06. 新人プレイヤーの試練

 A級クラスの暗殺者、影道を密偵に行かせて数日後。

 そろそろ何かしらのアクションがあってもいい頃合いだと思うのだが、未だ連絡はない。


 そんな中、俺はプレイヤー資格試験の結果により、正式にプレイヤーとして認められることとなった。

 ランクは『E級』……プレイヤーとしては最低ランクだ。


 ランク判定の基準は自分の使える『スキル』『身体能力』そして『魔力』を試験時に見せる必要がある。

 特に『スキル』の性能や種類が何よりも高ランク判定に直結するため、あえて隠す者はいない。


 それでも俺は【アップデート】前の《刀剣術》と《肉体強化》……。ありきたりな二つのスキルのみ申請して試験に臨んだ。


 プロの暗殺者である影道を倒せた時点で、A級に近い実力が既にあるのは自負している。それでもあえて『E級』になるようにしたのは、理由がある。


 最弱ランクのプレイヤーが最強ランクのS級プレイヤーを倒す。

 ——単純かつ最も効果的に豪炎寺を辱めることができる方法であり、これこそが俺の狙いなのだ。


 俺のことを裏切ったまでは許せたが、留美奈に危害を加えるやつは絶対に許せない。

 まぁ、ここまでは計画通りで良かったんだが……。


「まさか新人プレイヤーは必ず教育の一環として、協会担当者とダンジョンに行かなきゃいけないとは……」


 俺も巻き込まれ、死者を大勢出した漆黒の双竜事件が公のものとなってから、新人を守るために出来た新制度だった。


 まぁ、強制だから仕方ない。

 俺以外にも新人がいるだろうし、軽めのトレーニングって気持ちでいよう。

 本当はE級じゃないってのだけは、バレないようにしないとな。



 ◇



「はい、新人プレイヤーのお二人さん揃いましたね。今日はプレイヤーとして初めてのダンジョン攻略に挑むんですから。教育係の私がきっちりと教えますね!」


 張り切った様子でそう話すのは、プレイヤー協会新任教育係の湖上こじょう 美月みづき

 C級プレイヤー資格を持つ、黒髪ポニーテールがよく似合う22歳の美人さんだ。

 装備している武器から推測するに、風の魔弾を放出する魔法銃使いらしい。


 俺以外に参加する新人プレイヤーはもう一人。

 挑発的に染め上げた赤色の髪に仏頂面の男。

 確かこの間ネットニュースで話題になっていた、期待のB級新人プレイヤー鬼山田おにやまだ ごう

 身の丈以上の斧でガードしながら、圧倒的な破壊力も携えるアタッカーだ。


「湖上さん、よろしくお願いします」

「はい! 頑張りましょうね、天川 星歌さん」

「……ッチ。期待のルーキーたる俺様がこんなカスE級と一緒だなんてな。なぁ美月ちゃ〜ん、これ終わったらデート行かね?」


 見た目から予想はしていたが、鬼山田はチャラい。それにB級判定を受けた事が自慢で、自らが選ばれた人間だと考えていそうなタイプだと思った。


「えっと、デートはまたの機会で。とりあえず今日来てもらってるダンジョンは一番簡単なF級なので、三人で頑張りましょうね」

「照れちゃって〜。きゃわいいな美月ちゃん」


 湖上さんにピシャリと言い返されていることも気にせず、気持ち悪い言葉を吐き続ける鬼山田。

 それはダンジョン内に進んでも続いた。


「オラァ! スライムども俺様の強さの前に平伏しやがれぇぇぇぇ! どうだい美月ちゅぁぁん、俺様強すぎちゃって惚れて来ちゃっただろぉ?」


 ランクを隠したい俺にとって、率先して戦闘に参加してくれるのはありがたい。

 ……が、スライム相手に必要以上に大振りで斧を振り回し、いちいちキメ顔で湖上さんにアピールをする姿は、滑稽でしかない。


 ちなみに、スライムレベルであればE級プレイヤーでも難なく倒せる。


「鬼山田さん、ダンジョン内では何が起こるか分からないんです。危ないので勝手に進まないでください!」

「大丈夫だってぇ。俺様はB級プレイヤーだぜ? 何があっても余裕だってのぉ。美月ちゃんの方こそ守ってやるから、俺様の側から離れんなよぉ〜。ハーッハッハッハーーー」

「ハァ……。全然言うこと聞いてくれないし。初めての教育係のお仕事だからきっちりこなしたいのに」


 ダンジョン内で何が起こるか分からない。

 俺もあの日の実体験があるからこそ、肝に銘じている。

 さすがに双竜が出てきた時と違って、F級ダンジョンなので危険な事は起こらないと思いたいけど……。



 でもその予想は大きく外れることとなった。

 ダンジョンの最奥に進むと、閉ざされた巨大な扉が現れる。


「ダンジョン内に扉ってことは?!」

「はい。天川さんの予想通りです。私も初めて見ますけど、ダンジョンの主人——ボスモンスターのいる部屋ですね」


 F級ダンジョンのボスモンスターであれば、恐らくビッグスライムのはず。表向きの戦力でも簡単に倒せるだろう。


 でも少し引っかかる。

 ダンジョンボスの扉はその存在を誇示するかのように、ピカピカの黄金色に輝いていることが特徴だ。


 でも目の前の扉は違った。

 材質は石であり、嫌な記憶を思い起こさせられる。

 古くてところどころ苔が生えている大きな扉。

 ダンジョンボスというより、まるでダンジョンが出来る前からそこに住んでいた者がいるような……。


「何だ何だ? こんな扉余裕で開けてやるぜ。ふんっぬぅぅぅぅぅぅ……!」


 やっぱりおかしい。

 ダンジョンボスの扉なら、手をつけた途端ひとりでに開くようになっているはずだ。

 それこそ、か細い湖上さんの力でも簡単に開くように。

 でも鬼山田は明らかに全力でこじ開けている。それも何かのスキルを使いながら。


 湖上さんもようやく異変に気付いたらしい。


「この扉……変です。鬼山田さん、扉から離れてください。これはボスの部屋じゃないです」

「あぁ? んなことどうでもいいぜぇ。何が出て来ても俺様が余裕で捻り潰す!」


 鬼山田が聞く耳を持つはずもなく、扉はギシギシと音を立てながら完全に開いた。


「何なのよここ……。こんなの……」


 喉の奥から何とか絞り出したような湖上さんの声は、恐怖で震えている。

 でもその気持ちはすごく分かる。

 さすがの俺も目の前に広がる光景は、予想外すぎて驚かされた。


 開かれた扉の奥にいたのは、ゴブリン。

 ゴブリン……ゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリン!


 その数は二百、いや三百は超えているだろう。

 それもただのゴブリンではない。

 皆が完全武装している。


 ゴブリンソルジャー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンライダー、ゴブリンマジシャン、ゴブリンランサー、ゴブリンバーサーカー、ジェネラルゴブリン……。


 そして奥の玉座にて一際異質なプレッシャーを放つ存在——あれはゴブリンキングだ。


「軍隊……。いや、まるで一つの国だな……」


『キタナ、ニンゲン。ニンゲンは弱い。全員コロス。オマエ達イケッ!』


 ゴブリンキングは叫ぶようにそう言い放ち、その声はエリア内で反響しながら響き渡る。


 そして命令を受けて、見上げるほど大きなゴブリンバーサーカーが一体、俺たちの前に立ち塞がった。





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