記憶1

 *****5年前*****


 森の妖鬼ゴブリンたちに拘束された俺たちは、7日近く森の妖鬼ゴブリンの巣に捉えられていた。手作り感満載の、だけど破壊できないほど強固な牢屋のような場所に、1人1人が鎖に繋がれていた。どうやら捉えられたのは俺たちのパーティだけではないようだった。


 捉えられた場所には男な人しかおらず、女の人は別のどこかに連れて行かれているようだった。巣に連れてこられた時一度だけ見えたのだが、醜悪な妖鬼ホブ・ゴブリンなどもいたので、その時点で抵抗は無意味だと絶望した。


 7日間の間に、捉えられた男たちの顔ぶれはかなり入れ替わってしまっていて、俺とカイトとホダカは古参となりつつあった。ところで、じゃあ他の人たちはどこに行ったかというと、森の小鬼レッサー・ゴブリンたちの戦闘訓練の相手として連れて行かれていた。


 戦闘訓練と言っても、俺たち人間側に渡されるのは殺傷能力が皆無の木剣(しかも、形だけ剣なだけで刃の部分は布が被せられている物)で、防具は無しだ。対して森の小鬼レッサー・ゴブリンは革や鉄の防具を付けていて、なにより剣が鉄で出来ていて刃引きのされていない物なので、まともに打ち合いをすると、木剣などものの数打で叩き折られてしまう。


 それでもこちらも何度か森の小鬼レッサー・ゴブリンに勝ち、殺すことが出来たのだが、森の小鬼レッサー・ゴブリンを殺すと武器を装備した森の妖鬼ゴブリンたちが複数匹で囲み、リンチのように棍棒で何度も打ち付け、弱ったところで新たな森の小鬼レッサー・ゴブリンと再度戦闘を開始されるという、絶対に人間側は生き残れないシステムになっていた。


 俺たち人間側に残された道は、森の小鬼レッサー・ゴブリンを殺さずに戦闘に勝ち続けることだけだった。


 毎日の食事は、1日に1回何の肉か分からない血だらけの生肉を、地面に投げ捨てられるので、それを牢屋の仲間と分け合って食べるといったものだ。


 最初のうちは生肉を齧る感触に嗚咽が出て食べることが出来なかったが、周りが皆食べているということと慣れなのか、3日目くらいには、なんとか食べることができるようになっていた。生肉を持ってきた森の妖鬼ゴブリンたちは、俺たちが生肉を食べているのを見てゲヒゲヒと毎回笑っているが、何がそんなに面白いことがあるのか正直わからない。


 牢屋の中でほとんど動くこともできずに、毎日1食の生肉。残りの時間は、いつ自分の番が来るのかという不安と闘いながら、森の小鬼レッサー・ゴブリンたちの戦闘訓練を見続ける日々。


 7日目で俺たちの精神はだいぶ壊れてきていた。

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