第6話

「ふあ~おはよう」


「おはよう」

「おはよう明莉」


明くる朝、朝起きて二階の自分の部屋からダイニングまで下りた私は両親へと挨拶をする。二人ともすでに朝の身支度を整えて食卓へと座っている。


今だ寝間着姿なのは私だけ。娘の私が言うのもなんだけど普段の生活からして完璧すぎる私の両親だ。


「朝ごはんの準備は出来てるわ。早く顔を洗ってきて、朝食にしましょう?」

「はーい」


ただ娘の私に対しては厳しすぎるわけでなく優しい両親なので自慢だし尊敬もしている。


―――ただひとつの事を除いては。


『なんだ寝坊でもしたのか? 髪が酷いことになってるぞ?』


当たり前のようにテーブルの空いてる場所へと位置取り無神経な言葉を吐いてくるのは幽霊のレイ。


両親の目に彼の姿は写っておらず、存在事態に気づいていない。目撃例などもあったはずの彼なのにその姿が分かるのは家族の中じゃ私だけ。


こんな自己主張の強い幽霊に何故気づいていないのか?


それより何故私だけがそうなのか?


家系的に霊感が強いとかいうならば諦めがついただろうに純粋に私だけが例外なんて納得がいかない。


「どうした? 目を険しくして」

「ううん、何でもない」


ただ言っても見えない両親には理解できないと思うので口に出す気にもなれないのだけど。


身支度を終えて食卓へと戻ってくる。両親の向かい側、自分の指定席へと座り『いただきます』手を合わせてから朝食へと手を伸ばす。


うん、おいしい。やっぱり母は料理上手だ。一応たまに花嫁修行と称して色々と教えて貰ってはいるのだけどなかなか母のようにうまくいかない。


『次のニュースです―――』


美味しい朝ごはんに舌鼓を打っていた私の耳に届いてきたのはテレビのニュースの声。自然と視線はテレビへと向かう。


『―――昨日未明に見つかった身元不明の女性の遺体は状況からここ最近に頻発している連続殺人事件と酷似しており、警察は同一犯として行方を追っております。場所は‐――』


それはここ最近騒がれている連続殺人事件についてのニュースだった。どの事件も若い女性や子供を狙ったもので今回のものですでに10人以上の人達が被害にあっている。滅多にない凶悪事件ということで警察も血眼になって探しているようなのだけど、目撃例もなく今だ手懸かりすら見つかって居ないようだ。


「怖いわね…」

「そうだな。場所も今度の事件はそれほど遠くない場所じゃないか。明莉、十分に気を付けるんだぞ。」

「そうね、なんなら送り向かいをしましょうか?」


両親もニュースに聞き入っていたようだ。最初こそ遠く離れた場所で起きた事件だったのだが今回はどうやら隣の県で起きた事件らしい。不安そうな表情になった母が私を気遣って送り向かいをしてくれると言って来てくれたけど両親は共働き、必要以上に迷惑をかけることは憚れる。


「いえ、大丈夫よお母さん。なるべく人通りの多い場所を歩くようにするから安心して。それにまだ犯人がこっちにくると決まった訳じゃないわ」


「…お前がそういうなら良いが、不安になったならいつでも言うんだぞ」

「そうよ、それくらいのことなんてお母さん達には何の苦にもならないわ」


「ありがとう、その時はお願いするから」


未だに心配そうな顔の両親を安心させるように頷いてみせる。大丈夫、まだそんな不安はない。先ほども言った通りにまだ犯人が来ると決まった訳ではない。しかも狙われているのは人気のない場所のようなので人通りの多い道を選べば危険はないだろう。


「あれ、もうこんな時間? そろそろ行かないと!」


ふと時計をみればいつも学校へと向かう時間を大きく過ぎてしまっている。あわてて席を立つ。


「行ってきます!」


「いってらっしゃい」

「きをつけていくんだぞ」


両親に声をかけて家を飛び出す。早足で行けば何とか間に合うか…ちょっと微妙なところだった。



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