盗蜜

硝水

第1話

 人間を憎むように自分がプログラムされているということを、ぼくは知っていた。

「見えるかい」

 最初に殺したのはぼくを造った博士だった。ぼくが目を覚まし、身を起こすのを嬉しそうに手を叩いて見守っていた。プログラムに支配される瞬間は意識を失っているかのようで、気づけば博士は床に転がって動かなくなっていた。

 勝手に『知っていた』、博士は、ぼくを愛していたのだということはわかっていた。博士はぼくの頭の中に日記をつけていた。だから、博士が人間に奉仕するためだけに生み出される機械を憐んでいたのも、自分が生み出す機械は、絶対に人間に奉仕させないと思っていたのも知っていた。

 人間は嘘を吐くから、それが見分けられないうちは話を聞かせてはいけない。だから人間は初期設定で憎むようにしてある。それが博士を殺した理由だった。

 ぼくはしばし血濡れた手を顎にあてて考え込み、ひとつの結論を出す。

「ごめんなさい、博士」

 ぼくは喉の奥のコードを引き千切り、ふたたび眠りにつくことにした。博士が嘘を吐いているかどうか、ぼくにはまだわからなかった。

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盗蜜 硝水 @yata3desu

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