非常ベル
硝水
第1話
非常ベルが鳴っている。とはいえもう何十年も鳴り続けているのだから気に留める人もない。非常ベルが鳴っている。けど明日も早いから布団に潜り込む。ヘッドホンを外して耳栓を突っ込む。非常ベルが鳴っている。がいつものように眠りにつく。
音の鳴る目覚ましはとうの昔に廃れてしまっていて、今は指輪から電気ショックが走るものに置き換わっている。定刻通り目覚まされ、耳栓を抜く。ぽーと耳鳴りの音を聞く。……耳鳴りの音を?
慌ててカーテンを開けてみる。朝の日差しに目を焼かれて、いやこれは、朝の日差しなんて生易しいもんじゃない。薄目でみとめたベランダの手摺はもう消えかかっている。掌がはりついて離れない。非常ベルが鳴り始めたあの日から、世界はたしかに少しずつ終わりを迎えていた。それに目を瞑っていたのはこちらのほうだ。静かに、指先を光に食われていく。
非常ベル 硝水 @yata3desu
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