第3話
「じゃあまた明日ね。」
「くれぐれも幽霊には気を付けてね」
「まだ言ってるの? 幽霊は別として気を付けてね。また明日学校で会いましょう」
学園からの帰り道この交差点で二人とはお別れだ。引きづられるように連れて行かれる由香に苦笑しながら手を軽く振って帰り道を急ぐ。
もう季節は秋、段々と夕暮れが早くなって来ていた。
普段は部活があるためにもっと遅い。そのために辺りが暗くなってから帰る事が多かったのだけど、今日は滅多にないお休み。夕暮れを見ながら帰るのは久々だ。
そう今、目の前にあるのはさっきの噂話で出てきた橋。そしてまさに夕暮れ時だった。
あの噂話を信じた訳じゃないけど、話を聞いて直ぐに噂の場所を通るとなるとどこか不安な気持ちが出てくる。
「幽霊なんているハズがないじゃない…気にするなんてバカらしい」
強気に口に出してみるけどやはり不安は拭えない。あんな話を今日のタイミングでしてくれた結花には後で文句を言ってやろうか。でも不安になったなんて素直に伝えたならからかわれるのは間違いないないし、さてどんな方法で仕返しをしてやろうか。これは少し悩み所だ。
「ふふ、明日が少し楽しみになるかも」
馬鹿な事を考えていたら少し気分が晴れた。さっさと通りすぎてしまおう。
足早に歩いて噂の橋へと到着する。ふと先を見ると橋の真ん中に人影がーーー。
「幽霊?…ってそんなわけないわよね。」
一瞬ドキッとしてしまったけどまさか本当に幽霊がでるわけもない。その証拠に橋に立つその人はちゃんと2本の足があるようだ。
「男の人みたいだけど…なにあの格好? コスプレかなにかかしら」
よく観察してみると幽霊ではないようだけど、かと言って普通ではない。多分私より歳上の男の人であろうその人はとても変な…いえ訂正、とても個性的な格好をしていた。そうあれは歴史の教科書とかでみたことのある中世頃の騎士の姿に似ている。
騎士などとは言ったけど武器みたいなものは流石にもっていないようだ。何にせよ怪しすぎる。ここは無視して通りすぎた方が良さそうだ。
その男の人は橋の真ん中辺りの端に立ち下を流れる川を眺めているようだ。後ろを通れば気付かれないかもしれない。
極力その男の人を見ないようにしながら橋を渡る。一瞬私の方に視線を向けてきた時には少し焦った。でもそれは一瞬のことでまた川へと視線を戻す。
「はぁ~」
こちらにも聞こえてくる程のため息をついていて何だか元気が無さそうだ。
とは言え見知らぬ人が落ち込んでいるからと言って声をかける程のお節介では私はない。悪いけど無視させて貰おう。
後ろを通りすぎて橋を渡りきる。すれ違う瞬間に絡まれるなんて事もなくほっとする。
だがその場でふと少し振り返ったその瞬間ーーー
「え? ちょっと!」
私は驚きで固まってしまう。なぜなら先ほどの男の人が橋の手すりへと登っていたからだ。今にも川へと飛び込もうとするかのようなその姿に私は混乱する。
「え、待ってまさか自殺?」
橋の下を通る川は昨日大雨が降ったこともあり水嵩が増加している。それにそうでなくともあの川は流れが早く人が溺れる程の深さがある。しかもあんな甲冑を着こんでいればそうなることは必須だろう。それが分からない訳がない。となるとやはり自殺?
「待って! 早まらないで!」
慌てて私は男の人の方へと駆け寄る。なるべく関わらないようにしたかったけどこうなってしまえば話は別だ。無関係の人間とはいえそこまで私は白状ではない。目の前で死のうなんてしている人間が居れば止めに入る。それは人間として当然のことだと思う。
「そんな!間に合わない?」
男性へと手を伸ばすーーが。私がその場所へと到着した時には男性の体は橋の外へと飛び出していた。手が虚しく空を切る。
勢いよく走って来たことで体勢を崩してしまい橋の手すりへと抱きつく形で倒れてしまった。
頭が真っ白になり、血の気が引いていくのがわかる。間に合わなかった、それによる結末を想像して思わず目を瞑る。
しかし、待てど待てど川へと落ちる音は聞こえてこない。恐る恐る目をあけて川を覗きこんだーーーその時。
『君、大丈夫かい。ずいぶんと真っ青な顔をしているけど…どうしたんだい?』
聞こえてきたのは男性の声。間近でかけられたと思うその声は予想外の方向から聞こえてきていた。
「え…嘘でしょ…」
顔を頭上の方へと向ける。橋の外、川の上の上空に先ほどの男性が浮かんでいた。
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