21. ギルドの新メンバー

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【新進気鋭のギルド:スター・ルミナスが大活躍!】


 先日、某大学のキャンパス内にて"ダンジョンブレイク"が発生。

 日本国内で三度目となる"ダンジョンブレイク"を前に、絶望的な展開が予想されたが————。———————————————————————


 これまで最悪の被害を出してきた"ダンジョンブレイク"。

 これをたった一人で、しかも被害者を出さずに最速で収めたということは、新聞、ネットニュース……全ての情報発信媒体で掲載された。


 S級である俺の名前と『スター・ルミナス』は瞬く間に有名となり、知らない者はいないほど世間を騒がせていた。


 そのためプレイヤー及びギルド内の事務員も含め、新規加入希望者が溢れた状態になっている。

 今は事務員及びスタッフは、プレイヤー協会から支援に来てくれていた。


「ギルドの運営ってこんなに大変だったんだね……」


 二人の新居を準備中の留美奈がふと徐に呟く。


『スター・ルミナス』のギルド本部は銀座の一等地に構えることとなった。

 その屋上の三部屋分の壁を取り壊し、広い一室として二人用の部屋を作ったのだ。

 念願の同居生活には、留美奈も嬉しそうに同意してくれた。


「有名になるのは嬉しいけど、やっぱりメンバーは選ぶよな」


 勢力を拡大していくには、ただ人数を集めれば良いという訳ではない。

 もちろん精鋭を集める必要はあるが、人が増えることや強者が集うことで内輪揉めは起きやすくなる。


 ギルド自体を大きくすることも大事だが、何よりも加入してくれたメンバーが伸び伸びと過ごしやすさと安らぎを感じていける場所を築いていくことこそが大切であると考えていた。


 ——プルルルルッ!


 突如、電話のコール音が鳴り響く。

 部屋に置かれた固定電話が鳴ったということは、下の階にいるギルドスタッフからの連絡だろう。


「もしもし……。俺だけど」

「お、お疲れ様です、マスター。実は、今ちょうどここにギルドに加入したいと話す女性がお二人で来ておりまして……。アポはないみたいですけど、追い返しましょうか?」


 メールや電話で加入したい旨を伝えてくるものは多いが、直接本部にまで来てくれる人は初めてだ。

 大体の人は入りたい気持ち以上に、尻込みしてしまう場合が多いのに……。


「ちょっと会ってみたい気もするな……。名前は言ってたか?」

「ええっと、確認します。——確認しました。湖上 美月さんと妹の美夜さんです!」


 な、なんだって!?

 昔、家がお隣さんだった俺のお姉ちゃん的存在である、美月さん。

 それに俺の一つ歳下の美夜ちゃん。

 二人がギルドに入りたいなんて!


