第20話 あたしが転生してきた意味。
ということで夕方までは時間が空いた。
「ねえ、じゃぁちょっとノワのお洋服を買いに行こうか?」
「え? そんな、申し訳ないです」
「だってそのシャツって女性向けだし、ズボンだってあたしのサイズだからぶかぶかでしょう? ちゃんと体にあった服じゃないといざという時動きにくいしね?」
「それはそうかもですけど」
「そもそもさ、あたしがあの洞窟でノワの装備をちゃんと探さなかったのが悪かったんだし。もしかしたらお金とかもあったかもしれないのに」
正直、黒猫のノワを見つけたときはそこまで気がまわらなかった。
っていうか一見したところではそういったたぐいは何も見えなかったんだけど、それでも。
あの魔獣を産む魔法陣がノワの身体を飲み込み魔獣へと作り替えた時、装備の鎧兜や武器なんかも軒並み飲み込んだのだろうなって、そうは思うんだけどね。
そうでもなければもっと色々散乱してても然るべき惨状ではあったから。
「いえ。この身を助けていただけただけでも感謝しているんです。この上マキナさんに負担をかけるのは忍びないというか」
「そんなこと気にしなくてもいいのよ。あたしがノワにはもっとちゃんとしたお洋服を着てもらいたいだけだから」
遠慮するノワの手を引いて商店街を散策すると、良さげなお店を見つけて。
かわいいファンシーな看板を掲げているから一見文具屋さんみたいにも見えるけど、この世界は文具だけで商売ができるような環境じゃないし、きっと色々なんでも扱ってる雑貨屋さんかな?
まだこの現実になったマギアクエストの世界に来て三日目だからこの世界の風俗的なことはよくわかってないけど、ティファの服装とかを見ても割ときちんとしたものが流通している感じ。
ちゃんとした西洋風ファンタジーな世界ではお貴族様以外の下町の住民は質素な着物を着ているイメージだったけど、ここはそうでも無いみたい。
ゲームの世界だから余計にそう感じるのか現代日本の技術が変なところで普及しているのか知らないけど、ほんと割と仕立ても生地もちゃんとした工業製品っぽい服が存在しているみたい。
あとね。
実はあたし、自分のアイテムボックスのインベントリが見えるというか心の中で感じることができるようになって理解したんだけど、ちゃんとゲーム時代に稼いだお金もしっかりそこに存在したの。
それも結構天文学的な数字。
際限なく放出しちゃうとこの世界の経済を破綻させちゃう可能性もあるからしないけど、今日みたいな場合には少しくらい使ってもいいよね?
いちおノワには昨日常時依頼で稼いだお金があるからと安心させたけど。
「ここ、入ってみよう」
あたしはそうノワの手を引いて、そのファンシーなお店に入ってみた。
「ねえねえ、このデニム地のズボン、良さそうだよ」
「あ、これも。このジャケットいい感じ」
「ふふ。このブーツ、これなら今のノワの足にもちょうどいいかも?」
「装備はね、あたしのインベントリに良さそうなのがあったからそれをあげるわ。だから今選ぶのは日常着る服ね」
お店には結構いろんなサイズの服が並んでいた。
特にここは子供サイズの服が充実しているお店みたいで、ノワにちょうどいいのがいっぱいあった。
試着室に良さげなのを見繕ってノワを押し込んで。
遠慮しいしい、それでもありがとうと言って入っていったノワ。
あは、出てくるのが楽しみだ。きっと似合ってるよ。
装備に関しては結構フリーサイズなレアアイテムが揃ってるからあんまり心配しなくても大丈夫。
マジックアイテムは装着者の体型に合わせてフィットするよう設計されてるからね。
子供でも大人でも、男性でも女性でも、どんな体型でも大丈夫なように自動的に大きさを変えるから誰が入手しても大丈夫なんだしね。
かわいいノワにはほんとなんでも似合いそうだけど、それでもあたし好みの服をプレゼントしたい。ついついそう思っちゃう。
いきなり死んじゃってこの世界に転生した時は、もうどうしていいかわかんなかったしやっぱりちょっと悲しくて生きる希望っていうのが見えなくなっていたけど。
極力明るく振る舞ってはいたけど、それでもやっぱり不安もいっぱいだった。
でも。
今ならわかる。
あたしはノワを助けるためにここにいるんだ。と。
ノワを助けてゲームとは違った人生を送って貰うために、あたしはここに転生してきたのだと。
そう思えるの。
正直ゲームの開発側ではあったけどそこまで詳しいシナリオがわかっているわけでは無いただのデバッガーだったあたし。
それでも、誰よりもゲームの奥深く冒険してきたって自負はある。
開発の割と初期から関わって、バグ探しと称していろんな場面を経験したあたし。
ゲームの隅から隅までを旅するために、初期からチートなキャラで冒険してきたあたし。
このマギアクエストの世界であったら、誰よりも長い時間ゲームの中にいた自覚はある。
そんなあたしがノワが闇落ちしてしまう一番大事な場面に遭遇できただなんて、それって絶対に神様の思し召しだってそう思えるの。
ノワを助けることでゲームの世界とは違う世界になってしまうのかもしれない。
あたしの知識が役に立たなくなるかもしれない。
でも、そんなことはどうでもいい。
あたしが今ここにいて、そうしてノワを助けることができた。
そして、この先のノワを幸せなエンディングに持っていくことができるかもしれない。
そのためにあたしはここに転生したんだと。
ノワと、もふもふしながら幸せになれるのなら。
あたしはもう何を投げ出しても構わない。
そう思うのだ。
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