第6話 ノワール。
「はい。登録完了です。この銀のプレートがギルドカードで、これをこの石板にかざすことであなたのすべての冒険者としての情報が読み取れるようになってるんです。ああ、魔力紋も登録されているのであなた以外の人には使えませんから安心してくださいね」
受付のお姉さんがそう優しく手渡してくれたカード。
はうあう。無くさないようにしなくっちゃだ。
あたしは両手でそのカードを受け取ると、表面に書かれた文字を読んだ。
マキナ Eランク
はう? これしか書かれてないの?
「名前とランクしか書かれてないのです?」
「そうね。討伐情報なんかはここにきてこの石板にそのカードをかざして確認してくださいね」
さっと差し出された石板。ツルッツルのその黒い石板に、あたしはさっともらったばかりのカードをかざしてみる。
■マキナ Eランク
種族 人族
魔力特性値 0
討伐情報 0
特記事項 無し
はうう。タブレットのようなその石板の表面に、そんな文字が浮かぶ。
流石にレベルやスキル、そう言ったものまではわからないのかな?
に、しても。
「マキナさんはまだ登録したばっかりですから討伐情報なんかもありませんからね。あと、魔力特性値は0でしたからあまり魔法の才は見込めないかもですよね。フィジカル面はここでは把握できませんからまずEランクからのスタートになりますね」
って、嘘!?
あたし、魔法、使えないの?
ゲームのマキナだったらもっと……。
「あたし、魔法使えないんですか?」
「うーん、努力すれば使えないことはないでしょうけど、流石に特性値がゼロだと難しいかもですよねぇ」
「そんな、そんなはずないんです。ちゃんと調べてください」
「最初に石板に触れてもらったでしょう? そこであなたの魔力紋も特性もちゃんと調べましたから、間違い無いですよ?」
「そんな……」
「まあでも、ダントさんから聞きましたよ? マキナさん体力的には十分冒険者としてやっていけるはずだって。剣や弓、他にも色々な武具がありますからそちらをお選びになって鍛錬すればきっとCランクくらいまでは上がりますよ」
はうう。
「ありがとうございました」
とちょっと肩を落としてギルドを後にすることに。
まあでもしょうがないのかなぁそもそもあたしの使ってたマキナは人族ではなく天神族。正式リリース版では実装されなかったチートキャラだったし。
いくらこの世界がマギアクエストと酷似してると言っても、そんなチートなキャラのまま転生したわけじゃ無いのかも、だしね。
さっと依頼書の貼ってある掲示板を眺めると、そこには常時依頼なモンスター退治や薬草採集なんかの依頼が見える。
とりあえずこの間の林か丘の上の森あたりに出かけて行ってそういうののうち出来るものをやってお金稼ぐかな。
装備だって揃えないとだしね。
そう気を取り直して扉を開けて大通りに出たあたし。
外はまだまだ日が高い。
このまま宿屋に帰るのはちょっと勿体無いかな。
グリズリーの買取価格だって横耳で聞いてたけどまあそこまでの大金なわけじゃなかった。
お小遣い程度だし。
はああ。
お金、稼がなきゃぁだ。
空は真っ青で気持ちが良かった。
その分気持ちも上向きになったところで、「よう、嬢ちゃん」と背後から声をかけられ振り向いた。
そこにいたのは確かギルドの中でたむろしていた人?
ちょこっとばっかしガラの悪そうな感じがする、あんまりお近づきになりたくない人たちだった。
「なあ。あんた一人だろ? よかったら俺たちのパーティに入れてやろっか?」
ニヤニヤとした笑いがちょっと鼻につくそんなお兄さんがそう言った。
「え?」
あんまりいきなりそんなふうに言われるものだから、あたしは思わず聞き返して。
「だからさ嬢ちゃん。おれらについてくれば悪いようにはしないって」
って、はうあうナンパ? じゃ、無いよね。
一応パーティの勧誘?
でも、なんで?
「ごめんなさい」
あたしはとりあえずそう断った。
人の往来を遮るようにあたしを囲むそのお兄さんたち。
あうあう周囲にも人が集まっちゃってるよどうしよう。
「俺らこう見えてもCランクのベテランパーティだからさ。初心者ちゃんは大歓迎。先輩が優しく教えてあげるよ〜」
「さっき登録してたところ見てたけどさ、嬢ちゃん魔力特性値ほぼなかったんだろ? そんな華奢ななりして魔法も使えないんじゃ、Eランクスタートっていっても先は大変だぜ? その点俺らのパーティに入れば後衛で守られてるだけでそこそこ経験値も入るしさ。良いことづくめだよ?」
「でも」
と、ちょっと後ずさるあたし。
なんだかちょっと気持ちわるい。嫌な予感もするし。
「これだけ優しく誘ってやってるんだぜ? この辺で首を縦に振っといた方が身の為だよ?」
いいかげん焦れてきたっぽい目の前のお兄さん。でもね、それでもね。
確かにあたしはさっきギルドで冒険者登録をしたばっかりのEランク初心者だ。
親切で言ってくれているのなら、彼らのパーティに混ぜてもらうのはあたしにとってはメリットしかないかもしれない。
でも。あたしの第六感はさっきから警報を鳴らしているのだ。
この人たちには裏がある、と。そう。
ジリジリと迫る彼ら。
あたしがこんなにも嫌がってるんだから、ほんとただの親切ならいい加減諦めてくれればいいのにそんな気配はない。
もう、面倒だな。
このまま大人しいままの仮面を脱ぎ捨てようかどうしようかと一瞬迷ったその時だった。
「悪いが通してもらえないか」
あたしの背後から聞こえたその声に驚いて振り返ったあたし。
ゾクゾクっとするようなそんな低音ボイスで現れたのは、黒い髪に黒い瞳。すらっと背が高く決して筋肉質なふうには見えないのにその肉体から強靭なオーラが溢れ出る。そんな美麗な男性だった。
(漆黒の勇者、第六王子ノワール?)
ああ、間違いないよ。
マギアクエストきっての名ストーリーと言われた「哀しみの勇者ノワ」
そのメインキャラであり、最終的には魔獣、
はうう。
でも、なんで?
こんな序盤で登場するなんて!
あたしはそんな彼の、その黒曜石のように黒く光るその瞳に目が釘付けになって。
呆然と。ただただ呆然としたままその彼の顔をみつめてしまっていた。
はうう。あたしの推しキャラ。
それもこんな美麗な実写版な彼をこんな間近でみれるなんて。
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