戦友
——ギィィ……チリンチリンッ。
朝の少しだけ濡れたような空気と、外に降る少しの灰と共に武具店を訪れたのは、歴戦の戦士を思わせる重鎧を身に纏った男だった。
歩くたびにガシャガシャと音を立てる重鎧を着た男は、商品を一瞥すらすることなく、真っ直ぐにカウンターへ向かう。男は椅子に腰掛け、背を向けて作業をする片腕の男にぶっきらぼうに言い放った。
「久しぶり」
片腕の男は作業を中断させて、重鎧の男に向き直る。
「久しぶり。元気そうで」
「そっちこそ。ところで、例の話は考えてくれた?」
「あぁ。……悪いけどクランに入るつもりはないかな」
片腕の男は、ふぅっと一息ついて、近くに置いてあった水袋に口をつけ、一口だけ飲み込む。
「そうか。また誘いにくるよ。気が変わったらいつでも入ってくれカナタ」
「ホダカが誘ってくれるのは……」
カナタは切断された左肘の先を少しだけ摩って、その先に続けようとした言葉を飲み込む。
「……いや、なんでもない。次はクランじゃなくて食事にでも誘いにきてくれ」
「そうだね。あのときの約束も守ってもらわなきゃいけないしね」
ホダカは幾度となくカナタに見せたいたずらめいた顔でそう言った。
*****夕方*****
俺は外の看板をcloseにし扉の鍵をかけ、いつもより少しだけ早いが今日の営業を終了させる。
その足で、道中にある花屋に立ち寄り花束を見繕ってもらい、右腕に3つとも抱えてまた歩き出す。
鮮やかな色をした花も、しばらく歩き続けると灰を被り始める。だけどこの街では、そんな事は日常の一部と化しているので、誰も気にする者などいない。俺もその1人だ。
しばらく歩き続けると、目的地に到着する。そこは、高台になっていて、この街では珍しく灰のかからない場所の1つだった。
カイト、ユメ、リナセの3人の墓の前に花束を添える。
墓と言っても、死者は全て
ほとんど生きる者の心の落とし所として作られた墓に、俺は話しかける。
「あれから5年だよ」
俺は5年前のあの時のことを思い出す。
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