第7話 ギルドマスター。

「ちっ。興が冷めた」


 男たちの多分リーダー格、少しイケメンふうなお兄さんがそう言って踵を返す。

 そのまま仲間のメンバーもそのリーダーについてその場を立ち去って。


「あ、ありがとうございます」


 あたしはそうノワールに声をかける。


「いや、俺は通りかかっただけだから」


 そう言ってなんでもないような顔をする彼。そのままギイイと扉を開けギルドの建物に入って行った。


 ああどうしよう、彼のこと追いかけてあたしももう一度ギルドに戻るべきか。

 でも流石にそれって露骨すぎるし変に思われるかな。

 そんなふうに躊躇してたら。


「マキナさん、大丈夫?」

 そう騒ぎを聞きつけ表に出てきたのかな? 先ほどの受付にいたお姉さんに声をかけられた。


「はう。ちょっとしつこい勧誘にあってたんですけど先ほどの方が通り過ぎてくれたおかげで助かりました」


「ならよかったけど。彼ら蛇蝎の牙のメンバーって、なんだか新人と見ればああやって勧誘するのよね。ちょっと困ってたの」


「へ?」


 って、どういうこと? そんなに勧誘してたらメンバー溢れちゃうよね?


「どういうことですか?」


 うーん、と、困ったような顔をするお姉さん。


「ここじゃなんだから」


 と促されるままあたしはもう一度ギルドの建物の中に入った。



 ⭐︎⭐︎⭐︎



 先ほどの受付の前じゃなく、ちょっとした応接間みたいな場所に通されたあたし。


 座って、と声をかけられソファーに腰掛ける。


「ふふ、ごめんねぇこんな話大勢の前ではできなかったから」


 そう言ってこちらに向き直る受付のお姉さん。

 っていうか今は受付ほかっておいてもいいの?


「わざわざすみません。で、こんなところでお話だなんて、あの人たち何か問題でもあるんですか?」


 そうジャブを飛ばしてみる。

 多分あたしの第六感は間違ってなかったんだろうとかそんなふうに思いながら結構単刀直入に。


「そうね。証拠がないのであまり口外はしないでおいて欲しいんだけど、勧誘断れてよかったわ」


「はう、証拠って」


「ちょっとね。蛇蝎の牙は中堅どころのパーティで討伐成績なんかは悪くはないんだけど、少し素行に問題ありってところで私たちもマークしてるのよね。勧誘されメンバーになった初心者も何人も怪我をしたり行方不明になったりしてて。それでも彼らに落ち度があったとかそういう証拠が出ないものだから困ってるの」


「それって……」


「まあね。いくら初心者とはいえ常に周囲から守ってもらえるわけじゃないし、危険な場所に行く行かないは本人の責任に任されているわけでね。彼らにしたってそんな足手まといを連れて危険度の高いダンジョンに潜るのはデメリットしかないでしょうに、何故か次から次へと初心者を勧誘するのよ。表向きは親切心だっていうものだから、ギルドとしても横槍を入れるのは躊躇われるのよね。初心者さんが経験値を稼ぐには確かにベテランパーティに同行するのが手っ取り早いわけだしね?」


「何か裏がありそうなそんな気がしますね……」


「やっぱりそう思う? だからほんとよかったわ。もし今度勧誘されてもできたらちゃんと断るのよ?」


「あは。ギルド職員さんがそんなこと言っていいんですか?」


「ふふ。そうね。私これでもロムルス支部のギルマスやってるの。ミミリイっていうのよ。よろしくね」


「えーーーー?」


 嘘。こんなに若いお姉さんが?


「まあギルマスって言ってもそんなに権限があるわけじゃないのよね残念ながら。だからこうしてなるべく新人さんに被害が及ばないよう注意するくらいしかできないの。ごめんね」


 そう言ってこちらを覗き込むミミリィさん。

 ああ、よく見たらこの人ってば種族はエルフ?

 だったら見た目通りの年齢じゃ無いのかもしれないなぁ。


「ありがとうございます。あの人たちには注意しますね」


「あ、そうそう。パーティに入りたければギルドを通してくれれば相性とかも考慮して紹介できるから。声をかけてね」


「はい! ありがとうございます」

 あたしは思いっきりの笑顔でそういうと、その応接室を後にした。


 フロワに出てみるとやっぱりもうノワールは居なかった。

 しょうがない。

 最初の予定通り林か丘にでも行ってみよう。

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