第4話

先ほどとは別の意味で頭の中が真っ白になった。目の前の状況が理解できない。何故、人が空に浮かんでいるのだろう。あり得ないはずの事が今まさに目の前で起きている。まさか先ほどのショックで私はおかしくなってしまったのだろうか?


考えれば考えるほどに混乱が深まっていく。


『…やっぱり聴こえる筈もないか。姿くらいなら見える人もいるのにな』

「な、何なの貴方は?」

『!?』


空中に浮いたままガクッと肩を落として背を見せたその人の呟きについ声をかけてしまった。


『もしかして私に声をかけたのかっ君!!』


ぐるんっという音が聞こえてくるんじゃないかという勢いで振り向いた男性が凄い勢いで私へと迫ってくる。それこそ顔面で正面衝突するんじゃないかというほどだ。


(近いっ顔が近い!! あっでもかなりの美形…ってそういうことじゃなくて!)


「近づき過ぎよ!離れて」

『おっとすまない。ちょっと興奮し過ぎたようだ』


内心で悲鳴をあげながら言葉と共に前へと手をつき出す。かなり近くに居たはずなのに手が当たった感触はない、何でだろう。

それはさておきようやく距離を取れたことで息をつく。今だにドキドキが止まらない…勿論、恋などではないけど。でも意外と好みの美形だと思ったのは胸のうちに秘めておこう。


『すまんな。この場所に来てからかなりの長い時間がたったが、ようやく待っていた『視える』だけでなく『聴こえる』相手に出会えたので我を忘れてしまったようだ』


男性が頭を下げながら謝罪をしてくる。その言葉に引っ掛かりを感じて…私はようやくある可能性に思い至る。


(待って…この場所で、美形のしかも宙に浮いている人間って言ったら…まさか噂の!)


今までは混乱のあまりにろくに頭が回らずに考えられなかったのだけどようやく落ち着いたことで散らばっていた情報の断片が符号を見せる。


それはつまり…今話しているこの相手はーーー


『そういえばまだ名乗って無かったね。私の名前はファントム。見てお分かりかと思うが幽霊だよ』


一瞬、卒倒してしまいそうになる。嬉しくなどないが私の予想が当たってしまったことがこの時確定した。

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