第46話 指先


 無事補習も終えて、今後の補習っぽい約束も取り付けて。

 部屋に帰ってきたわたしは、すぐさまベッドに飛び込んだ。


「つかれたぁ」


 頭を使うと疲れる。真面目に勉強すると疲れる。

 当たり前のことだ。


 うつ伏せでぱたぱた、両脚を揺らす。


「お疲れ様」


 アーシャが二度目の労いと一緒に、隣に腰かけてきた。

 少しだけたわむマットに吸い寄せられるように、わたしの身体はアーシャの方へ。顔もそちらに向けて、部屋着に着替えた太ももがすぐ近くに。わたしまだ着替えてすらいないや。


「アーシャも、おつかれさまぁ」


 魔法の調整とか、補習中ずっと廊下で待っててくれたこととか。

 そういうのを籠めて返したら、ほんの少しだけ微笑んだ顔が、視界の端っこの方に見えた。

 肩に両手がかけられて、ころっと転がされる。そしたら今度は視界いっぱいに、アーシャのサクラ色。


「私は大した事はしてないわ。イノリの方が」


 言葉は少ないけど、手の動きは迷いなく。

 ぐでっと脱力したままのわたしの制服を、丁寧に脱がせていくアーシャ。


 頑張ったわたしへのご褒美、みたいだ。


 首に巻かれたタイを解いて、しゅるって優しく、抜き取る。

 ボタンを一つずつ、上から順に、一つずつ、一つずつ。

 全部外し終わったら、背中に手を潜り込ませて、持ち上げられて。

 身体が少し浮く。アーシャの左手一本で、支えられてる感じ。上半身がふわふわ、ちょっと揺れて心地良い。

 それから反対の手で上着をずらし、右手、左手の順番で抜いて貰って。ぱさりとベッドに落ちたそれをアーシャが回収するまで、わたしはされるがまま。


 肌着姿になった上半身からゆっくり手を離されて、背中は再びベッドに着地。


「下も」


 続けざまに、返事も待たずに。

 アーシャは抱き着くみたいにして、今度はわたしの腰に手を回そうとする。

 細い指に脇腹辺りをなぞられると、自然と腰が少し浮いてしまうから。その隙間を這うように右手が、お腹の上を撫でるように左手が。

 わたしの右腰で邂逅したアーシャの両手が、スカートのホックをつまむ。見えないけど。視界には相も変わらず、長いサクラ色しか映っていないけど。でも、肌着越しに感じる。アーシャの指先が伝わってくる。


 音もなく、腰回りが緩まった。

 ゆっくりゆっくり、腰の下から右手が引き抜かれる。その指がそのまま、スカートの縁へかかる。左手は太ももに。

 ベッドから投げ出したままだった両足が、持ち上げられる。

 そしたら一緒にお尻も浮いて。スカートがするっと、引き下ろされた。

 上着と同じように、左手でそれを回収していくアーシャ。ベッドの端の方に纏めておかれた……ような気配を感じつつ。


「少し、ごめんね」


 囁き声。

 ぐいーっと、上半身を抱き起された。


「どうぞー」


 されるがままのわたしに、不満なんてあるはずもなく。

 今度は正面から抱き着く形で、もう一度腰に手が回される。白い肌着……インナー?って言うんだっけ?それの、背中側の裾に指をかけられた。


 ゆっくりと持ち上げながら、脇腹の辺りまで滑ってくる。

 服の端も、アーシャの指先も。


「んっ……」


 こそばゆくて気持ち良くて、声が漏れてしまった。


 そのまま、ゆっくりなまま、巻いたり指にかけたりして、インナーが捲り上げられていく。

 少しずつ少しずつ裾が上がっていくたびに、アーシャの指先は弧を描きながら、わたしの肌をなぞる。振り子みたいに、背中側からお腹側へ、お腹側から背中側へ。

 行ったり来たりすればするほど、触れられたところがぞわぞわしてきて。普段はひんやりしてるアーシャの指先は、両手十本とも全部、仄かに熱を帯びていた。


「腕、上げて」


「……ん……」


 いつの間にか耳元にまで来ていた唇に、まるで身体が唆されるみたいに。

 頭で考えるより早く、両腕が上がっちゃってた。


  わたしの太ももを挟んで膝立ちになったアーシャ。迷うことないその手付きに、肌着まで完全に脱がされる。

 爪の甲が一瞬だけ脇を掠めていって、それだけでも、身体が震えてしまった。


 白いインナー、これまたぽいっとベッドの端っこに放られたのが、視界の隅に映ったけど。次の瞬間にはまた、サクラ色で覆いつくされる。今度は真正面に、近過ぎるアーシャの顔を据えて。

