第19話 手がかり。

 冒険者ギルドの入り口の前で少しだけ躊躇。

 このままノワを連れてって変な顔されないかなぁどうしようかなぁとか思ったけどでもやっぱり彼を一人にしたくないって思うし。


「ねえ、僕がノワールだって言えば問題ないとは思うんだけど?」


「ダメよノワ。あなたを襲ったパーティメンバーの後ろにいるだろう黒幕を見つけてからじゃなきゃ、あなたがまた狙われることになるかもしれないんだもの」


「そうか。そうだよね。もし命を狙われてマキナさんにも被害が及ぶのは嫌だ」


「あたしは。あたしはあなたを守るわ。何があっても守る。でもそれでも、あなたが傷つくのは嫌なの。だからしばらくはあなたが生きていることは内緒にしましょ?」


「ありがとうマキナさん。僕も、貴女を守る。絶対に」


 ふふ。

 幼い顔でもノワはノワだ。その芯の通った表情で守るなんて言われたら、あたしもう思いっきり抱きつきたくなっちゃってしょうがなくなってるけどここは往来だ。理性、理性っと。


 これは流石にノワには話せない。

 ノワをじゃまに思って暗殺しようとしたのが兄王子たちだったなんて。

 そして、それをあたしが識っている、なんてことは。


 ゲームの中のノワは、恨みの中、自分自身でそう結論づけ、世の中全てを滅ぼしてしまいたいとまで思い詰めてた。

 このノワはまだそこまで思い詰めてはいないけど、迂闊に兄王子たちが犯人だなんて示唆することも避けたいと思ってる。


 ノワは、兄さんたちが大好きだったのだもの。

 邪険にされてもそれでも、兄さんたちの望みを叶えようと奮闘して。

 戦って、戦って、勇者と呼ばれるようになったのに。

 それがまた兄さんたちの不興を買うことになるだなんて。


 それってすごく、悲しい。



「ああ、そうだ。僕、新人冒険者になりたいってことにすれば良いのかも?」


 はう。

 確かに冒険者って立場ならあたしと一緒にいても怪しまれないかもだけど。


「ダメよ。魔力紋はレイスに依存するはずだから。ノワが冒険者登録しようとしても魔力紋を調べられたらあなたが勇者ノワールであるってすぐにわかっちゃうかもだし」


「ああ、そっか」


「だからね、ノワには悪いけど、あなたはしばらくあたしの使い魔ってことにしてほしいの。林で拾ってティムしたのって話すから」


「いいよ。僕は。マキナさんさえ良ければそれで」


「ごめんね。ありがとう」



 ギルドにきた目的はノワのパーティメンバーの素性について何か聞き出せないかと思ったからだ。

 彼は昨日ここで彼らとパーティを組んだらしい。

 もともと、漆黒の魔窟を探索せよとは兄王子からの指令。

 そのためにメンバーを募集しておいたからこのロムルスの街のギルドで落ち合うように、と言われたってノワは言っていた。


 まず第一目標はノワを襲った彼らを捕まえること。


 そのための情報がないかと思って。



 ギイっとギルドの扉を開けて受付へ。


「ああマキナちゃんいらっしゃい」


 はううなんでちゃん呼び?

 ずいぶんと陽気な声でミミリイさんにそう声をかけられたあたし、とりあえずカウンターまでノワを連れて歩いて行った。



「今日はどうしたの? っていうかその子は?」


 ミミリイさん、なんだかすごく距離が近くなった感じ?


「ええ、ちょっとミミリィさんに教えてもらいたいことがあって。あとこの子は林で拾ってティムした子猫です。昨日も連れてたの、覚えてないですか?」


「え? あの時の? マキナちゃんの胸元にいたあのちっちゃい黒猫の?」


「そうなんです。夜になったら人化したんですよ」


「へ〜。まあ使い魔契約した魔獣が人化するってことはよくある話だけど、それでもその場合は普通使役する側にも結構負担があるはずなんだけど。マキナちゃん、マナを大量に吸われちゃったりとかしてない?」


「あは。そこのとこは大丈夫です。あたしマナだけは多いみたいで」


「そっか〜。だからこそのそのフィジカルの強さなのね。体の中でマナがマキナちゃんの身体を強化をしてるのかも」


「かもですー」


 マナの持ち腐れって言われなくってよかったと、そう思って安心して。

 っていうかそっかそういうこともあるのか。

 魔力特性値が低いと通常は魔法の適性が無いって判断されるけど、魔法の特性がなくっても体内にマナをいっぱいもっている人は普通にいるだろうしね?

 魔法が全く使えない剣士や武闘家だって、そのフィジカルの強さは天性のものってことが多いし。

 やっぱりそれもレイスの大きさやそこに貯めることのできるマナの多さが関係してくるのかもしれない。

 確かにね。

 マナが皮膚を強化したり筋肉を強化したりは普通にありえるし。

 魔法の無い地球でだって、気功って言ったっけ? そういうものが強い人は信じられないような肉体の強化ができるっていう話もあったっけ。

 アニメの世界では気功波とかで相手を倒すような描写もあった気がする。

 当然ゲームの設定でも、マナの多さは強さに比例してたかも。


 そういう意味だと天神族のパラメータが全ての種族と比べものにならないほどに高いのも、このレイスの大きさ、マナの多さが関係しているのかもしれないな。



「えっと、今日はあたしを昨日助けてくれた男性のことについて聞きたくて」


 あたしはそうミミリィさんに切り出した。

 これが本題。


「えっと、それって蛇蝎の牙の面々に絡まれてた時の?」


「ええ、そうです。ミミリィさんに声をかけてもらう前にいた男の人です」


「ああ、あの人ね。さりげなく蛇蝎の邪魔をしてくれたから私も感謝してたんだよね」


「あたしあのひとにお礼を言いたくって」


「そっかぁ。でも、彼、王族よ?」


「え?」


「結構有名な人だから隠してもしょうがないけど、彼は勇者ノワール。あちこちのダンジョンを制覇してるスペシャル冒険者で、おまけに他国の王子様なんだよね」


「はう。すごい人なんですね。そんな人が来たってことは、この付近に危険なダンジョンがあるってことですか?」


「それなのよね。マキナちゃんが昨日助けてくれた子いたわよね、あのこったら蛇蝎にスカウトされた新人さんだったのよ。もしかしたら林のそばにダンジョンの入り口が開いたのかもしれなくて現在調査中なの」


「なるほどです。じゃぁその勇者さんは林の新しいダンジョンの調査に来たかもなんですね? お一人でですか?」


「もちろんちゃんとお仲間がいたわよ? うちのギルドでパーティ申請してったから急造パーティなんでしょうけどね。皆出身地はキシュガルド王国だったけど、なんだかこのロムルスで現地集合だったみたいね」


 ふむふむ。


「じゃぁあまりここには詳しくない方々だったんでしょうか?」


「かもしれないわ。勇者さん以外はロムルスでの活動記録は無かったもの。ああでも今朝は通常依頼を一つ受けて行ったのよ。パーティじゃなくてみなさん個々にだけど。簡単な依頼だったから夕方には戻ってくるんじゃ無いかしら」


 あたりだ!


「ありがとうございます。じゃぁどうしようかなぁあたしも夕方にもう一度来ようかなぁ」


「そうね。もしかしたら勇者さんも来るかもだしね?」


「そうですね。そうしてみます。ありがとうございます!」

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