第8話
「あっおはよー」
「おはよう」
「おはよう」
何とか時間に間に合った私はクラスメイトと挨拶を交わして自分の席へとつく。
「おはよう明莉ーっ!」
「おはよう。遅かったじゃないどうかしたの?」
「ちょっと家を出るのが遅くなっちゃって。おはよう二人とも」
席についた私に由香と英梨が近づいてきた。いつもハイテンションな由香がなにやらウズウズした様子で私を見てくる。
「何かあったの?」
「よくぞ聞いてくれました! 明莉ももう知ってるかもしれないけど例の連続殺人犯が近くに来てるかも知れないんだって!」
それは奇しくも今朝見た例のニュースの話だった。いや大事件がすぐ近くで起きたのだ逆に当然かもしれない。耳を澄ましてみればあちらこちらでその話題が上がってるのに気づく。
「今朝、ニュースでみたわ。怖いわよね、早く捕まってくれたら良いのに」
「本当にそうよね。私も両親から注意を受けたわ。なるべく一人では歩かないようにって」
「明莉なんて特に美人さんなんだから気をつけないとっ!」
「それは貴方達も一緒でしょ?」
今一番ホットな話題、話をしているうちに不安が大きくなってくる。少し鈍よりした雰囲気が漂う中、その空気を打ち切るようにパンパンと手が打ちならされる。
「みんな席についてーーホームルームを始めるわよ」
いつの間にかやって来ていた担任の陽子先生の声に皆が自分の席へと戻って行く。またね、と一言残して二人も自分の席へと戻って行く。
ホームルームの伝達事項を聞きながら小さくため息をつく。
『どうしたため息なんてついて、やはり君も例の事件が心配になってきたのか?』
「いえ、大丈夫よ。黙ってて」
目敏く気づいたレイに声を掛けられるが即座に否定して黙らせる。こんな場所で彼と会話することは出来ない。
ーーーそれにと今度はバレないように心のうちで溜め息をつく。
自然と朝に彼から貰ってたネックレスへと手が向かう。今は目立たないように隠して身に付けているそれを弄りながら考える。
彼の言うとおりに事件に関して不安が大きくなっているのは確かだ。でも私が溜め息をつきたくなっている真の理由はそれではない。
表に出さないように気を付けながら内心で叫ぶーーー
不覚、不覚不覚不覚不覚不覚っ! あり得ない、あり得ないあり得ない、よりにもよって彼にときめくなんてあり得ない!?
そうそれは、一瞬の心の迷いと言えどレイに胸をときめかせてしまったことに対する混乱だった。
レイよ、あのレイなのよ! ふざけた様子でナンパの真似事なんかして、私をからかうような真似ばっかしてくるお調子者! そんな奴なのに、それを私は知っている筈なのにっ何でーーーっ
彼を否定する文言を呟けど呟けど先程見た彼の笑顔が忘れられない。私を守ると言った言葉も合わせて顔が熱くなる。気を抜けば、『でも今までも守ってくれていた』などと考えてしまうことが嫌だった。
分かってる、でも認めたくない。
感情の堂々巡りそんな混乱が止まることなく心のうちを満たしていた。
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