 おろした両肩を撫でられた。


「下着も」


「……ん……」


 ちなみに下着は都会仕様・・・・

 制服と一緒に用意して貰ったやつ。ぶらとしょーつ?ぱんつ?好みの色とか聞かれたからサクラ色って答えておいた。制服と合わせて、全く同じものが複数組。アーシャのはわたしのよりもサイズが大きくて黒い。なんかこう、色気が凄かった。


 とかぼんやり考えてるうちに、一瞬きゅっと引っ張られて、背中のホックが外される。

 肩紐もずらされて。密着したまま両手をぐねぐね抜いて、それでもブラは、わたしの胸と押し付けられてるアーシャの胸とに挟まったまま――あ、引き抜かれた。


 ぱさり。

 制服の上着、スカート、肌着、ブラ。順番に積みあがっていく。


「……腰」


「……ん……」


 ここまで上と下を行ったり来たりしてたアーシャの両手は、今また、わたしの腰に降りてきてる。サクラ色の三角形、そのふちに指をかけられて、言われるがままに腰が浮いてしまう。

 両腕をベッドに突っ張らせて身体を支えたから、胸を突き出すみたいになっちゃって。アーシャも膝立ちのまま脱がせようとするもんだから、少し前のめりな姿勢に。お互いに押し付け合うみたいに、支え合うみたいに、ふにゅっと形を変えた。


 腰と腰との間に空いた少しの隙間に、アーシャの両手が伸びていて。


 それから。するするって、もう何度目かの衣擦れの音。わたしにもアーシャにも見えない、下の辺りからの音。全部アーシャの手で、自分の身体から発してるんだと思うと、うなじの辺りがちりちりしてくる。


 太ももを通って、膝に一度ひっかかる。アーシャ、最後は指先で軽く弾いたのかな。ぺいっ、すとんっ、って感じで床に落ちていった。見えないけど。


「…………」


「…………」


 まあとにかく、これでほとんど脱がされちゃった。ほぼ全裸。

 なんと靴下が残ってます。


 でもアーシャはそれに手をかけることなく、くっ付いたままわたしの貫頭衣へやぎを手繰り寄せた。

 着るのはこれだけ。どうせ部屋の中だからね、余計なものはいらないのです。


「……頭」


「……ん……」


「……腕」


「……んー……」


 言われたとおりに通していって、柄も何もない着慣れた服に身を包む。

 名残惜しげに離された胸元も、やっぱり指が掠めていった脇腹も覆い隠されて。


「……腰、上げて」


「……ん……」


 さっきは脱がせるために言われた言葉で、今度は服を着せられる。

 今のわたしは、アーシャの思うがまま。


 もう一度押し付け合ったしんぞうの感触は、布二枚分。集落あっちにいた頃と同じ。


「……ぁっ……」


 裾を下ろす瞬間に、さらりとお尻を撫でられた。

 指先で、触れるか触れないかの力加減。それだけで腰がますます浮いちゃって、ほんの一瞬、太もも同士もぺたっとくっつく。


「…………」


「…………」


 だけどアーシャは、そのままベッドから降りて行ってしまう。

 跪くみたいにしゃがみ込んで、でも視線は合わせたまま。

 見下ろす先で、指が伸びる。


 何度も背筋を震わされた綺麗な指が。ようやく、ようやく――




「……何で靴下が最後なの?」


「……さあ、なんでかしら」



 アーシャもよく分かっていないらしかった。

 それから、夕食の時間まで一緒に昼寝した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る