傷1
「え。ユメ?」
初めての探索だ。初めての戦闘だ。皆、気をつけていた。
なんで?
「カナタ!応急処置!」
「……ホダカ。ユメが」
「分かってる!早く!」
ホダカの言葉が頭に入ってこない。
気づいたら全員でユメを取り囲むようにしゃがみ込んでいた。
「リナセ、周囲の安全確認!敵がきたら教えて。カナタ、ユメに刺さってるダガーを抜くんだ。すぐに僕が止血するから。その後すぐにカイトは回復魔法を頼む」
ユメの息が浅くなっていく。
「カナタ!カナタ!!早くして!ユメが死んでしまう!!」
俺はホダカの言うとおりにユメに刺さっているダガーの柄を両手で掴む。そして引き抜こうとするが、力の入りきっていない手で抜けるほどダガーの刺さりは甘くない。
「カナタ!落ち着いて。深呼吸」
俺は深く息を吸い吐き出す。そしてもう一度深く吸うと同時に手に力を込める。二度目はしっかりと手に力が込められていたのでうまくダガーが抜けた。
「ゔぁぁぁぁあ!!!!」
想像できないほどの痛みがユメを襲っているのだろう。ダガーが抜けるとユメは大声で叫ぶ。
「カイト、回復魔法を」
ホダカは傷口を圧迫し止血しながらカイトに指示を出す。
「光よ。彼の者を蝕む傷に奇跡を。
カイトの祈りは神の力を借りて奇跡を起こす。
ダガーによって穴が空きドクドクと血を流していた傷は、みるみるうちに塞がっていく。
「無くなった血は戻らないから、今日はもう戻った方がいい」
カイトはホダカにそう言って提案する。カイトの意見を肯定するように頷いたホダカは、また的確な指示を全員に出した。
「カナタ。敵に出会わないように誘導を頼む」
まだ自力で歩くことができないユメをカイトの背中に乗せながら、ホダカは俺にそう言ってくる。
「ホダカ……、俺、俺」
「大丈夫。誰も死んでない。またやり直せば良いんだ」
ホダカにトンッと胸を軽く叩かれ、少しだけ俺は冷静さを取り戻すことができた。
「ありがとう」
自然と口から出た言葉に、ホダカは微笑み「さぁ、戻ろう」と返す。
「回収、してきた」
リナセは
行きと同じルートだった為か、帰り道で他のモンスターに出会うことはなく、アンファンの街にまで帰ってくることができた。
ホダカは討伐の報告の為に、
「はぁぁぁぁ。疲れたなぁ……」
「お疲れ。初めての戦闘だったもんな、俺も……うん、疲れたよ」
カイトは女子の手前、色々と我慢していたのだろう。ユメを女子の部屋で背中から降ろして、リナセに「また、あとで」と見送られた後、男子の部屋に入るなりすぐに、盛大なため息をついた。
今日は本当に色々な意味で疲れた。
しばらくするとホームギルドからホダカが帰ってきた。
「ホダカおかえり」
「ただいま。これ今日の分け前ね」
ホダカはカイトと俺にそれぞれ袋を差し出す。俺はそれを受け取ると、ぐるっと簡単に縛られた紐を解いて中に入った硬貨を取り出した。
「……1シルバーと15カパー」
安い。命をかけたにしてはあまりにも安い。
ちなみに100カパーで1シルバー、100シルバーで1ゴールドとなる。この街の1番安い料理の
「レッサー・ゴブリン3体だとそんなもんだよ」
「そうだよな……節約しなきゃな」
俺はこの世界の世知辛さを知った気がした。
「ちょっと俺出かけるわ」
カイトはそれだけ言うと部屋から出ていった。
「カナタ。この後予定は?」
「んー、特にないかな」
「買い出ししてきたからご飯でも作らない?」
「まぁ……そうだな。ホダカ料理できるの?」
少し考えるそぶりを見せたホダカは、いたずらめいた顔をして言った。
「まぁ、カナタよりは?」
「あ!言ったな!」
わざとなのかどうなのかはわからないけど、今日のことで落ち込んでいた気持ちが、ホダカの言動で幾分かマシになった。
宿の食堂は、言えば誰でも使えるものだったので、俺とホダカはそこを借りて料理をしていた。すると。
「なんか良い匂いするなぁ思たら2人やったんか」
「私たちにも作ってほしい」
匂いにつられてユメとリナセも食堂に集まってきた。まだユメと目を合わせるのは少し気まずい。
「ちょっと多めに作ってるから2人の分もあるよ」
ホダカは鍋で白くトロトロしたものをかき混ぜながらそう答える。
「あれ?カイトどこ行ったん?」
「あー、なんか出かけてくるって……」
「そうなんかぁ。みんなで食べた方が美味しいのになぁ」
「もうすぐできそうなのに」
それにしてもカイトはどこに行ったんだろうか。ん?もうすぐできそう?なんで分かるんだ。
「って、2人ともお金も払わずにもらう気満々だったのかよ!」
「いや、それはカナタもだよ」
ホダカの正論に俺は「うっ……」と言葉を詰まらせつつ「それは、そうだけどさ」と言うだけで精一杯だった。
「まぁ今日は僕が奢るから、今度はカナタが奢ってね」
「食べきれないくらい奢るから覚悟しとけよ!」
ビシッと音が鳴りそうなくらいに勢いよくホダカに対して指を刺す。
ホダカは「期待してるよ」と笑顔で返してくれる。
「ウチも期待してるぞ」
「ん、私も期待してる」
「いや、どんだけ奢らされるんだよ!」
俺はツッコミを入れるが、こんな形でもユメと普通に話せたことが、拍子抜けしたというか、案外こんなもんかってくらいにしか思わなかった。今思ってみたら何をそんなに怖がっていたんだろうと不思議になるくらいだった。
「まぁ、それにはレッサー・ゴブリン程度一瞬で始末してもらわないとだね」
ホダカはまたしてもいたずらめいた顔でそう言う。
俺はなんとなくホダカとの関わり方がわかってきたように思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます