俺だけが使える【スマートスキル】がチートすぎる件!〜《ダウンロード》に《アップデート》!?他人のスキルを片っ端からパクって現代世界のダンジョンで無双します〜
22. 七瀬 愛の正体【side:留美奈】
22. 七瀬 愛の正体【side:留美奈】
——星歌くんを尾行して数日。
さすがは私の彼氏。
一流のプレイヤーだけあって、中々尻尾を掴ませてくれない。
日中はダンジョンに篭り、夕方には帰宅してギルド運営を舵取りする。
ハッキリ言って全く隙がなかった。
「もう諦めたらどうかしら?」
「嫌です。ぜーったいうやむやにされたまま、結婚なんて出来ないですよ」
もし本当に浮気だとすれば、とても正気が保てる心境ではなかった。
美月さんも親切心からか尾行に付き合ってくれており、真実を追い求める執念が私を奮い立たせていた。
そして……ついに待ちに待っていた状況が起こる!
その日は稀に見る大雨の日だった。
星歌くんはダンジョンから帰宅すると一度ギルド本部に立ち寄り、その後エレベーターに乗り上階へ向かう。
私たちの新居に帰るのかと思ったが、何故か一つ下の階で降りたのだ。
「これって……絶対怪しいよね?」
「ええ。もしかして本当に浮気だったりするのかしら……」
美月さんと見つめ合い、表情だけでこの先どうするかを語り合う。
そして互いに覚悟を決めると、どちらからとなく頷き、
廊下は居心地が悪いほど静かで、とても人がいるとは思えない。
それでもズラリと横に並ぶ扉を、一つ一つ確認しながら進んでいく。
……まだ声は聞こえない。
……まだ大丈夫。もしかすると、この階で降りたのは見間違いだったのかな?
そんな楽観的な気持ちになりかけたが……。
次の瞬間、私に襲いかかって来たのは非情な真実だった。
——声が聞こえてきたのだ!
恐る恐る扉越しに耳を押し当てる。
防音加工が施されているのか、所々途切れて聞こえ辛い。
「——そんな……濡らして。気持ち良かっ……のか?」
「——うん。……早くお風呂……中いっぱいにして」
星歌くんの声と女の子の声。
……どうしよう。
何を話してるのか一生懸命に解釈しようとするけど、どうしてもえっちな内容にしか聞こえない。
濡らしてるって、そういうことだよね?
相手の女の子の見てるの? 触って確かめてるの?
動悸が激しくなり、息がし辛い。
"お風呂"ってワードが出てたし、これから一緒にお風呂に入るってこと?
中いっぱいにって……それってセックスのことだよね?
そうとしか考えれないよ……。
「ちょっと、留美奈ちゃん?」
美月さんに声をかけられて、ようやく自分の状態に気付く。
悲しさと悔しさからか、瞳から涙がポロポロと溢れていた。
「私……やっぱり、裏切られてたみたいです」
「そんな!? きっと何かの間違いよ。中に入って確かめてみましょ」
もし扉を開けた先に、七瀬 愛と思われる少女と愛し合っている最中だったとしたら……。
あまりのショックに、その場で意識を失ってしまうかもしれない。
だからと言って、このまま立ち去ることも出来なかった。
それではまるで、私が遊び人でしかなかったみたいに惨めな気持ちになってしまう。
……うん。真実を問いただそう。
美月さんに背中を押され、勇気を振り絞り、部屋の扉を勢いよく開く。
玄関に置かれた靴。
これは星歌くんのものと……小さな女の子用の靴?
通路を足早に移動し、リビングに繋がる扉も開く。
部屋の真ん中で立っている星歌くん。
そして床には赤いランドセルが乱暴に置かれている。
私が部屋に入り込むのを躊躇している間に、七瀬 愛と思われる少女はお風呂に入りに行ったようだ。
リビングにまで響いているシャワーの音で、そう推測できる。
私と美月さんの突然の登場に、少しだけ驚いた素振りを見せる星歌くん。
もし非を認めて、最初に謝罪するなら許し難いけど目を瞑ろう。
そう思っていた。
でも、最初に発された言葉は……。
「留美奈!? 美月さんも! どうしてここに?」
……だった。
ここから私の頭の中は怒りでいっぱいになった。
思っていることが上手く言葉に変換されず、直接口に出てしまっているかのようで次々に悪態をついてしまう。
「星歌くんのロリコン! スケベ! 浮気者ッ! 最低ッ!! 大っ嫌いッ!!! ……ううぅ……。信じて……たのに……ばかぁ……!」
視界に映る星歌くんの姿が涙でボヤける。
今あなたはどんな顔をしてるの?
いつの間にか部屋には私の嗚咽の声だけが反響し、聞こえていた。
それなのに……。
「いや、ちょっと待ってよ。何のこと? なんか誤解してるんじゃ?」
その言葉を聞いて、私の中の怒りに油が注がれ憎悪へと変化する。
沸々と煮えたぎるような怒りで、頭がどうにかなってしまいそうだった。
「誤解じゃないよ! 全部知ってるんだから……七瀬 愛さん。星歌くんの本命はその子だったの? しかも玄関の靴とそこに置いてあるランドセルを見る限りまだ小学生なんじゃないの? ロリコンなの? 私のことはただの遊びだったの?!」
声を張り上げるタイプではないが、この時ばかりは人生で一番声が出ていたかもしれない。
その声はどうやらお風呂場にまで聞こえていたらしく、当の本人がお風呂場から出てきた。
ラフなTシャツにショートパンツの格好。
あどけない小学生の風貌だが、湯上がりで濡れた髪が妙な色気を誇張し大人びた様子を演出している。
「雨に濡れて冷えた体を温めるのに、お風呂に入っていただけなのに突然の修羅場ですね。だから私たちの関係のことを、彼女さんにだけでも話した方がいいって言ってたんですよ? 一途な女の子ほど大好きな人に裏切られた時の悲しみは大きいんです。それこそ何しでかすか分からないくらいに……。きちんと反省してください、星歌お兄ちゃん」
……星歌お兄ちゃん?
あえて言わせてるってこと?
呆気に取られる私に向けて、深くため息を吐く星歌くん。
そして真剣な表情で話し始める。
「確かに説明しなかった俺が悪いよな。彼女は七瀬 愛。察しの通り小学二年生だよ。ほら"七瀬"って苗字聞いたことない?」
七瀬……七瀬って。
確かにどこかで聞いたような。
「あぁ——ッ! 『
美月さんの声に刺激され、私の頭の中に一人の人物像が浮かび上がる。
——S級プレイヤー『七瀬 咲花』。
女性プレイヤーの中でも異才を放つ存在。
可憐な一輪の花が舞うような戦闘スタイルで、最前線で細剣を振るう姿から
そう……五年前に起こった一回目の災厄——"ダンジョンブレイク"が起こるまでは……。
「留美奈も美月さんも気付いたみたいだね。愛ちゃんは一回目の悲劇のダンジョンブレイクで、国民を守るために命を落とすことになったプレイヤー……S級の七瀬 咲花さんの子供だよ」
「そう……だったんだ……」
浮気じゃなかったんだ。
ホッとした気持ちから、脚の力が急に抜けてその場に崩れるように座り込む。
「あはは……。私、てっきり浮気かと思っちゃった……。ごめんね……」
「留美奈さんが謝る必要はないですよ。ぜーんぶいい顔するために黙ってた星歌お兄ちゃんが悪いですから!」
小学二年生とは思えない、堂々とした態度。
S級の母譲りなのだろうか?
いや、それよりも——。
「——え? いい顔しようとしてたってどう言うこと?!」
ずっと黙って来たと言うことは、話したくなかったのだろう。
それでも気になってしまい、当の本人に向けてつい質問してしまった。
星歌くんはバツが悪そうな表情を見せるが、愛ちゃんに背中を押されたこともあり観念したように話し始めた。
「実は……『煉獄の赤龍』から留美奈を救い出す時に、獅子王会長と交換条件で三つの約束を交わしたんだ。一つ目はS級プレイヤーになること。二つ目はギルドを設立すること。そして三つ目が——愛のことを守ることなんだ」
「そんな約束してたんだ……。私、全然知らなかったよ……」
星歌くん曰く、事前にあらゆる準備と手間をかけてまで救ってくれたことを重荷に思って欲しくなかったとのことらしい。
確かにあの日助けに来てくれるまでに、数々の下準備があると知ってしまえば、それだけ星歌くんを悩ませていたことになる。
それは私にとって一番させたくないことだって分かってたから、ずっと隠していてくれたんだ。
「でも待って! でもどうして三つ目の約束が愛ちゃんを守る事なの? 獅子王会長は関係ないよね?」
「……関係あるわよ!」
星歌くんとの話の間に割って入るように、愛ちゃんが鋭い声を上げる。
両腕を前で組み、少し威張るような態度で話を続けた。
「だって、『獅子王 雄司』は私のパパだもん!」
「……えぇ!?」
私の中での疑問点が、ようやく一本の線に繋がったような気がした。
プレイヤー協会の会長という重役であれば、国家の一大事に最前線へと赴くのは想像に容易い。
最も大切な人は最も強い人に守ってもらうのが確実だ。
獅子王会長は星歌くんの成長性を見抜いていた。
いずれ彼こそが日本一のプレイヤーになるに違いないと。
だから自分で守り切りたいという信念を曲げ、断腸の思いで託したのだ。
「そんな流れがあったなんて。私、本当に知らなくてごめんね……。勝手に浮気だなんて思って、酷いこと言っちゃった……」
今回の暴走は心から反省だ。
いくら星歌くんのことが大好きすぎるからって、色々と早とちりしすぎてしまった。
それでも星歌くんは優しく笑みを浮かべる。
「留美奈は悪くない……。俺の方こそ、ちゃんと話せずにいてごめんな」
彼の寛大さには、本当に頭が上がらない。
何も悪いことをした訳ではないのに、謝ってくれるなんて。
どうしてそんなに優しいのだろう。
私も、もっと彼に何かできたらいいのにな。
そう思う私に、星歌くんは続け様に話しかけてくれる。
「あ、あのさ、留美奈……。俺、明明後日、休暇でも取ろうかと思ってるんだよね。留美奈も休みだったよな?」
明明後日……。
確かに私も休暇の日で、予定は何も入っていない。
「うん。改めてどうしたの?」
「良かったらさ、デートでも行かない? 二人でさ!」
そう言えば、私たちってきちんとしたデートは初めてかも。
そう考えると嬉しさが込み上げてくる。
真っ直ぐ星歌くんの顔を見つめると、想像以上に赤面している。
照れながらも懸命に誘ってくれたのだ。
彼なりの優しさと、埋め合わせのつもりなのかもしれない。
その姿が愛おしくて、心の奥が温かくなる。
「うん! デートするッ!」
きっと紅潮しているであろう顔を少し手で隠しながら、私は満面の笑みでデートの約束を交わした。
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