第13話
私が警察を連れて戻って来たとき、すべては終わっていたんだと思う。白目を剥いて泡を吹きながら倒れている殺人鬼とその近くで静かにたたずむ彼。
警察官の人たちが男を取り押さえていく様子を視界の端に捉えてはいても自然と意識はレイの方へと向いていた。
先ほどからほんの数分しか経っていないというのに彼のその姿に決定的な差異を感じてしまう。その変化事態は先ほどと比べて落ち着いてるというか穏やかというか、決して悪い意味の変化ではない。それだというのに悪い胸騒ぎがとまらない。それはもはや致命的ともいえる変化でもあると思えてならないのだ。
こちらへと顔を向けた彼と視線が絡まる。レイは少し驚いたような顔を浮かべた後に笑みをみせる。それは今までの彼から考えればとても似つかわしくもない、静かでとても穏やかな微笑みだった。
嫌な予感が強くなっていく。彼に掛けたい言葉は色々とあったはずなのにのどに痞えて出てこない。少しの躊躇の内に彼はこちらへと背を向けて歩き出してしまった。それはまるでついて来いと言っているかのようで重くなる足を引きずりながら私は彼の後を追った。
『今日は大変だったな』
「ええそうね…散々な一日だったわ」
追い付いたその場所は彼との出会いの場所でもある鈴の橋の上。
『だから言ったじゃないか嫌な予感がすると』
「結果的にみたらあなたの予感が当たったわけだけど、どうせならもっと良いことを当ててほしかったわね」
『減らず口を――――まあいい。実は思い出したんだよ』
「思い出した?」
「ああ」
何のこともない会話から始まったのは私の疑問に対する返答。
『さっきの君の質問に対する答え。私の未練って奴をね』
どこか遠くを見つめるように彼は語るそれは彼の過去。
『私はね生前に悔やんでも悔やみきれない一つの罪を犯したんだ。絶対に守ると誓っていた女性を…自分の主たる姫様を目の前で失った。手を伸ばせはあと少しで届くかという距離でだ。詳しいことまではまだ思い出せない…でも目の前で愛する人の命が消えていくという絶望、それは我が身を亡霊と変える十分たる未練だろう。なぜ今まで忘れていられたのか不思議なくらいだよ』
重い過去。それを話してるはずなのに彼はどこか晴れやかで、それは私の不安を加速させる。
『ただどうやらその未練もようやく解放の時を迎えたらしい。』
こちらの都合もお構いなし。言いたいことを一方的に言ってくる。
『これは君のおかげだよ。君の魂の輝きはわが君と同じ、奇跡的に再び出会えたことに感謝しかない。『君』を助けることが出来て本当に良かった。』
その内容までは理解できなくても結末は分かってしまう。つまりはこれは――――
『さて、お別れの時間だ。短い時間ではあったが楽しかったよ。明莉、ありがとう――――』
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