 ——そう言えば、獅子王会長が『まだ話してなかったのか』って誤魔化してたのってこれだったのか。


「……すぐに行く。大切なお客様だから、応接室へ。丁重に頼むよ」

「わ、分かりました! すぐに案内します」


 受話器を静かに戻すと、期待した眼差しで留美奈が見つめている。


「口振りからすると知り合いが来たのね。やっとのギルドメンバーが決まりそうだね」

「あ、あぁ、そそ、そうだね。行こうか」


 嬉しそうに微笑む留美奈に、冷や汗を浮かべながらニッコリと微笑み返す。

 俺たちは新たなメンバーを迎えるために、共にギルド本部へと向かった。



 ◇



「「お疲れ様です! マスター!」」


 ギルド本部に足を踏み入れると、スタッフが全員立ち上がり挨拶をしてくれる。

 教育した訳ではないが、S級プレイヤーという肩書きが反射的にそうさせるらしい。


「みんなお疲れさん。ちゃんと部屋に案内してくれた?」

「はい! こちらです」


 部屋の扉を開くと、緊張した面持ちで美月さんと美夜ちゃんは座っていた。


「あ、星歌くん! こ、ここすごいね。びっくりしちゃったよ」

「本当に星歌先輩が目の前に……。お、おお久しぶりです」


 美月さんとはつい最近会ったので驚きはないが、美夜ちゃんはクールな面持ちのお姉さんになっていた。

 まぁ当時三歳くらいの子どもが、今や女子高生なのだから当たり前なのだが……。


「ギルドへようこそ。美月さん、美夜ちゃん」


 二人のことは心より信頼できる。

 人柄的にも全く問題ない。

 それでも例外でギルドに通す訳にもいかない。

 志望動機だけは確認しておく必要があった。


「色々積もる話はあるけど、後回しにしても仕方ないし率直に尋ねるね。ギルドに加入したい理由を聞いてもいい?」


 わざわざ圧迫させるように問いかけなくても良いのに、面接官慣れしていない俺はつい悩ませてしまうような問いかけをしてしまった。


 きっと想像以上に緊張しているのだろう。

 唾をゴクリッと音が聞こえるほど強く飲み込み、美月さんから話し始める。


「私の中で、やっぱり星歌くんは弟なの。家族なの。大切な家族を守るために、少しでも力になりたい。例えプレイヤーとしてはC級で力になれなくても、協会職員として勉強して来たことは活かせると思うから……」

「なるほど……。美夜ちゃんは?」


 続けて、美夜ちゃんが口を開く。

 美月さん以上に緊張しているのは、額に浮かべる汗を見るだけで分かった。


「私にとって、星歌くんはお兄ちゃんってより先輩……なんです。私はまだ正式にプレイヤーじゃないです。でもあと半年も経たない内に高校も卒業して、A級プレイヤーとして活動できます。身近にこれだけ活躍している先輩の姿を、今から見て学びたいんです。お姉ちゃんを……大切な人を守るために!」


 模範解答すぎる素晴らしい言葉。

 ただ "守る" ということにどれだけの重圧がのしかかるかを理解していなければ、ただの理想論に過ぎない。

 特に美夜ちゃんが語った言葉は、早死にしてしまうプレイヤーに多い傾向だ。

 家族や大切な人を守るために戦うのだと、皆そうしたあげく死んでいく。


 ただ、二人の眼からは確かな覚悟と闘志を感じた。

 全力でぶつかろうとする者は、努力を怠らず成長する。

 そして、成長という壁の先に広がる可能性が無限大であることは、俺自身が一番身に染みて知っている。


「二人の覚悟は伝わりました。美月さん、美夜ちゃん……改めてよろしく。そしてようこそ、ギルド『スター・ルミナス』へ!」


 口元を綻ばせ手を伸ばすと、二人は安堵したように息をつく。


「き、緊張したぁ……。星歌くんが今までにないくらい真面目な顔で、ちょっとだけ怖かったよ」

「だね、お姉ちゃん。でも、私たちをちゃんと見てくれてたのが分かったので、途中から加入したい決意は更に固まりましたよ」

「脅かすみたいになってごめん。大事なことだからこそ、手を抜かずにしたかったんだ。じゃあこっちで加入手続きを……。あ、そうだ留美奈。申し訳ないけど、二人が書類を書き終えたら案内を頼みたいんだ。……留美奈?」


 返事がないので繰り返し名前を呼ぶと、留美奈は慌てて言葉を返す。


「ひゃい! え、あ、うん! わ、分かったよ」


 熱でもあるのか……?

