第48話 聴取

 再び本文中に失礼します。前第47話、マニが『格闘術実技』の講義を当たり前のようにサボり散らかしているというミスがありましたので、前半部分を大幅に書き直しております。該当部でも報告致しましたが、こちらにも改めて掲載させて頂きます。申し訳ありません。




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 ではでは、聴取をしていこうと思います。


 今回の被害者愚か者たちに、ではないよ。

 案の定会話なんてできっこなかったし。既に理事長に立ち会って貰って祓いました。


 今回お話を伺うのは、こちらのお二人。


「……レヴィアは偉い……良い子、良い子……」


「……もういいだろっ……」


 まだくっ付いたままのマニさんとレヴィアさんです。

 くっ付いてるっていうか、マニさんが一方的に抱き着いてるだけなんだけど。めっちゃ頭撫でてる。声音がもの凄く優しい。レヴィアさんなんて、嫌がるを通り越して呆れた顔になりつつあるほどだ。


「……良いですねぇ……」


 満足げに呟いてるアリサさんも合わせて五人、流石にわたしたちの部屋も手狭な感じがする。まあわたしとアーシャ、マニさんとレヴィアさんがそれぞれくっ付いてるから、四角い卓を囲ってもまだ一面開いてるけど。


 とにかく、背中をアーシャに預けながら本題に入る。

 記念……して良いかは分からないけど、二人の初仕事だったからね。


「でー、どんな感じだった?」


「……偉い、偉い……」


「…………」


「……レヴィアは、偉い……」


「…………マニさーん?」


「…………あ、はい、すみません……」


 話、聞いてないねぇ。


「……どう、などと曖昧な聞き方をされてもな」


 代わりに答えてくれたレヴィアさんの言葉はもっともで、だけど、何と言い換えたらよいものやら。


「うーんと……戦ってみて、どう感じた?思ったこと、何でも」


 今わたしが二人から聞きたいのは情報、というより所感に近い。

 仮とはいえ神伐局の一員として、カミの片鱗と相対して、何を感じたか。これって結構、大事なことだと思うから。


「……そうですね…………こう言ってしまって良いのか、分かりませんが……」


「どうぞ」


 忌憚のない意見ってやつ、かもん。


「……思ったほど……手強くは無かったな、と……」


 うんうん、だろうねぇ。さっきも何というか、「あれ、こんなもん?」みたいな顔してたし。(ようやく)レヴィアさんの頭から手を離したマニさん。開いたり閉じたり、にぎにぎしてるのは、戦った時の感触を思い出してるのかな。


「……レヴィアと戦った時は……正直、勝てる気がしない、と……そう思うほどに、恐ろしく感じたものでしたが……」


 そうだったんだ。

 ……え、それなのにあんなに臆せず突っ込んでたの?ちょっと怖い。


「……今回の相手は……理性を失った木っ端の獣のよう、と言いますか……危うい存在ではありますが……脅威には、感じませんでしたね……」


「うんうん」


 彼我の戦力差、というならまさしくそうだ。マニさんは強い。もしかしたら、本人が思っている以上に。レヴィアさんの前例があって警戒してたのもあるだろうけど、それを差し引いても、大抵の愚か者たちを鎮圧できるくらいの実力はある。


「以前も言ったけど、レヴィアさんくらい深く強く適合できる人はすごく珍しい。ほとんどの場合は今回みたいに、難なくのせちゃうと思う」


「……はい、実感しました……油断は、しないようにしたいですが……」


「うんうん、今後もよろしくね」


 適度に肩の力を抜いて貰って、マニさんには是非とも遊撃の要として頑張ってもらいたい。わたしが楽できるのでっ!――って言うと言葉は悪いけど、要するに、わたしが居ない場面でもしっかり押さえてくれるのを期待して。


 今回、まるで見せつけるみたいに三人同時に姿を現した。

 これがわたしに祓われたがってる神様の意思なのか、神様を利用してるっぽい誰かさんの差し金なのかは分からないけど。なんにせよ手数が多いに越したことはない。


 ね、アーシャ?

 って気持ちを込めてもっともたれ掛かる。後頭部に当たる柔らかい感触と、合わせてぎゅっと抱きしめてきた両腕の力加減が心地良い。


「……段々と、遠慮が無くなってきているような気がするな」


 そんなわたしたちを見て、呆れたように言うレヴィアさんだけど……ここはわたしたちの部屋なんだから、遠慮なんてする必要なくない?


 というかですね。


「などと仰られているレヴィアさんは?どんな感じだった?」


 この質問は彼女に向けたものでもあるんだけど。

 催促するつもりで視線をこう、くいっ、くいってやってみる。どう?偉い人っぽくない?あ、アーシャに撫でられた。これで良いみたい。


「はぁ……どうもこうも、恐ろしい力だよ。相変わらずな」


 レヴィアさんの顔に浮かんでるのは、恐れであり畏れ。あの時と同じ。


「単純な能力の向上云々ではなく、あの気配……人ならざる、人智を越えた、触れてはいけない領域の力……ああ、恐ろしいとも」


 ぽつりぽつりとこぼす声は、いつもより硬く強張っていて。

 

「……そう思ってるから、踏み止まれたんだ」


「……そうかも、しれないな」


 見たところレヴィアさんは、一人を捕縛するのにも少し手間取っているようだった。もう治ってるけど、怪我もしてたし。

 苦戦して、隣でばったばったと敵をなぎ倒していくマニさんを見て、また力を欲しかけて……それでも我慢できたのは、その恐ろしさを身に染みて知っていたから。


 だから踏み止まれた。

 今回は、ね。


 知っているのは、その強大さもだから。いつか渇望が畏れを上回ってしまえば、彼女はまた同じ過ちを繰り返すかもしれない。


 願わくば、そうならないと良いな。


「――はい。じゃあ、聴取終わり。あとは皆さんご自由にー」


 とにかく聞くことは聞き終えたから、お仕事は終わり。

 全身の力を抜いて、アーシャにもっともっともたれ掛かる。抱きしめるを通り越して包み込むみたいに、アーシャは応えてくれた。


「……やっぱり、レヴィアは良い子……今のレヴィアの方が、この前のレヴィアより……ずっとずっと偉い……」


 テーブルの向こうでは、マニさんがまたレヴィアさんの頭を撫で回していて。

 もはや無言で耐えるレヴィアさんが逆らわないのは、今は目に見えない首輪のせいなのか、自罰的な考えからか。それとも案外、満更でもないのか。傍目には良く分からなかった。


「ずずずず……はぁぁぁ……」


 アリサさんは、もの凄くおいしそうにお茶を飲んでた。

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