第1章『無能から強者へ』成り上がり編

01. 無能なポンカス

 無能なポンカス天河あまかわ 星歌せいか

 俺は周りからそう呼ばれていた。


 スキルを持たない者は、プレイヤー登録が出来ない。

 プレイヤー登録が出来なければ、当然ダンジョンに立ち入る権利すらない。

 故に無能、無価値……将来の希望すらない。


 スキルに目覚める適性年齢は十五歳。そしてプレイヤー登録が出来るようになるのは高校を卒業してから。

 俺は十九歳を目前にし大学に通っているが、未だスキルが目覚める気配はない。


 それでも諦めたくはなかった。周りで馬鹿にされ続けるのも辛いし、絶対に見返してやろうと思っていた。


 だから、今日もダンジョン攻略の一般募集枠に応募したのだ。



 ◇



 俺のようにスキルの持たない者はいないが、スキルが戦闘に使えない者も少なからず存在する。

 その者たちのために用意された救済措置が『荷物持ち』である。


 攻撃隊として攻略に当たるのは国内でも有数のギルドの一つ『煉獄の赤龍』。

 つまり攻略対象のダンジョンはかなり高ランクであることが伺えた。


「よし。今日はいい経験が出来そうだな」

「もう、そんなこと言って。星歌くんまた怪我しないでよ?」


 そう心配そうに隣で話すのは、幼馴染の白咲しらさき 留美奈るみな


 フワッとした栗色の髪に、クリクリとしたまん丸のおめめ。小柄だけど、スレンダーなモデル体型。そんな彼女は十八歳にして優秀なB級プレイヤーだ。

 サポート系の戦闘スキルを持っていて、中でも【神聖ナル盾】と【超速治療】はサポート系最強のスキルという呼び声も多い。


 有名なギルドからすれば、喉から手が出るほど欲しい人材だが、留美奈は無所属のプレイヤー。

 理由を聞いたことがあるが、顔を真っ赤にして『内緒っ!』と言われた。

 以来、俺が荷物持ちとしてダンジョン攻略に参加する時は一緒に付いてきてくれている。


「おや、君は確か……。よく荷物持ちに来てくれる星歌くんじゃないか」

「えっ、はい! いつもありがとうございます。豪炎寺さん」


 豪炎寺ごうえんじ くれない

『煉獄の赤龍』のギルドマスターで日本屈指の最強ランク、S級プレイヤーの一人だ。


「ちょ、ちょっと豪炎寺さん。こいつはスキル無しの無能ですよ?」

「そうですよ。こんなやつに声なんてかけない方が……」

「君たち黙りなよ。星歌くんは毎回立派に荷物を運んでくれているんだ。そういう言い方は良くないな」


 他の荷物持ちメンバーからさえ、馬鹿にされる俺を豪炎寺さんは厳しく叱りつけてくれる。


 当然舌打ちされる結果になる訳だが、それでも自分の事をきちんと見てくれている人がいることが心の救いになっていた。


「ありがとうございます、豪炎寺さん」

「いやいや。僕は当然のことを言ったまでだよ。今日もしっかりと頼むよ」

「はいっ!」


 やっぱりかっこいいな、豪炎寺さんは。

 実力はさることながら、言動も行動すらも模範的すぎる。

 俺がもしスキルを手にしたら『煉獄の赤龍』に入ってこの人を支えよう。


 その志を持つ事で、今日も頑張ろうと気合いが入る。


「私……あの人苦手なんだよね。全身舐められるように見られてるみたいで」

「そうなのか? そんな変態っぽい人ではないと思うけど」

「うーん。その……えっちい感じじゃなくて。私のこと欲してるっていうか」


 豪炎寺さんに限って、それは考えにくい。

 さすがに留美奈の思い過ごしだろう。

 確かに留美奈は魅力的な女の子だから、そういう目で見たくなる気持ちも分からなくはないけど——


「ちょっと、星歌くん? 今、私のことえっちい目で見たでしょ?」

「ふぁ?! いや、ちょ、見てないって」

「……そうなの? まぁ星歌くんになら見られても……いい、かな」


 そう話す留美奈は頬をピンク色に染めている。

 冗談で言っているのかと思ったが、どうやらやぶさかではないらしい。


「こ、こほん。まぁ……そのさ、今日のダンジョン攻略が終わったら一緒にご飯でも行くか?」

「うん、うんっ! 行くっ! やったぁ!」

「金欠だから牛丼屋だけどな」

「もぅ〜仕方ないなぁ」


 なんて、嬉しそうに笑う留美奈にドキッとされられてしまう。


 留美奈、可愛いすぎるな。

 俺も彼女を守れるくらい強くならないと。


 拳をギュッと握りしめて、今日はかっこいいところを見せてやると決意を固めた。



 ◇



 ダンジョン攻略は順調に進む。

 荷物持ち係も念のために武器を持っているが、さすがはトップクラスのギルド。

 俺たちが装備を必要とする場面はなさそうだ。


「念のために持ってきたサバイバルナイフが無駄になったな……」


 まぁ、ナイフの扱い方なんてまるで素人だから、護身用にしか役に立たないんだけど。


 ダンジョン主要資源である、マナライト鉱石をバッグに積めながら俺たちはどんどんと奥へと進む。


 ——そして、攻撃隊から喜びの声が上がった。


「おい、マジかよ!」

「これって、もしかして……」


 彼らの視線の先には『ゲート』の入り口。

 これは本来ダンジョンに入るためのものであるが、稀にダンジョン内部にも出現することがある。

 その場合、ゲートの中で待っているのはボーナスエリア。

 つまり激レアアイテムや破格のお宝が眠っているのだ。


「ふむ。ボーナスエリアなら、わざわざ攻撃隊を差し向ける必要はないでしょうね。ここは、僕と荷物持ち係のメンバーだけで行きましょう。攻撃隊の皆さんは少しの間休憩していてください」


 ギルドマスターの豪炎寺さんが指示を出す。


「ねぇ、星歌くん。何か嫌な感じするよ。……本当に行くの?」

「当然だろ? ボーナスエリアだぞ」

「上手く説明出来ないけど、今回のは違う気がするよ?」

「……留美奈はここに残るか?」


 ボーナスエリアが危険だったと聞いた事はない。大丈夫、絶対安全なはずだ。

 それでも行かないと言うなら、攻撃隊の揃ってるこの場所なら最も安心だろう。


 ……ただ留美奈の言いたかったことは違うらしい。


「違うの。星歌くんに行ってほしくないの……。危険かもしれないから」

「うーん。きっと大丈夫だろ。豪炎寺さんもいるんだし」

「……そうだよね。私も一緒に行くよ。星歌くんを一人にしたくないから」


 うっ、ほんといちいち可愛いな。

 俺は留美奈の手を握り締める。


「あっ……」


 こんなことで安心材料になるかは分からない。

 でも耳まで真っ赤にした留美奈は、それ以上何も言わず優しく手を握り返してきた。


「さぁ、荷物持ち組は速く中へ!」


 豪炎寺さんに急かされ、俺たちもゲートの中へと侵入した。


 まさか、完全に安全だと思われたエリアであんなことが起こるとは……。

 この時は微塵も思っていなかった。


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