 いや顔色は良さそうだし、体調が悪いってことは無さそうだ。

 何か気になることでもあったのだろうか。


 ひとまず『スター・ルミナス』は新しく二人の新メンバーを迎えることとなった。

 風の魔銃使いであるC級の美月さん。

 そして、氷結魔法系のA級認定を受けている美夜ちゃん。


 メンバーが増えたことで、ギルドが本格的に稼働していく気持ちになった。



 ◇



「ハァァァァァァ……。さっき返事しなかったの、ちょっと変に思われたよね」


 湖上 美月さんに……妹の美夜ちゃん……。

 私が星歌くんと幼馴染になる前の、小さな頃の星歌くんを知っている人たち。


「ずるい……」


 無意識に出てしまった言葉が、耳の中で繰り返し反響する。

 数秒が経ち、そこでようやく自分が口にした言葉だということを認識した。


 私……嫉妬してるんだ……。

 恋人は私なのに。

 婚約者という絶対的に優位な立場なのに……。


 それでも二人を迎えて嬉しそうに笑顔を見せる星歌くんを、独り占めしたい衝動に駆られる。

 美月さんは大人の女性って雰囲気出てるし、美夜ちゃんはサラサラの黒髪綺麗だし……星歌くんのタイプだったりしない……よね?


 これから同じギルドメンバーになるのだから、仲良くしなくてはいけない。

 でも思わぬところで顔に出そうで少し怖くなる。


 どちらかと言えば、恋愛には興味はあまりなく、サバサバとした性格だったはずなのに。

 星歌くんのことが好きだと気付いて、そこから更に惚れ込んでしまってからは、大好きな気持ちでいっぱいに溢れていた。


「あの……。留美奈さんよね? これからよろしくお願いします」


 俯いていた顔を上げると、目の前には美月さんが立っていた。

 どうやら先に手続きを終えてこちらに来たらしい。


「私の方こそ、よろしくお願いします——キャッ!!」


 変な声が出てしまったのも無理はない。

 突然、美月さんが抱き着いてきたのだ。


「星歌くんの婚約者……やっと会えたわ。こんなに綺麗で優しそうな人で良かった」

「え、えぇ?! 美月さん?」

「あぁ、ごめんなさいね。私、星歌くんにはちゃんと幸せになってもらいたくて。だからお嫁さんになる人にはこうして会いたかったの。私にとって弟みたいなものだから。星歌くんのこと、よろしくね」


 美月さん……すーっごくいい人……。

 つい先程まで、嫉妬していた自分が恥ずかしくなってしまう。


「ありがとう……ございます! 三人目と四人目のギルドメンバーが美月さんと美夜ちゃんで良かったです」


 思わず感極まって涙が出そうになるのをグッと堪え、笑顔で迎え入れる。


「ふふ。ありがとう。でもあら? ……四人目と五人目の間違いじゃないかしら?」

「ふぇ……?」


『スター・ルミナス』を創設したのは星歌くんと私の二人。

 それ以降、正式にギルドメンバーとして加入した人はいないはずだ。


 私がよほど鳩に豆鉄砲を食ったような顔をしていたのか、美月さんは慌てて言葉を付け加える。


「さっきギルド加入手続きをした時にね、三人目のメンバーの名前が埋まってたのよ。名前は——『七瀬ななせ まな』だったわ」


 ——『七瀬 愛』?

 全く聞いたことのない名前。

 私の知らない間に、星歌くんが勝手にギルドへ引き込んだの?

 二人のギルドなのに、相談もなしに?

 ううん、もしかしたら相談できない理由があったのかも。

 色々と考える中で思い返してみると、先程部屋から出る際の情景が浮かぶ。

 

 「そう言えば、さっき部屋から出る時に三人目決まりそうだねって話したの。その時の星歌くんの反応がいつもより変だったよ!」


 考えにくいし、考えたくもないけど……まさか浮気とか?!

 私と婚約しておきながら?

 さすがにここまで考えてしまうと、真実を知ってしまう恐怖とモヤモヤで頭の中が真っ白になってしまう。


 ——こ、これはもう……尾行するしかないッ!


「あわわ……どうしましょう。余計なこと言っちゃったかしら……」


 オロオロする美月さんを残し、私は星歌くんの隠し事の尻尾を掴むべく機を伺うことにした。




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