02. 災厄のエリア
ゲート内のエリアに足を踏み入れると、壁に掛けられていた魔石が光輝く。
おかげでエリア内は明るくなった。
……が、青白く光るその様子はどこか不気味だ。
中央には巨大な宝箱が開かれており、黄金やら宝石やら、見たことのない鉱石やらが顔を覗かせている。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁ! 大当たりじゃんこれ」
「モンスターもいないな。こりゃ全部いただきだ」
彼らの言う通り、確かに周りにはモンスターはいない。
ただ、妙な存在感を放つものが……。
背丈の数十倍はあるドラゴンの石像が両脇に置かれている。
石像と言うにはあまりにリアルで、今にも動き出しそうだ。
「……これ、さすがに動かないよな」
「ふぇ? 怖いから冗談でもやめてよぉ」
ゲート内に入ってからも、留美奈は警戒を続けている。何が怖いのかは分からないが、冷たく刺すような視線を俺もどこかで感じていた。
「さぁ、皆さん。回収をお願いします。僕は念のために周囲を警戒しておきますので」
豪炎寺さんは刀の柄に手をかけながら命令する。
手取り分で後ほど分配される量も少し多くなるため、荷物持ちメンバーはこぞって奪い合いをするように中央へ走っていった。
……まるで蜘蛛の巣に手繰り寄せられる、餌のように。
その時だった。
ピシッ!
何かに亀裂が入る音。
その音は何回も大きく鳴り響く。
「な、何の音だ?」
「急げ、宝を積めちまうぞ!」
誰もが異変に気が付いているが、何が起こっているのか把握出来ていない。
そんな中、俺の視界には映っていた。
ドラゴンの巨像の外壁が崩れていく様子が……。
剥き出しになっていく鋭い爪、堅牢な漆黒の鱗。
蒼く光を灯す瞳は、生きている!!
グァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
漆黒の双竜が動いたかと思うと、中央にいた半数が一気に蹴散らされる。
血飛沫が上がり、手足が引きちぎられている。
何が起こっているのか脳内で処理が追いつかず、目の前で起きていることがスローモーションに見える。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「に、にげ……ギャ……」
攻撃手段を持たない荷物持ちメンバーに、この事態を対処する術はない。
あるのはただ蹂躙されていく現実だけ。
それは俺も同じだった。
「逃げないと。早くゲートの外へ出ないと!」
「あ……あ、ぁ……」
隣で留美奈は腰を抜かし、ガタガタと震えて動けなくなっている。
完全にまずい。
このままだと全滅してしまう……留美奈を死なせる訳にはいかない。
「留美奈、立てるか? 手を!」
「無理だよ……。あんなのがいるなんて……おかしいよ」
留美奈の言う通りだ。ダンジョンにいるモンスターはせいぜいゴブリン程度の小物。
これまで確認された最強のモンスターでミノタウロスだ。
多人数を同時に瞬殺できるドラゴンが出るなんて、見た事も聞いた事もない。
……そうだ。S級プレイヤーの豪炎寺さんなら!
そう思い周囲を見渡す。
「全員走って! 全速力でゲートまで走るんだ!」
どうやら豪炎寺さんもみんなを誘導するのに必死で、戦闘どころではないらしい。
「星歌くん……。私を置いて、逃げて……」
「馬鹿言うな! 留美奈を置いてく訳ないだろ。絶対にここから生きて帰るんだ!」
背負っていた荷物を床に投げ捨て、留美奈を背中におんぶし、トップスピードで走る。
息が切れて、足が疲労で震える。
それでも走ることは絶対にやめない。
「星歌くん! 危ない!!」
豪炎寺さんの叫び声に後ろを振り返る。
双竜が大きく口を開き、青白い炎が輝きを帯びて収束していく。
初めて見るがブレス攻撃であることは明白だ。
「クソッ、間に合わない。……せめて留美奈だけでも」
ギリギリまでゲートに近付き、留美奈を背中から降ろして突き飛ばす。
「星歌くん、待っ——」
留美奈がゲートを潜る姿を確認する。
よし、これで留美奈はもう大丈夫だ。
「急いで星歌くん、さぁ手を!!」
豪炎寺さんがギリギリまで待って、手を伸ばしてくれる。
俺はその手を取って——
ドンッ!!
「……え?」
何が起こって……。
豪炎寺さんは何で俺のこと突き放したんだ?
「フッ。君はいらないんだよ、僕には留美奈ちゃんさえ居てくれればそれでいい。彼女のスキルはめちゃくちゃ有能だからねぇ。ボロ雑巾のように利用してやるよ」
な、何を言ってるんだ。
豪炎寺さんが優しかったのは、留美奈をギルドに引き込むため?
「今まで……騙してたのか?」
「フハッ、騙される貴様が悪い。……じゃあな」
豪炎寺さんの姿はゲートの向こう側へと消えてしまった。
同時に背後からはチャージされていた双竜の蒼炎が放出される。
計り知れない熱量を帯びた炎は、一瞬にして残された荷物持ちメンバーを灰にしていく。
「ちくしょぉぉぉ! 豪炎寺ぃぃぃぃぃ!!!!」
最後に残ったのは俺一人。
心からの叫びは誰に聞かれる事もない。
……そして俺の身体は蒼炎に包まれた。
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