第3話 『実習』 


 やましんは、お手洗いが、近い位置にある。


 ぐっと、きたら、あまり我慢が効かない。


 お腹に、管が入っているためだろう。


 で、例によって、丑三つ時には、お手洗いが呼ぶのである。


 最近おうちの中には、転ばないようにするためもあり、かくし電灯がいくつか取り付けてある。(余談ですが、わがやは、かなりへんな設計で、肝心な場所に、なぜか電灯が適切にないのです。だから、そのままだと、危なくってしかたないので、補助灯を付けたのでした。)


 これらは、電池駆動なので、さきごろ、意味不明の停電があったときなども、その威力を発揮したものだ。


 しかし、明るいというよりは、やや明るいというのは、薄気味悪くなくもないのだ。


 また、お手洗いには、簡易型の暖房器も設置している。


 冬のお手洗いは、年寄りには、お風呂と並ぶ危険地域なのだ。


 つまり、真冬の真夜中にお手洗いに行くのは、戦場に赴くような様相があるのだ。(一枚、羽織ったらいかが?ということもある。)


 だからして、これ、年寄りには、わりにありがたい。


 おまけに、いささか調子のよくないラジオさんもある。


 だから、つい、うつうつ、と、しやすくもある。


 が、ま、やれやれ、と立ち上がり、ドアを開けたら、あの、薄暗いゆうれいさんが、ふたりいた。


 『あら。まだ、いついてますか。はやく、出て行かないと、危ないよ。』


 やましんは、そう言うと、ぼんやりと、2階に上がる。



 『また、無視されましたね。』


 『うん。まあ、これは、修行だから。』


 と、ゆうれいさんは話し合った。



 やましんが、2階に着いたとき、叫び声がした。


 『うわ。がぎゃあ〰️〰️〰️😃』


 『あら。でたか。でも、おかしいな。この時間には出ないはず。気になるが、関わらない方がいいか。しかし、こあ〰️〰️〰️😱。なにか、対策しよう、毎日だと、やっぱ、心配だし。』


 一階は、それで、一旦は静かになったのだ。




 それから、小一時間もたったであろうか。


 なにか、やたら、下の方がやかましい。


 『むむむ。やだなあ。でも、見に行こう。なんか、あの叫び声は、幸子さんぽい。この時間は、おいけ、営業中だろうに。』



 『不思議が池の幸子さん』は、池の女神さまである。


 神様ではあるが、鬼神さまだ。


 古墳時代後期には、生きている人間だったらしい。


 その後、やましんを、伝記作家に指名した、あの火星の、また、地獄の、女王ヘレナさまにより、不思議が池の女神さま、に封じられた。



 さて、やましんが階段を慎重に降りると、やはり、台所の電気が灯っていて、なかから、笑い声がする。


 そっと、ドアを開けた。


 『きゃあ〰️〰️、ははは。やっぱね〰️〰️〰️。わかるわあ。でも。ちょっと、これは、出方がまずくない? タイミング外してるし。あ、やましんさん、いらっしゃい。起こしたあ? ごめんなさい。なんか、意気投合しちゃって。』


 お饅頭や、お酒かっぷが、テーブルに乗りまくっている。


 テレビでは、オカルト番組が、流れている。


 『このかた、新人ゆうれいさんなんだって。こちらが、先輩さん。いま、ゆうれい学校の研修してるって。』


 『おじゃま、いたしております。』


 新人さんのほうが頭をさげた。


 『はあ。ども。でも、幸子さん、いまは、お池のほうが、営業時間だろ?』


 『ああ、金曜の晩は、お休みにしたんだ。ほらあ、オカルト番組があるから。ここで、見ようと思って。』


 『はあ。そう、れすか。』


 『あ、このふたり、お池の方に行ってみたいというから、連れてくから。ダイジョブだから。』


 『あ、そ、れすか。』



 幸子さんは、地獄の案内役でもある。


 不思議が池からは、地獄まで直行なのだ。


 ノルマも、かかっているらしい。


 ただし、幸子さんは、人助けするほうが多くて、成績は、あまり上がらない。


 そのかわり、ゆうれいさんを、地獄に送るほうが、多いようである。


 やましんは、ちょっと、気の毒のような気もしたのである。

 

 それ以来、このふたりは出てこない。

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