第36話 報告


 レヴィアさんとマニさんの件は、取り合えずひと段落……って言うには、最後にやらないといけなことがある。


 つまり、理事長さんへの報告。


「――内部協力者。それも生徒の、ですか」


「はい」


 内容は、マニさんとレヴィアさんについて。


 『マニ×レヴィア騒動』(名:アリサさん)自体は、アーシャのおかげでそもそも認知すらされていないはず。だから騒動は抜きにして、マニ・ストレングス、レヴィア・バーナート両名との関係性構築だけを伝えて聞かせた。


 レヴィアさんがカミに憑かれていた、ってことを話しちゃうと、『学院』としては追放?退学?だかの処分を下そうとするはず(今までの人たちもそうだったし)。そうなるとこっちとしては困るというか、マニさんが制御し辛くなるというか。


 だけども今後、わたしたちとあの二人は一緒に行動することがとても多くなると思うから。変な勘繰りを入れられる前に、こっちから都合の良い情報だけを流しておこうって、そういう魂胆。


「ほら、前回女子生徒が暴れた時、レヴィアさんも現場にいまして」


「ええ、存じています。ウルヌス教授から報告がありましたから」


 アドレア……なんだっけ……――バルバニア――そうそれ、アドレア・バルバニアさん……やっぱ理事長で良いや。理事長さんの部屋はいつも通り綺麗に片付いていて、来客用のソファに腰かけながら報告をするのもいつも通り。


「その時にまあ、義憤に駆られたらしく……」


 わたしとアーシャ、その後ろに立って控えるアリサさん、向かいに理事長さん。

 うん、いつも通り。


「レヴィアさん自身が、幼馴染のマニさんと協力して独自に調べてたみたいなんですけど」


 二人が一緒にって理由は、幼馴染だから、で良いでしょ。説得力抜群。


「こっちもこっちで調査してたところにこう、鉢合わせちゃって」


 手でごっつんこの身振りをしてみる。

 単純に遭遇したっていうより、独自の捜査をしてるところを見られちゃって――みたいな雰囲気で。多くは語らずに。


「そこからなんやかんやあって、少しだけ素性を明かして捜査に協力して貰う形になりました」


 わたしとアーシャじゃ、ここまでが限界だった。たぶんアリサさんならもっと上手い理由付けができるんだろうけど……任せた結果がどう転ぶか分からないというか、やっぱり信用できないので頼らなかった。泣いてた。


 とにかく、最後らへんかなり雑に締めたわたしたちの言い分に、当然ながら理事長さんは訝しげな顔をしている。


「その、なんやかんやとは?」


「なんやかんやとは……」


「……」


「……」


「……」


「……なんやかんやです」


「……成程。聞いても答えは出てこなさそうですね」


「はい、すみません」


 なんやかんやは、なんやかんやなんだよ。


 わたしたちの行動に口酸っぱくあれこれ言わない、っていう取り決めにモノを言わせて、多くは語らない風を装う。本当は語れないだけ。


「ではせめて……少し素性を明かしたと仰っていましたが、具体的にどの程度かなどは」


 それでも聞き出せるだけ聞き出そうとする理事長さんの涙ぐましい努力に、こっちもついついうるっと来ちゃいそう。あくびを押し殺したせいで。

 だって眠いんだもん。そろそろお昼寝の時間だよ。


 ……で、えーっと、なんだっけ。そうそう、素性がどうとかね。ありがとアーシャ。


「学院に蔓延る外法ないし薬物を調査する外部組織、とだけ」


「カミや神霊庁云々は伝えていない、と」


「ええ」


「憑かれていそうな……そういうモノ・・に手を出しそうな人物がいないか調べて貰う……使いっ走りみたいなものですよ」


「成程」


 二度目の成程。一回目と同じく引っかかるところがあるみたいで、続けざまに一つ提案をしてきた。


「しかしそう言う事であれば、やはり学院側からも人員を用意した方がよろしいのでは?」


 そういう頭数的な意味での人手が欲しいんなら、確かに事情を知ってる理事長さんたちに手伝って貰った方が良い気はする。

 しかーしっ、絶対来ると思ってたその問いに対する答えは、ちゃんと用意してあるのだ。がはは。


「いえいえお構いなく。生徒だからこそ見えること、入れる……こ、こみゅにてぃ?っていうのもありますから」


「成程。生徒たちを疑うような言い方はしたくないですが……確かにそのような、教員側が入り込みにくい場所での流通も、考えられますからね」


「そういうことです」


 三度目の成程は、言葉通りの気持ちが乗っていた。

 よし、わたしの口八丁も中々捨てたもんじゃないね。


「……分かりました。では引き続き、捜査はそちらにお任せ致します。もし人員が必要になれば、いつでも仰って下さいな」


「はい、お気遣いありがとうございます」


 わたしが小さく頭を下げたのを見て、理事長さんの肩の力が抜けた。報告会終わり、の合図。となると次は――


「――さて、仕事のお話はここまでにして。良ければ少し、お茶でも如何でしょう。淹れ直しますよ?」



 って、言ってくる。

 ここまで、いつもの報告会でおなじみの流れだ。


 だーれも口をつけなかったティーカップからは、もう湯気も立っていない。

 これまたいつも通り。


 つまりこの後、わたしが返す言葉もいつも通り。


「すみません、折角ですが……この後も所用がありまして」


「それは残念」


「またの機会に」


「ええ、楽しみにしていますよ」


「……失礼します」


 てん……てんぷれーと、になっちゃってる締めのやり取りをして、そのままささっと退出。毎回、所用がって言って断ってるけど、べつに嘘じゃないよ。


「……よし、戻ってお昼寝」


「ええ」


 お昼寝は大事。

 本棟最上階の廊下を歩きながら、アーシャと顔を見合わせる。


「ではワタシは、マニさんとレヴィアさんの様子でも見てきますかね」


「わたしたちの監視はしなくて良いの?」


 後ろをついて歩くアリサさん(メイドモード終わり)だけど、騒動以降お昼寝中に部屋に居座ることはなくなった。そう言えばなんでかと思って聞いてみたら、


「婦婦の寝室に入り浸ろうなどと滅相もありませんよ!」


 返ってきた答えがこれ。


「寝室っていうか、寮室だけど……まあ、良いならいいよ」


 まともだしわたしたち的には楽で良いけど、監視任務を帯びた忍者としてはどうなんだろう……これはこれで何か意図があるのかなぁ。


 ……分かんない。

 ので、考えるのやーめた。


 さっさと戻ってアーシャと寝るっ。

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