第5話
あの夕暮れの出逢いからはや一月、彼は今も私の近くにいる。
「そもそも何で私に付きまとうのよ。貴方はあの橋の幽霊なんでしょ?」
あの後にもう一度『噂』について調べてみたのだけど、幽霊が出るというのはあの橋限定のことでその後まで付きまとわれたという話は聞かない。
それなのに何故か彼はずっと私の側にいて離れない。嫌な予感にかられて今まで聞けなかった質問を思いきって聞いてみる。
『私としてもよく分からないのだよ。前まではあの橋から長く離れることは出来なかったのだが今は出来る。ーーーと言うよりは前まではあの橋が起点だったのが君とい人間に変わったというのが性格かな』
「ーーー待って! それってつまりは…」
『うむ、有り体に言えば君に取り憑いたということだな』
薄々勘づいてはいた。だからこそ聞くのを躊躇っていたのだけど、世の中はこうも無情なのか。
「な、何で私なのよ」
『君が私の声を聞いて話しかけた。それが切っ掛けであるのは間違いないだろうな』
そうだろうとは思っていた。だからこの質問は悪あがきでしかない。ある意味では自業自得、頭で納得出来ても感情はそんな簡単にはいかない。
『どうしたそんなに落ち込んで?』
分かってるくせに、という悪態が漏れそうになるけどなんとか飲み込む。
今決めた一刻も早く除霊の方法を探そう、心の内で強く誓う。
『そんな簡単にはいかないと思うがな』
「うるさい!勝手に人の心を読まないで!」
にやにや笑いを浮かべ人の心を読んだような発言をするコイツはやはり凄く性格が悪いと思う。
『そう怒るな。役に立ってることもあるだろう? 君のボディーガードとしては悪くないと思わないか?』
「まあ…それに関しては感謝しなくもないけど…」
『そうだろう、なんと言っても私は紳士だからね』
自慢げな言い種が少しイラッと来るけど彼の言うことも間違ってはいない。彼が来てからこの一ヶ月の間は昔であれば自分で何とかしていた言い寄ってくるバカや変態達を私が手を出さずとも先に彼が追い払ってくれていた。
ただし、たまに彼自身が面白半分にナンパの真似をしてくることもあるのだけど。
「ボディーガードを自称するならさっきみたいな悪戯は止めてくれる?」
『少しのお茶目じゃないか』
「貴方がナンパなんてしてきたら結局意味がないでしょ!レイ」
『そうか?』
私の言葉にも全く悪びれる様子がない。やはりプラスマイナスでいうならマイナスじゃないかと思うのだ。
『それはさておき。その私の呼びかたはどうにかならないのかね?』
話題をすり替えるようにさも深刻そうな顔つきでなにやら質問を投げてきた。ただその質問の意図がよく分からない。
私が彼を呼ぶときの呼び名は『幽霊』からとって『レイ』と呼ぶようにしている。安直と言えばそれまでだけど、それに何か問題があるだろうか。
「何か問題がある? ユーレイだからレイ。分かりやすくて良いじゃない」
『問題大有りだ! 私は最初にちゃんと名乗っただろう。私の名前はファントムだと!』
………うん。ようやく彼が、レイが何を言いたいかは理解できた。つまり彼は最初に名乗った名前で呼ばれないことに文句を言っているのだろう。
理解はした…でもなあ、ちょっとその呼び名はどうかとも思う。
『ファントム』つまりは亡霊、なんというか…『中二病』くさいのだ。正直に言ってしまって口に出すのも恥ずかしい。お前はどこの中二病患者かと。
明らかに本名の筈もなく偽名、良い年齢の男性が名乗るにはちょっとどうなのだろう。
まだ似たような意味合いではあるけど『幽霊のレイ』の方がマシだと思う。
「だめ、もう決めたの貴方の呼び名はレイで決定」
『何故に!』
説明するのも気恥ずかしくここはお茶を濁すので十分。私はそう結論付けたのだった。
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