森の妖鬼
「今日もまた
ホダカは朝ごはんを食べながら提案する。
「わかった」
「うん、俺もそれでいいよ」
「ウチもええよぉ」
「私も」
全員同意したので、今日の行き先も
「昨日ギルドで聞いたんだけど、闇の軍勢が勢力を拡大してる関係で
ホダカが昨日ギルドで情報をもらってきてくれていたらしい。
「俺たちだとゴブリンなんて、遭遇しただけで全滅しそうだな」
「ウチもそう思う」
俺の言葉に意外にも反応したのはユメだった。だけどユメの顔を見ることができないのは、さすがに今朝のことを忘れるには時間が浅すぎたためだろう。
「装備の調整が終わってるなら、日の昇り切らないうちに出発したいんだけど」
「大丈夫だ」
「ウチも」
「うん、私も」
「もちろん俺も大丈夫」
ホダカは満足そうに頷き言った。
「よし、じゃあ片付けたら行こうか」
*****
今日も狙いは
「昨日は3匹に苦戦したんだ。2匹以下のハグレを探そう」
ホダカの指示を受けて、俺は皆より先行して索敵を始める。
微かな足跡や、休憩の跡を見落とさないように慎重に行動する。
しばらく索敵をしていると、ひとつの痕跡を発見した。
「足跡は2つ……座り込んだ形跡もあり。休憩してたのか」
ここで判断を間違えると一気に仲間を、そして自分の命も危険に晒してしまうことになる。俺は1つずつ慎重に痕跡を調べていく。
ある程度の予測を立てたあと、後方から進んできているホダカたちと合流し、痕跡を見つけたことを伝える。
「2匹ならいけると思う。なるべくこっちが奇襲をかけれるように動こう」
合意も得られたので俺は2つの痕跡を慎重に追っていく。すると痕跡は1つの廃屋までつながっていた。
屋内ではホダカの鎧の音が目立ってしまうため、ホダカは列の最後尾に、俺とユメが先行して、カイトとリナセが中間から支援する形になった。
「くそ。痕跡が分かれてる」
「どうする?」
「ユメは左、俺は右を。多分右が寝床だと思うから、確認して何もいなかったらこっちにきて」
ここを拠点にしているのか、つきあたりから痕跡がバラバラに分かれていたので、左右に分かれることにする。
「じゃあ、僕はユメについていこう。2人はカナタのフォローを」
ホダカとユメが左側を担当することになった。
「じゃあ行くよ」
右側は俺の後ろからカイトとリナセが付いてくる。
1つずつ部屋を調べていく。手前の部屋には食事をした残骸のような物や、用を足すための部屋だけで、戸を開けただけで気分が悪くなるような強烈な臭いが鼻を刺す。
「ここが最後の部屋だ。ゆっくり行こう」
俺はそう言うと音が出ないように戸を開く。
そこに居たのは予想通り
俺は短剣を
カイトは念入りに何度かロッドを振り下ろし、
俺も残心を忘れずに、確実に死んでいることを確認する。ズブズブと生きた肉に刃物を突き刺す感覚には、まだ当分慣れそうもなかった。
討伐証明となる部位を切り取り、2匹の持ち物で売れそうなものがないか漁っていると、俺が殺した方から銀貨5枚と銅貨2枚が見つかった。
「盗賊みたいだな」
「自分たちで選んだ生き方だろ」
俺の呟きにカイトが反応する。多分だけど、俺はカイトのことが……というか、言い方が苦手だと思う。
「お金は、多い方が、良い」
リナセもカイト寄りの意見なのか。俺の考え方が変なのかな。
「カナタ。こっちは何もなかったよ」
そうこうしているうちに、反対側の索敵が終わったようで、ホダカが声をかけてくる。
「あぁ、ホダカ。こっちは予想通り2匹だった。それとこれ」
俺は
「ラッキーだね。皆まだいけそうなら、もう少し探索しようと思うんだけど」
ホダカは1人1人の顔を見ながら可否を求めた。そして俺を含む4人は、もちろん否定する要素も無いので、ホダカの意見に賛同を示す。
「よし。じゃあ探索を再開しよう」
廃屋を出るとすぐ、都合よくというか運良くというか、追ってきた痕跡と別の痕跡を見つける。
「ホダカ。多分次も2匹だ」
「……慎重に行こう。レッサー・ゴブリンが2匹ならそのまま討伐で」
俺は頷くと、痕跡を追っていく。
追っていくと少しだけ違和感を感じる。言葉には出来ないけど、なんとなくおかしい……何か胸の辺りがざわざわとするような。
「ホダカ。うまく言えないんだけど、この痕跡は追ったらダメな気がする」
「今更何言ってんだカナタ。レッサー・ゴブリン以外だったのか?」
ホダカに言ったのだが、答えたのはカイトだった。やっぱり苦手だ。
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
俺が言い淀んでいると。
「どうしてもやめた方が良いと思うならひき返そう。ゴブリンの目撃証言もあることだし」
ホダカが助け舟を出してくれた。だけど、どうしてもやめたいかと聞かれるとそうでもないくらいの違和感しかないので、俺は強く出ることができなかった。
「行こうホダカ。ヤバかったらひき返せばいい」
「ユメもカイトに賛成かなぁ」
「あの、わ、私も」
どうやらパーティの意見はこのまま進む方に決まったみたいなので、これ以上は何も言えない。
「……わかったよ。そのかわり、やばくなったらすぐひき返そう」
俺はそれだけ言うと痕跡の追跡を再開する。
痕跡は、良く言うと素人の俺の目にも簡単に追跡できるくらい簡単な、だけど知識がない人からすると見えないようなものだった。悪く言うとあからさますぎるというか、まるで追ってくださいと言わんばかりの痕跡ばかりが残されていた。
1つずつ辿っていくと、俺は自分の違和感の正体に気づく。
「……これ、まるで」
さっき辿ってきた痕跡とまるで同じだ。そう言おうと振り返った時だった。
——ッカカカ!!
俺の顔を矢尻が掠める。今振り返っていなかったら、おそらく後頭部に突き刺さっていただろう。
「うわっ!!」
「カナタ!カイトがやられた!」
死んでいたかもしれないという恐怖から声を上げると同時に、少し離れたところからホダカがそう叫ぶ。
俺は急いで合流しようとするが、立ち塞がるように2匹の
その様相は、まるで思惑通りに獲物が動いたことを喜ぶかのようだった。
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