公開航海日誌

硝水

第1話

 過去の自分に会って助言を伝えられるならどうする?

「行くよ」

 多くの人はそう答えるのだろう。僕もそうだった。大人というものはこぞって子供に勉強をしろと言う。大抵の子供はそれを煩く思って勉強しない。そして大人になって後悔する。また子供に勉強しろと言う。後悔先に立たず。

「なぁ君。道路でボール遊びはしちゃダメだよ」

「じゃあどこでしろってんだよ!」

 実に反抗的だ。自分とはいえ非常に腹立たしい。このまま殴って黙らせたい。そのくらいのことは許されそうなものだが、なんせ自分なのだから。

「学校のグラウンドを借りたり、色々方法はあるだろ」

「学校まで行く時間があったら練習した方がいい」

 練習練習練習。それが全部無駄になるんだってどうしてわからないんだろう。なぜもっとリスクがなく建設的なやりかたで努力できないんだろう。これだから僕は。これだから僕は馬鹿なんだ。

「君は、三日後にここで事故に遭うんだよ。だから……」

「おっさん、なんでそんなことがわかんだよ」

「僕は未来から来たんだよ」

「嘘吐きだ!」

 ああ、ああ。覚えている。覚えていますとも。僕も(今思えば僕と同じように伝えに来てくれた未来の僕に)そう言い返したことを。そして僕は予言通り事故に遭った。もうその大好きなサッカーボールを蹴れなくなることを、信じていなかった。未然の事態を実際に起こるものとして想像するのは難しい。

「嘘じゃないんだ」

「じゃあショーメーしてみろよ」

「君は明日返却されるテストで三点を取ってる。これが当たってたら少し真剣に考えてくれないかな」

「三点ん?」

「途中から回答欄がズレてたんだ」

「そんなヘマしねーよ」

「とにかく。危ないから今日はもう家に」

「うるせーな。あっち行けよ、おっさん」

「わかった。ごめん」

 きっと僕はまた事故に遭うだろうな、と思った。後悔からの忠告は……実際に忠告通りに行動しなかった者がすることだから。

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公開航海日誌 硝水 @yata3desu

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