第2章 日本防衛レイド戦編

16. エンゲージリング【side:留美奈】

 あの日——星歌くんの婚約者になってから三ヶ月。


 プロポーズを受けた時は、片時も離れることなく一緒にいれると思っていた。

 でも二人で立てた誓いを守るために、強くなるんだって星歌くんは修行に出てしまった。


 しかも残念な事にどうやら師匠が厳しい人らしく、修行中は一切外部との連絡を取らせてもらえないらしい。

 メッセージを送っても返事は来ず、全くの音信不通になってしまっていた。


 ずっと連絡が取れないのは寂しいし、不安で仕方ない。

 毎日のようにスマホを握りしめ、メッセージが来ないかを確認する日々。

 星歌くん成分が足りなくて、心が疲弊していく。


 そのような中、心の支えになっていたのは、キラリと左手薬指で輝くダイヤモンドの飾られた指輪—— "エンゲージリング "だった。


 修行が始まる前日にプレゼントされ、直接指にはめてくれた。

 離れていても一緒にいるみたいで、ついついボーッと眺めてしまう。


 星歌くん……今頃修行頑張ってるのかなぁ……。


「留美奈ちゃん、大丈夫なん? 体調悪いなら少し休む?」


 危ない危ないッ!

 ……今はダンジョンの攻略中なんだった。


「ごめんね、ちょっと考え事しちゃってただけだから。大丈夫だよ」


 指輪から視線をそらし、声をかけてくれたパーティーメンバーに返事をする。


 関西弁のB級剣士、北野きたの たきくん。

 その隣には、同じくB級で火炎系のスキルを使う南口みなみぐち 奈未なみさんが心配そうな顔で私のことを見つめていた。


 二人とも同時期にプレイヤー資格試験を受けた、いわゆる同期であり、年齢も同世代だった。

 過去に何度かパーティーを組んだこともあり、連携も取りやすく居心地は良かった。


「ダァーッ! 攻略終わるまでは我慢しようと思ってたけど、やっぱ無理やわ。留美奈ちゃん、彼氏でも出来たんか?」

「あ、ズルい! 私も気になってたのに。その左手の指輪……それってエンゲージリングだよね? 婚約したの?! ねぇねぇ!?」


 ち、ちかい、近いッ!!

 二人とも目の色を変えて私の元に歩み寄り、質問という名の猛攻撃を繰り出す。

 ストレートに聞かれると恥ずかしいが、さすがに誤魔化すのは無理そうだ。


「婚約したの……。彼氏と……」


 絶対に赤面しているであろう顔を少し覆い隠しながら、ぼそっと小さな声で答える。


「カァーッ! やっぱりかぁ。留美奈ちゃんかわええもんなぁ。そりゃあ、男がほっとかんよなあ」

「おめでとう、留美奈ッ! 婚約者は……相手の男性はどんな人?!」


 北野くんに聞かれると茶化されるかもしれないので、奈未にだけ耳元でこっそり『幼馴染……だよ……』と答えておく。

 さすがに相手が、時の人であるS級プレイヤー星歌くんと知れば、根掘り葉掘り聞かれそうなのでそこは内緒にしておく。


「いいなぁ。私もいつかは素敵な人と出会いたいなあ」


 そうため息を吐きながら呟く奈未の後方で、アピールする北野くん。

 全然気付いてもらえないことに、我慢できなかったのかついに——。


「お、おれおれ! 俺はどうなん?」

「え……? うーん。北野くんはちょっとないかな」


 照れながら告白に近い言葉を伝えた北野くんは、あっさりと撃沈。

 でも諦めきれないらしく、『絶対に今日中に惚れさせてやるぅぅぅぅ!!』とダンジョンを先行して突っ走って行った。


「ふふっ。留美奈の前だから話すけど、本当は彼のことまんざらでもないの」

「えっ!? でもさっきは——」

「うん、ああいう風に言っておけばもっともっと一途に想ってくれるし、彼のかっこいい姿が見れるでしょ? 女の子はちょっとくらいわがままな方がいいのよ」


 悪戯っぽく舌を出して微笑む奈未を見て、少し感心してしまった。

 次に星歌くんと会った時は、私も我儘になってみようかな……。


 そんな事を考えながら、私たちはダンジョンの最奥へと足を進めた。

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