第8話 現実の世界だから。

 街の外に出ようとしたら門番さんに止められた。


「お嬢ちゃん? 最近はちょっと魔物も増えて物騒だからね。お嬢ちゃんみたいながたった一人でそれもそんな軽装で外に出るのは関心しないな」


 朴訥そうな門番さん。真っ白なお髭を撫でながらそう言う。


「ああ、あたしこれでも冒険者なんです。ほら」


 って作ってもらったばっかりのギルドカードを掲げて見せた。


「ああ、初心者冒険者だったかね。しかしそれならそれでもう少しちゃんと防具を揃えるなりしないとな」


「はう、でも。昨日は宿屋のティファは一人で林まで出かけてたのに」


「そうさな。そのティファが灰色熊と遭遇したって話でな。警戒を厳しくしたところなんだがな」


 両手を腰に当てて。

 もう完全に子供を嗜めるふうな雰囲気を醸し出し始めたその門番さん。

 あうどうしよう。

 振り切って外に出るのはそんなに難しく無いかもだけど、でもそうしたら後が怖いなぁ。

 帰ってきた時にすんなり入れてもらえなくても困るし。


「おじさん、ちょっとだけだから。ちゃんと用心して行くから。薬草とかでも採って来ないとあたし防具を揃えるお金もないし……」


 しょうがないので泣き落としの手。

 ちょっとウルウルと上目遣いで見つめてそんなふうにお願いする。


「ふーむ。仕方がないな。そうだ。せめてこれを持っていくがいい」

 そう言って渡してくれたのは女性でも使えそうな軽めの槍だった。


「あとこれもだ」


 って額当て?

 布でできた鉢巻の真ん中に金属のプレートが縫い付けてある。


「はう、おじさん、ありがとう」


 最低限命を守るための額当てと、魔物を牽制できる槍。

 あたしのような小柄な者でも扱いやすいだろうという配慮かな。


 あたしは早速その額当てをつけ槍を手にもつと、門番さんに深々とお辞儀をする。


「まあいいってことよ。それはうちの娘が使っていたものだがもうあれも嫁に行って冒険者は引退したからな。お前さんにやるよ」


「そんな娘さんの、いいんですか?」


「ああ。その代わり無茶はするな。必ず生きて戻ってこい」


 ああ。


 ここは、ゲームの世界じゃないから。

 現実の世界だから。


 冒険者は死と隣り合わせな危険な職業なんだなって。

 あたしは今更ながらにそう実感すると、もう一度その門番さんに向かって深々とお辞儀をし、お礼を言ってから、林までの街道をスタスタと歩いて行ったのだった。



 ⭐︎⭐︎⭐︎



 マギアクエストのフィールドには常にモンスターが湧いていた。

 まあそれを倒すことで得られる経験値やお金でその後の冒険が続けられるわけで、むやみやたらとモンスターを倒して回るプレイヤーも多かった。


 野獣、魔物、魔獣。

 魔人、魔神、竜神。

 いわゆるモンスターにも強さやレベルによってそんな種別があった。


 まあでも普段、街のすぐ近くのフィールドに現れるのはせいぜい野獣か魔物。


 野獣っていうのは普通に地球にもいた野生動物のようなもので、その中でも特に凶暴なものを言い。

 魔物、魔獣の順にそうした生命からはかけ離れていくのだ。

 この世界の魔法とは、マナという神の氣をエネルギーに変えることで行使する魔法マギアと呼ばれるものだ。

 通常、人は体内にあるレイスから、ゲートを通してマナを放出する。

 それを魔力エネルギーに変換し、力を行使するわけだけど。

 そのためにはその魔法をサポートするギアと呼ばれる精霊に働きかけるのが一般的だ。

 ギアが手助けをしてくれなくとも魔法陣などを展開することで魔法の行使は可能ではあるけれど、やはりギアが介在するとしないとではその魔法の威力には天と地ほどの差ができる。

 そうしたギアとの相性のようなものが「魔力特性値」と呼ばれるものだった。

 一般的にその魔力特性値のあたいが高いほど、精霊ギアに精通し強力な魔法マギアの行使が可能となるのだった。


 っていうか実はあたしのアバターであったマキナは、竜神の血を引くという伝説の天神族で。

 この魔力特性値がなんと無限大という超超チートキャラだった。

 そのおかげで魔法はほんと使い放題。

 フィールドの魔物を狩って経験値を稼がなくとも、最終ダンジョンまで到達できたほどで。


 まあバグ探しのデバッガーとしてはそれくらいチートでもよかったけど、実際のゲームとなるとゲームバランスを壊しかねないという理由でこの天神族自体が本リリース時には実装されなかったのだけど。


 まあでも。

 あたしはずっと天神族のマキナでプレイしてたんだけどね?

 リリース後は通常ストーリークエ参加不可、他人とパーティ組む時でさえサブキャラの人族じゃないと許されないという制限付きではあったけど。

 リリース後もデバッガーのバイトを続けるって条件付きで大好きなマキナを手放さずに済んでたのだった。





 街道を辿っている間、魔物の類にはいっさい遭遇しなかった。

 やっぱりここはゲームとは違うなぁ。

 そんなことを考えながら歩く。


 身体はすごく軽い。

 どんだけ歩いても疲れないなんてほんと元の体からは信じられないくらいだけど。

 この調子で魔法も使えたら嬉しいんだけどなぁ。


 そんなことを思いつつ。

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