第14話エピローグ
あの日、彼がまるで空気に溶け込むかのように消えてしまったあの時からおよそ一か月ほどが経っていた。
あの後の私は警察からの事情聴取などに追われてしまい、心の整理をする暇もなく時間だけが経ってしまった。唐突に表れて消える時も唐突で、彼とのあの時間は私が見た夢だったのではないかと思うこともあった。でも今も私の首に掛かっているネックレスがあの日々が確かに現実だったのだという何よりの証拠だ。
落ち着いた今だからこそ、このネックレスを見るたびに色々な思いが込み上げてくる。怒り、困惑、動揺、ほんの短期間だったというのにこの胸に満ちる喪失感は何なのだろう。
「それでまたここに来ちゃうわけか…馬鹿ねわたし」
自然と毎日足を向けてしまうのは彼と出会い別れたあの橋の上。
かれこれ一週間以上そろそろけじめをつけるべきなのだろう。首元からネックレスを外して一度見つめる。
「さようなら」
自分の心にけじめをつけるために静かに川へとネックレスを投げ入れる。消えていく瞬間は見ていられなくて思わず目を瞑ってしまう――――ただ耳だけは澄まして。
聞こえるはずの水の音――――そのはずなのにいくら待っても聞こえてこない。
その代わりに聞こえてきたのは――――
『おいおい、なんてことをしてくれるんだ』
聞きたいと願っても叶うことはないと思っていた彼の声。
『これは私にとってかなり大切なものだと言っただろうが―――全くきみは』
幻聴かと疑ってしまうけど、続けられる言葉は確かに現実で。ゆっくりと開いた私の目に確かに彼の姿が映った。
言いたいことは山のようにあったのだけど今はもうそれどころではなくて。あふれ出そうになる涙を堪えて平然を装う。だってレイの態度はいなくなる前とちっとも変らない、私だけ動揺するなんて悔しいから。
「あらレイまだいたの? ようやく消えたと思ってたのに残念ね」
ホントの気持ちは胸に隠して私たちらしく軽口で返そう。
――――――おかえりなさいレイ。またあえて本当に良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます