンドに進むのかと思っていたあたし。
睨むようにしてそのまま彼らを眺めていると、いきなりその三人が膝をついた。
ちょっと、どうしちゃったの? あなたたち?
っていうか三人ともすっかりと戦意を喪失してしまった様子で、そのまま項垂れている。
まあ戦いが終わったのなら一安心なんだけど。
あたしの空間魔法の壁バリア、これにはこれで弱点があった。
そもそも完全に世界を隔絶したわけじゃない。
薄皮のように貼ったレイヤーに、あたし自身の姿を写しただけのもの。
熱や光、そうした物理的な魔法は遮断しているけどそもそもそれじゃあたしも動けない。
マナは、そうした三次元空間のブレーンの上に存在する神の氣だ。
言うなればあたしは体の上にバリアを貼って、その上からマナのレイヤーにあたし自身のマトリクスを描いてた、そういう状態だったのだ。
だから、熱や光といった物理法則に沿った魔法であれば遮断できるけど、同じ空間を操るギア・アウラを使った魔法には弱い。
もちろん魔力の多寡によって違いはあるし簡単に破られたかどうかはやってみないとわからないけど、それでも危険だったのは間違いなくて。
ギリギリのところで顕現したノワールによって、あたしは上空に逃され助かったのだ。
ああ、ごめんねノワ。助けてくれてありがとう。ね。
あたしは抱かれたままのノワの腕を、ポンっと叩いて。
ん? っとこちらを見てくれたノワに。
「ありがとうノワ。でも、もう多分、降ろしてくれても大丈夫、かも?」
そう見上げるようにして言った。
「ああ、そうだね……」
彼も、神妙な面持ちで。
それはそうだ。色々思うことはあるだろう。
そう簡単に許せることじゃないもの。
でも。
ふんわりと、ゆっくりと。
ノワはあたしを抱いたまま、彼ら三人の目の前に、降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます