20. 新たな力—【魔王スキル】
完全に閉ざされたゲートを前に、呆然と立ち尽くす。
触れると見えない壁に遮られているかのようで、ビクとも動く気配はない。
もはや、前に進むしか選択肢は残されていなかった。
一体、奥で何が待ち受けているのだろうか……。
トラップが仕掛けられている気配はない。
それでも奥から発せられるプレッシャーが度を超えており、空気が重く、一歩進むにも歯を食いしばりながらでないと進めない。
これだけの力が放たれているということは、想像を絶する何かがいることに間違いなさそうだ。
身体が重い……苦しい……。
それでもひたすら真っ直ぐ突き進む。
そして—————。
ようやくたどり着いた場所は行き止まりで、ただの岩壁になっていた。
「どう、なってるんだ!?」
思わず声を上げると、喉がかすれたような声が出てしまう。
しばらく口呼吸をしていて、口内の水分が無くなっていたからだろう。
重苦しい嫌なプレッシャーは未だ消えていない。
むしろ前方から、凄みを増して発せられているように感じる。
どうやら、巨大な岩壁の向こう側に何かは存在しているらしい。
このまま壁を壊さなければ、中の何かは出て来れないのか……。
でも何かをどうにかしなければ、俺はダンジョンから出る事が出来ない。
……覚悟を決めるしかなかった。
《剛腕強化》を拳に付与し、在らん限りの力を集約させる。
そして、一撃で岩壁を粉砕する。
すると、岩壁が力の奔流を堰き止めていたらしく、かまいたちのように襲いかかる。
頬が擦り切れ、錆臭い匂いが鼻腔をくすぐる。
血が顎まで伝うのを感じながら、奥に隠されていた部屋の中へとゆっくりと足を踏み入れる。
——中にあったのは……。
小さな部屋の壁奥にもたれかかり、座り込むようにしている人型の骸骨。
骨の形や小ささから推測するに、どうやら女性のものらしい。
そしてその骸骨を護るように、ピサの斜塔の如く斜め向きで床に突き刺さる美しい剣。
刀身は夜空に浮かぶ星々のように煌めき、両刃はその鋭さを誇張するかのように白金に輝いている。
ダンジョン全体を覆うようにしていた重苦しい空気は、明らかに
あまりの美しさについ手を伸ばしてしまう。
……が。
「——ッ!?」
黒紫の稲妻に似た結界によって、手が弾かれてしまった。
痛みと熱を帯びた手をさすりながら、静かに剣を見つめ直す。
ゲートの外から威圧を感じた時は敵対する力かと思っていた。
だが、直接目にしてはっきりと分かる。
この力は、確かに凄まじいが決して敵ではないのだと。
もちろん今の時点では味方でもないのだが……。
俺は静かに右手を上げて——《検索》を使用する。
———————————————————————
[検索対象を特定します……]
[特定が完了しました]
■『異世界魔王の骸』
⇒かつて異世界に君臨した英雄の亡き姿。【魔王スキル】を宿している。
■『異世界魔王の覇剣』
⇒魔王のみが手にする事を許された究極の剣。真の力を発揮するには【魔王スキル】を会得する必要がある。———————————————————————
「異世界って……まじかよ」
ダンジョンやらモンスターが存在する世の中になってしまい、"異世界"という言葉が空想上のものではなく身近に感じるものに変化したとは思っていた。
だが、実際に存在することを考えた事はない。
衝撃の事実に息を呑むほど驚愕する。
死に絶えてもなお衰える事なく、凄みを増す力。
これだけの力をもし手にすることが出来たら……。
……いや、もしかすると———!?
死者に対しては使ったことはないが、本能的に使えるかもしれないと悟る。
【スマートスキル】の中でも、最もお世話になっているスキル——《ダウンロード》……これなら奇跡を起こせるかもしれない!
———————————————————————
[『異世界魔王の骸』が【魔王スキル】を保有しています……]
[【魔王スキル】を《ダウンロード》しますか?]
[▶︎YES / NO]———————————————————————
「当然、YESで!」
———————————————————————
[【魔王スキル】の《ダウンロード》に成功しました]———————————————————————
その表示が出現した途端、重厚なプレッシャーは嘘のように消え去る。
そして、自分の身体の一部として溶け込むように体内に奔流が流れ込んできた。
血が沸々と沸騰しているかのように熱い。
力が体内で暴れ回り、今にも爆けてしまいそうな感覚に見舞われる。
———————————————————————
■【魔王スキル】
⇒異世界の英雄である魔王が保有するスキル。文字通りの全能スキルであり、全ての力を扱えるようになると何でも出来てしまう。ただし、現段階でスキルを一つでも使用すれば力の負荷に身体が耐えれず死に至る。———————————————————————
……は? 使っただけで死に至るって。
それって———。
「———【魔王スキル】地雷すぎ。めっちゃゴミスキルじゃねぇか……」
だが【スマートスキル】が優秀なのは何も《ダウンロード》だけじゃない。
《アップデート》まで終えて、初めて真価を発揮するのだ。
……さぁ、どう変化する!?
———————————————————————
[【魔王スキル】を《アップデート》します]
[……失敗しました]
[【魔王スキル】は完全無欠状態であり、既に『
[【魔王スキル】の新たな成長性を模索……]
[……条件がヒットしました]
[【魔王スキル】を再度、《アップデート》します]
・・・・・・
・・・
[……成功しました]
[新たに【魔王スキルLV.1】を獲得しました]
[【魔王スキルLV.1】の効果により新たなる力『異能力』を獲得しました]
[獲得『異能力』は《魔王剣術》です]
[レベルを上げることで更なる『異能力』を獲得することが可能です]———————————————————————
『究極スキル』——その名の通りスキルの中でも特別であり、極限に極められ洗練された真の強者のみが持つことを許されたスキル。
ただ成長可能な『究極スキル』は聞いた事がない。
剣術系最強とも言われる《神域刀剣術》を既に会得しているが……。
果たして《魔王剣術》はどうなのか?
目を瞑り両手を合わせ、元・魔王の骸に祈りを捧げる。
——
先程は手痛く弾かれてしまったが、【魔王スキル】を手にした今その剣に手を触れると——。
……弾かれない。
むしろ手と一体になったかのようで、完全に馴染んでいる。
それに……雲を掴んでいるかのようで、重さを全く感じない。
【魔王スキル】が力の中心となり、先ほどまで暴れんとしていた濃密な波動が渾然一体となる。
つい刹那の時、ダンジョン内を支配していた力は、今や俺自身の身体から放たれていた。
「《魔王剣術》がどれほどのものか……。いざッ!」
『覇剣』を構え力を軽く込める。
そして左下から右上へと斜めに一振り——"無名の一閃"。
振り終え少しの間の後に、ダンジョン内に嵐が巻き起こる。
ダンジョンの空間ごと真っ二つに裂け、その斬撃はゲートの外まで続き、大学の外にそびえる大山の山頂部分を斬り落としてしまった。
「うげっ! やばすぎこれ、力強すぎだろ!?」
ゲートを囲むようにして集まっていた、A級以上のプレイヤーたちは目を丸くし、顎が外れるほど口を開ける。
山が崩れていく姿を、ただただ唖然と見つめるプレイヤーたち。
【魔王スキルLV.1】……このレベルが上がれば、俺はどれほどの化け物っぷりに成長できてしまうのだろうか。
今から楽しみすぎてたまらないッ!!
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