03. スマートスキル

「俺は……生きてるのか……?」


 双竜の蒼炎に焼き尽くされたかと思ったが、どうやら地面が熱力に耐え切れず崩れたらしい。

 俺は崩れた床に横たわっており、見上げると先程いた場所がかなり高い場所に位置していることが分かる。

 擦り傷や打撲はあったが、骨折はしていなさそうだ。

 あの地獄絵図から生き残れたのは、まさに奇跡と言ってもいい。


 双竜の存在を警戒したが、既に近くにはいないようだ。

 どこに消えたかは分からないし、すぐに戻ってくる可能性もある。

 心身ともに疲弊しているが、少しでも気を抜く事は許されないだろう。


「そう言えば、豪炎寺のやつ。マジでやってくれたな……」


 少しでもあんなやつに尽くしたい、などと考えていた俺を呪いたい。

 留美奈もあいつには嫌な視線を感じると、相談してくれていたのにな。

 全く聞く耳を持たなかった俺の責任だ。

 何がなんでも留美奈は救い出さなきゃいけない。


 プレイヤーですらない無価値で無能な俺が、最強のS級プレイヤーとそのギルドを倒す。

 途方も無くあり得ないことだが、成し遂げなければならない。

 そのためにもここから脱出して力を得なければ、絶対に!


