傷2

 4人で食事を摂り終えた後、ホダカに誘われて2人で庭に行くことになった。


 夜風が心地よく、目を閉じればこのまま数時間でも居てしまえそうな気すらした。大きく深呼吸をし、なるべくこの心地よさを感じようとしていると、ホダカは話し始める。


「なぁ、カナタ」

「ん?」

「僕、ちゃんとリーダーやれてるかな」


 なんだよ唐突に。そう言おうとして踏みとどまる。


 もちろんホダカがリーダーをすることに不満があるとかそういうことじゃない。自分がホダカの大変さ、プレッシャーを理解できていなかったことに、今気づいたからだ。


「ホダカじゃなきゃダメだったと思うよ」


 俺は思ったことをそのまま伝える。


「ホダカがさ……ホダカがあの時誘ってくれてなかったら、多分誰とも組むことも出来ずに、それか組めたとしても今みたいにうまく出来てなかったと思うんだ」


 ホダカは無言で聞き続ける。


「うまく言えないんだけど、もしこれからホダカが不安に思ったり、うまくいかないことがあったら、またここで話そうよ。俺でよければいつでも相手になるから」


「……らしくないな」


 ホダカがボソッと何か言ったが聞き取れなくて、俺は聞き返す。


「何か言った?」


 すると、ホダカはいつものようにニコッと笑ってこう言った。


「カナタらしくないって言ったんだよ!」

「なんだよそれ!せっかく慰めてやってんのに」


「……ありがとう」


 これは聞き取ることができた。だけど俺はうまく返せる自信がなくて、咄嗟に言った。


「そっちこそ……らしくないじゃん」


 夜風が段々と冷たく感じるようになってきた。


「そろそろ戻ろっか」

「そうだね。カナタ……明日も頑張ろう」


 俺は「あぁ」と返して、部屋へと戻った。


 初めて生き物を殺した感触が、まだ手にはっきりと残っていたけど、今日は何故かいつもより寝つきはよかった。


 *****翌日*****


 カンッ……カカンッ。


 外からの小気味良い音で目が覚める。日はまだ上がりきっていなくて、まだ少し明け方の寒さが残っている。


 窓……と言えるほど立派なものでもないが、申し訳程度に木の小扉で塞がれた隙間から、小気味良い音が聞こえ続けていた。


 ギィィと音を立てて扉を開け、窓から外を見る。


「うぅ。さむっ」


 季節が変わろうとしているのか、日に日に朝が冷たくなってきている気がする。


「カナタか。おはよう」

「あぁ、カイトだったんだ。おはよう」


 カイトは庭に備え付けられた簡易的な木人形を模擬戦用のロッドで打ち付けて型の確認をしていたみたいだった。


「すぐ朝ごはん作るから、しばらくしたら食堂集合で」

「あぁ」


 カイトはそれだけ言うと、また木人形に向き合って稽古を始める。


 朝ごはんだけはミーティングがてら皆で食べようと言う取り決めのもと、調理は当番制ですることになってる。


 今日は俺の調理当番だったので、急いで食堂に向かう。


「っと。あ、おはよう」

「ん、おはよう」


 俺より早く食堂にいたのはユメだった。


「えっと、まだ起きたばっかで何にも使ってないんだけど」

「ん、知ってる。ちょっと手伝おうかなぁって」

「あぁ。ありがとう」


 まだ少しユメとの会話は辿々しい。


「あんま気にしないでなぁ」


 ユメは唐突にそう言い出す。いや、もしかするとそれを言う為に食堂に居たのかもしれない。


「えっと、気にしないでって……」

「昨日のことや。傷もほとんどないなったからなぁ」


 そんなに早く傷って治るものなのか?俺に気にさせないために言ってるだけなんじゃ。そんなことを思っていると。


「ん、ほら。みてみぃ?」


 ユメは急に上着を脱いで、タンクトップタイプの肌着の肩部分を両方ともずらす。簡単に言うとユメは上半身裸の半裸状態になっていた。後ろを向いてはいるけど、同じ空間で2人きりで半裸になってる女の子を前に俺は動揺を隠すので精一杯だった。


 ユメの言う通り肩甲骨の下辺りにあるはずの傷は痕すら無く綺麗な女の子の肌だけがそこにあった。


「わかったから、早く服着な!」

「わかったならええんよ」


 そう言うとユメは服を着なおしながら続ける。


「あの後カイトが部屋に来てなぁ、治るまでヒールしてくれたんよ。だからカナタは気にしなくてええんよ」


 だから気にしなくていいというのもおかしな話だが、とにかくユメなりに気にしなくていいと伝えたかったのだろう。


「わかったよ。昨日はありがとうユメ」

「そう。それでええ。仲間やからなぁ」


 少し恥ずかしそうにこっちを向きながら仲間だからと言うユメに「そうだね」と返すと、「じゃ」と言って食堂からユメは出て行ってしまった。


「あ、手伝い……まぁ、いっか」


 俺は急いで朝ごはんの準備を始める。ユメのおかげなのか、不思議と体が軽くなったような気がした。

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