 ふと瓦礫の山に宝箱の蓋が落ちているのが目に入る。さすがに宝は全て持ち出されただろうが。

 そう思いながらも、何かに引き寄せられるように近付く。


「これは……、もしかして!」


 そこには一冊の書物。

 白金色に光り輝く激レアアイテム『スキルの書』が残されていた。


『スキルの書』とは、その名の通り記載されたスキルを手にする事が出来るアイテムだ。

 銅、銀、金の順に価値が上がり、価値が上なほどより強力でレアなスキルが手に入る。


 ただ、俺が見つけた白金色の書だけは他とは比べ物にならないほど破格の価値が備わっている。

 なぜなら望んだスキルが一つだけ手に入る激レアアイテムだからだ。


「神にすら見放されたと思ってたけど、ずっと諦めなくて良かった」


 国内でも白金のスキル書が見つかった例は三件しか報告されていない。もし『煉獄の赤龍』の前で見つけていたら、即没収されていただろう。


「やっぱり手にするなら圧倒的に最強なスキルだよな……」


 他に追随を許さない一撃必殺とも言えるスキル。一生懸命に考えるが、あの漆黒のドラゴンを前にした後だと良さそうなものが思い付かない。

 それに、これからはS級プレイヤーですら敵になる。使えるスキルが一つしかなければ、簡単に対策されてしまうだろう。


 ——スマートフォンみたいに多機能なスキルでもあればいいのに。


 なんて軽い冗談の気持ちを告白してみる。

 すると、白金のスキル書に光が放たれ文字が浮かび上がる。


 本題には『【スマートスキル】の書』と書かれていた。


 勝手に心の内を読み取られ、反映してしまったらしい。

 慌てて中身を確認していく。


 ———————————————————————

【スマートスキル一覧】


 ■【ダウンロード】

 ⇒他者のスキルを自身のものにする。


 ■【アップデート】

 ⇒保有しているスキル及び武器の効果を飛躍的に向上させる。


 ■【クラウド】

 ⇒装備やアイテムを保管できる。上限あり。


 ■【ストア】

 ⇒武器やアイテムを即時購入することができる。


 ■【インストール】

 ⇒ストアで購入した装備を顕現させ続ける効果。他者がストア装備を使おうとすると効果が解除される。


 ■【検索】

 ⇒スキルやアイテム、モンスター等の様々な情報が見れる。いわば解析鑑定。


 ■【マップ】

 ⇒自身の周辺の状況を掌握する事が出来る。視認出来ない他者の配置も把握可能。———————————————————————



「一気に七つもスキルが!?」


 他者が対象になるスキルもあるので今すぐ全部は試せないが、上手く組み合わせて使えれば中々面白いかもしれない。

 まずは使えるスキルから使ってみよう。


「よ、よし。最初は【マップ】で!」


 初めてのスキルに鼓動が高鳴り、少し声が上ずる。


【マップ】を発動すると脳内に周辺ダンジョンの地形が投影されていく。

 壁はもちろんだが、少し離れた場所でトラップ的な仕掛けがあることも筒抜けだ。

 ちなみにモンスターは……いないようだ。


「出口が地下にあれば良かったんだけどな。このまま上まで戻って、ゲートから出るしかなさそうだ」


 材質が石でできた壁。それを何百メートルも登っていくなど想像が付かない。手元にあるのは護身用のサバイバルナイフ一つ。床にも瓦礫や石ころが転がってるだけで、役立ちそうなものは見つからない。


 何でもいいからアイテムがあればいいんだけどな。

 ……いや画期的なものがあるじゃないか。

 俺のスキルに【ストア】なんてものが。


「【ストア】を使用する」


 俺がそう呟くと、視界にホログラムが生成される。

 まるでそこにあるかのようだが、手で触ろうとすると透ける。でも頭の中で考えるだけで操作が出来る。

 ……どれどれ。


 ———————————————————————

【ストア:アイテム】

 ■治癒ポーション (中) : 10,000円

 ■治癒ポーション (大) :100,000円

 ■治癒ポーション (神) :1,000,000円

 ■スタミナポーション (中) : 5,000円

 ■スタミナポーション (大) :50,000円

 ■スタミナポーション (神) :500,000円

 ・

 ・

 ■おにぎり: 300円

 ■天然水(500ml) : 200円

 ・

 ・

 ・———————————————————————


 ポーション系高っ!

 しかも(神)って何だよ。

 どれだけ効果があるのか分からないけど、ちょっと相場おかしくないか?


 そしてお金は銀行にはあるが、手持ちにはない。

 これ買えるのか? 自動決済される?

 仕組みを調べるためにも、取りあえず『ポーション(中)』を購入してみる。


———————————————————————

『自動決済が完了しました』

『ポーション(中)を購入しました。』

———————————————————————


 視界にそれらの文字が浮かび上がり、気付けば手に薄緑色の液体の入ったガラス板が握られていた。


「飲んでも大丈夫なんだよな?」


恐る恐る口元へ運び、一気に飲み干す。

すると、擦り傷も打撲による痛みも嘘のように引いていく。


「痛くない。それどころか怪我した痕すら残ってないぞ」


 ヤバい。これはすごい。すごすぎる!

 他にも良さそうな物があるかも知れない!

 

 そう思って操作を続けると、武器のページに辿り着く。


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【ストア : 武器】

 ■鋼鉄のフライパン : 1,000円

 ■鋭利な果物ナイフ : 2,000円

 ■ミスリルナイフ : 20,000円

 ■リボルバー式拳銃(黒) : 10,000円

 ■ガトリング砲(黒) : 2,000,000円

 ・

 ・

 ・

 ■黒刀夢幻(朧月) : 100,000,000円———————————————————————


 何だよ一番下の……1億円って。

 名前からしてめちゃくちゃ強そうだが、貯金10万円程度の俺に買えるはずもない。買えそうな金額で使えそうなものと言えば『ミスリルナイフ』くらいだな。


 この時の俺にはナイフの切先を壁に突き立てて登っていく構図が浮かんでいた。

 石に金属を突き立てるなんて、馬鹿げた話だ。


 でも、それを可能にすることが出来そうなスキルがある。

 スキルや武器の性能を向上させる【アップデート】。


「貯金が減るのは痛いけど、ミスリルナイフを2つ購入してっと。そこに【アップデート】で性能を底上げすると……」


 手にした『ミスリルナイフ』の鮮やかに煌めく銀色の刃が、白く輝きを放つ。

 壁に刃を突き立てると、まるで豆腐に突き刺したのかと勘違いするほど、軽い力でスッと入り込む。

 そして切先は丁度良い具合で止まった。


「よし、行けそうだな。時間は多少かかるけど、まずはここから確実に脱出。そして色々と準備だな。……待っててくれ、留美奈」


 手にしたナイフを力強く握りしめ、俺はひたすら壁をよじ登った。

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